目次
科学的とはどういうことか もくじ
はじめに
第1部 予想をたのしみ、やってみる話
卵を立ててみませんか 「コロンブスの卵」のその後
砂糖水でも卵は浮くか 一を聞いて十を知ることのむずかしさ
水の沸騰点は97℃?! 科学と実験の誤差のはなし
タンポポのたねをまいてみませんか 人間の管理下にない自然の姿
鉄1キロとわた1キロとではどちらが重い 自分でやってみないと信じられない不思議な実験
月はお盆のようなものか、まりのようなものか 遠い地球から眺めて手玉に取る
虫めがねで月の光を集める レンズで遊びましょう
シロウトと専門家のあいだ 科学を学ぶたのしさ、むずかしさ
第2部 うそとほんと、ほんととうその話
スプーン曲げ事件の反省 マスコミ操作に踊らされないための科学
意図的なインチキとは限らない 「科学者」でも忘れている科学の原則
コックリさんはなぜ動く 自己催眠のおそろしさ
だまされない方法はあるか 4月1日は「うそ・デマ予防の日」
ウソから大発見も生まれる 「うそを書け」という作文の授業もあっていいのでは
宇宙はタカミムスビの神がつくった?! 「建国記念日」特別講義
「超能力で当たった」という話 追試が出来なければ科学にはならない
おわりに
前書きなど
はじめに
「科学的に考えるとはどういうことか」、こう人びとに尋ねたら、じつにいろいろな答えがかえってくることと思います。
ある人たちは、「それは、ものごとを合理的に考えること、つまり理屈に合わないことは信じないことだ」ということでしょう。また、ある人びとは、「それは、事実にもとづいて考えることだ。経験を重んじ、経験的に考えることといってもよい」というでしょう。「理屈に合わないように思えることでも、それが事実なら受けいれることだ」と付け加えるかもしれません。そうすると、またある人びとはこういうでしょう。「科学的に考えるというのは、懐疑的に考えることだ。なんでも疑いをもって、そう簡単に受けいれない考え方だ」。
そうかと思うと、「科学的に考えるというのは、法則的・数学的に考えることだといってもいいのじゃないかな」という考えをもちだす人もいます。すると、「いや、実験的に考える、つまり、受け身でなく、いつも積極的に〈対象はどうなっているか〉と想像をたくましくして、予想をたて仮説(仮の説)をたててそれが正しいかどうかたしかめてみる。そういう考え方というか生き方が、科学的というんじゃないのかな」といった考えもでてくることでしょう。
こういう議論をはじめると、私にもいろいろ言いたいことがあります。しかし、そういうことを言葉の上だけで議論することは、私にはとても空しく思えて仕方がありません。私だってそういう話をしたことは少なくないのですが、「自分のいいたいことが伝わらない」「言葉が空虚にひびいて仕方がない」と思えたことがあまりにも多いからです。それはきっと、「科学的に考えたい」「科学的に考えられるようになりたい」という人はたくさんいても、科学のさまざまな側面を実感的に体験した人がとても少ないからではないか、私にはそう考えられるのです。
そこで、私は、読者の方々が手軽に実験してたしかめることのできるような素材を用意して、「科学的に考えるとはどういうことか」体験的に実感をもってとらえることができるように工夫したらどうだろう、と考えました。その結果、この本をまとめるようになったのです。そうはいっても、この本のもとになった文章は、朝日新聞社の教育雑誌『のびのび』に「いたずら博士の科学教室」「いたずら博士の談話室」と題して2年あまりの間にわたって連載されたものです。さいわい雑誌連載当時は、ふだん科学に関するものを読みなれないたくさんの人びとが愛読してくださいました。それらの読者の声援にも勇気づけられて、私自身としては、この試みはかなりの程度成功していると自負しているのですが、どうでしょうか。
ところで、この本は2部にわかれています。第1部の「予想をたのしみ、やってみる話」にとりあげた話題は、原則として、「こんなこと(実験)をやってみたらどうなるだろう」と読者の方々がいろいろ想像をたのしみながら、実験できるようにできています。これらの話は自分で実験をしなくても十分わかるように書き進められてはいますが、やはり自分自身で実験してみれば、やらなかったときよりはるかに大きな驚きや喜びを感ずることができるでしょう。もっとも、実験というものは、簡単な道具だけでできるものでも、やはりじっさいにやるのはおっくうなものです。そこで、家族や友だち、知人などに、この本にでてくる問題を、なぞなぞのようにしてでも、だしてみることをおすすめします。そうすると、話がはずんで、自然に実験するようにさそいこまれるようになることが多いと思うからです。それがうまくいったら、「科学的に考えるには、たのしい話し合いが大切だ」ということも、体験できるようになるかもしれません。
この本の第2部「うそとほんと、ほんととうその話」は、数年前に大きな話題になった超能力と科学に関する話に焦点をあわせて、「科学的に考えるとはどういうことか」を考えてみたものです。これは第1部の応用編の意味もあるといってよいでしょう。いまのところ超能力ブームは少し下火になっているようですが、底流としてはなかなかあなどれない力をもっているようにも思えます。ご検討のほどおねがいします。
板倉聖宣