目次
●目次
まえがき
第Ⅰ部 子育て支援と心理学
第1章 発達心理学からの子育て支援
第1節 発達心理学のねらい
第2節 発達心理学から見た有効な子育て支援
第3節 発達上の問題と対応
◎もっと学びたい人のための読書案内
第2章 教育心理学からの子育て支援
第1節 教育心理学という学問
第2節 子育てに有効な教育心理学の知見
第3節 学習困難児への対応
◎もっと学びたい人のための読書案内
第3章 認知心理学からの子育て支援
第1節 認知心理学の考え方―熟達化=経験による学習
第2節 子どもの絵の見方(1)―保育の熟達者と素人の比較
第3節 子どもの絵の見方(2)―母親の子育て経験の効果
第4節 子育て支援への意味―認知的資源としての子育て経験
第4章 臨床心理学からの子育て支援
第1節 臨床心理学という学問
第2節 子育てに有効な臨床心理学の知見
第3節 子どもの問題行動への対応
◎もっと学びたい人のための読書案内
第5章 子育て支援と精神分析
第1節 子育て支援と精神分析の事始
第2節 母子関係の精神分析の理論
第3節 母子関係から父子関係への精神分析理論
第4節 子育て支援への精神分析的アプローチ
第6章 比較行動学からの示唆
第1節 比較行動学とは?
第2節 人間の発達に対する示唆
第3節 人間を養育する際の示唆
◎もっと学びたい人のための読書案内
第Ⅱ部 知っておきたい理論と知識
第7章 愛着理論と子育て支援
第1節 愛着理論とは
第2節 愛着研究から得られた子育て支援に有効な知見
第3節 子育て支援への愛着理論からの示唆
◎もっと学びたい人のための読書案内
第8章 ヴィゴツキー理論と子育て支援
第1節 ヴィゴツキー理論(発達の最近接領域)の概要
第2節 学校教育において目指される発達とは
第3節 教育実践へのヴィゴツキー理論からの示唆
第4節 まとめ
第9章 動機づけ理論と子育て支援
第1節 動機づけの分類
第2節 内発的動機づけと外発的動機づけ
第3節 子を産みたい(もちたい)という動機づけ
第4節 子を育てたいという動機
第10章 胎児期・新生児期の発達と子育て支援
第1節 胎児の発達
第2節 胎児に影響する要因
第3節 出産前後
第4節 新生児の発達
第5節 新生児と母親の関係
第11章 育児不安と子育て支援
第1節 育児不安とは
第2節 育児不安研究から子育ての実際を観る
第3節 育児不安への対応
第12章 子別れの心理学と子育て支援
第1節 子別れの心理学という視点
第2節 「教え導く」支援と「励まし見守る」支援
第3節 子どもの身体の役割
第4節 事故の問題
◎もっと学びたい人のための読書案内
第13章 里親養育と子育て支援
第1節 里親養育の特徴
第2節 里親研究から得られる知見
第3節 里親養育研究と子育て支援
◎もっと学びたい人のための読書案内
第14章 子育て支援の担い手としての保育士・幼稚園教諭
第1節 保育者・保護者がもつ保護者像
第2節 保育者の保護者への対応
第3節 望ましい保育者像とは何か
第15章 コンパニオンアニマルと子育て支援
第1節 コンパニオンアニマルとは
第2節 コンパニオンアニマルを飼育する利点
第3章 アニマル・セラピーは有効か
◎もっと学びたい人のための読書案内
引用文献
事項索引
人名索引
前書きなど
●まえがき
子育て支援の重要性が叫ばれるようになってかなりの年月が経ちました。1990年から今日までの子育て支援に関する施策はめざましいものです。しかし,依然として親による子どもへの虐待は増え続けていますし,子どもの暴力行為,とくに小学生の暴力行為が増えてきています。自らの感情をコントロールできない子どもが増えてきているというのです。これも子育ての問題と密接に関連した事象といえるでしょう。さまざまな施策が打ち出されても目立った効果が現れないのはどうしてなのでしょうか。もちろん,各地域に「子育て支援センター」「子ども家庭支援センター」が設置され,きめ細かい支援事業を展開していますので,その恩恵を受けている数多くの家庭があることも事実でしょう。にもかかわらず虐待が劇的に減少する傾向が見られないのには,これらの施策が全国的に浸透するには及んでいないということなのかもしれません。
たとえば,「こんにちは赤ちゃん事業」と呼ばれる,乳児家庭全戸訪問事業(生後4カ月までに全戸訪問する事業)などは画期的な試みだと思われますが,国の補助は半額で,半額は各地方自治体で負担しなければならないので,実際には手を上げる自治体が少ないというのが実情のようです。このようなことはあるにしても,1990年以前に比べれば,子育て支援にかかわる人々が飛躍的に増えてきていることも事実です。そして,これらの人々は有効な支援をしようと懸命な努力をしています。この本は,このような人々にとって少しでも役に立てばと考えて企画されたものです。
心理学は子育てと密接に関連した学問です。子育てと発達や問題行動との関連など,実証的な研究を通して数々の知見を提出しています。子育て支援にかかわっている臨床心理士,臨床発達心理士,学校心理士といった人たちは心理学を学び,基本的な心理学の知識をもっている人たちです。しかし,心理学は今や多くの領域に分かれています。心理学の専門家といえども,自分の専門分野以外は十分な知識をもっているとはいえないというのが普通でしょう。たとえば,臨床心理学には精通していても,発達心理学,認知心理学,教育心理学,学習心理学といった分野の知識は乏しいというのが実情でしょう。ところが,これらの分野から子育て支援に有効な知見が数多く示されているのです。心理学の専門家として子育て支援にかかわるのであれば,直接,親子とかかわる場合も,子育て支援に携わっている他の専門分野の人々へコンサルテーションを行なう場合でも,この本に示されているような知見は身につけておく必要があるでしょう。
もちろん,この本は心理士のためだけに書かれたものではありません。子育て支援にかかわるすべての人々に基本的な心理学の知識を提供することを目的に書かれたものです。医師,ソーシャルワーカー,保健師,助産師といった人たちはさまざまな組織を通して支援活動に従事しています。たとえば,「こんにちは赤ちゃん事業」が充実して全国的に展開されるようになったとき,誰が訪問するかという問題があります。心理士,ソーシャルワーカー,保健師が組んで訪問できれば理想的ですが,財政的にそのような組み合わせが実現することはないでしょう。
仮に,保健師がひとりで訪問するようなことがあった場合,保健師としての専門的な支援は十分にできるでしょうが,「この親子にはどのような支援が必要なのか」を見抜くためにはさまざまな角度から親子を見る視点が必要です。たった一度の機会を十分に生かすために,この本を活用してほしいのです。
これらの子育て支援活動に直接従事している人々のほかに,私たちがぜひ読んでほしいと思っている人たちがいます。それは保育士,幼稚園教諭,教師といった子どもの保育や教育に携わっている人々です。なかでも乳幼児と接している保育士,幼稚園教諭には子育て支援者として大きな期待を私たちはもっています。平成20年に改正された保育所保育指針,幼稚園教育要領には保育所,幼稚園の機能として「保護者支援」が明瞭に打ち出されています。保育士や幼稚園教諭には,子どもの発達を支えるだけでなく,その親の子育てを支える役割も果たしてほしいということなのです。そのためにはどうしても勉強が必要です。この本は子どもの発達を支え,親の子育てを支えるうえできっと役立つと思います。
もちろん,子育て中の親が読んでも自らの子育てにとって有用な本だと思っています。もっとも,この本の読者になるような親ならば,周りの親たちの子育てを支える側に立つ人々かもしれません。本当はそのような親同士で支えあう子育て支援がとても大事なのです。
本書は,総論と各論に分かれており,第Ⅰ部の総論では子育てに深くかかわる心理学の分野である発達心理学,教育心理学,認知心理学,臨床心理学と,これらの心理学と密接にかかわっている精神分析学と比較行動学をとりあげました。それぞれ膨大な知見が提出されている分野ですが,そのエッセンスが示されています。第Ⅱ部の各論では子育て支援に携わる人々にとって身につけておくことが望ましいと思われる項目をとりあげました。
多くの章でその分野での第一人者と目されている先生方に執筆をお願いしましたが,学位を取りたての新進気鋭の研究者にお願いした章もいくつかあります。執筆者は全員,私が所属している白百合女子大学で平成20年に立ち上げた,外に開かれた生涯発達研究教育センターの研究員です。子どもの発達を支え,親としての発達を支援していくという,まさに生涯発達の中枢にかかわる子育て支援書を世に出すことは,研究員一同の願いでもあります。
たしかに,本を読めば知識は得られるかもしれません。しかし,私たちは心理学の知識を振りかざして子育て支援をしてほしいとはまったく思っていません。きちんとした知識をもちながら,謙虚に,やさしい目を向けながら子育て支援に励んでほしいという気持ちを行間につめて書いたつもりです。この本が子育て支援にかかわる人々に少しでも役立ち,ひいては多くの子どもと親の幸せに寄与することができるとすれば,執筆者一同望外の喜びとするところです。
平成21年1月11日
繁多 進