紹介
▼早くて,便利で,サービスも行き届いた交通とは?
生活者の価値観を把握し,社会的に必要な技術の質と量を探り,技術を適切に波及させるための制度を構築すれば,市民,交通関係事業者,行政の三者がWin-Winの関係を築ける。
さまざまな問題や課題をかかえる現在の「交通」。本書は,近未来の交通のあり方を考える。
交通は人と人を交わらせて,われわれが物・情報・場を得ることを支援し,人と人の交際や付き合いを深め,幸福度=福祉度を高める役割を担っている。どんなに技術が向上して交通分野のサービスの機械化・自働化が進んでも,福祉的視点から人間味があふれて誰もがそれを深く感じられるサービスが必要である。
人類の幸福度を上げるためには,モビリティを汎用的にしっかりと確保し,ホスピタリティの質的な向上を果たすことが,当面のひとつの重要な社会的目標になるだろう。筆者は,モビリティ+ホスピタリティで「モビタリティ学」という学問をつくり,移動権を着実に確保しホスピタリティレベルの高い社会につなげる新学問を提唱している。
本書では,高い技術力と深い人間味にあふれるモビタリティ学の実践事例を紹介し,価値観・技術・制度のバランスを考えた現実的な交通のあり方を皆さんと共有したい。
(「はじめに」より)
目次
はじめに
第1章 近未来の交通運輸環境の問題点
1.1 障がいをもつ立場から見たさまざまな現代交通の問題点
1.2 車輌の乗り降りのしにくさ
1.3 ターミナルや建物内の移動のしにくさ
1.4 情報のわかりにくさ
1.5 車輌の中での居心地の悪さ
1.6 運賃の支払いにくさ
1.7 荷物や子どもを抱えての移動の負担
1.8 介助する立場の負担と限界
1.9 公共交通運輸環境への理解を深める教育の限界
1.10 現代交通の問題点に基づく近未来の国内交通を見るための視座
第2章 近未来の公共交通に求められるもの
2.1 少子高齢化と国際化への対応
2.2 ユニバーサルデザインの推進
2.3 エコデザイン化の推進
2.4 公共交通環境の国際標準化とその推進に向けた提案
2.5 効果的で効率的な公共交通とモビタリティ社会の創造へ
第3章 モビタリティ社会創造に向けた実例
3.1 電動低床フルフラットバス
3.1.1 フルフラット化が難しかったこれまでのバス
3.1.2 電車のモーター車のような新しいバスの発想
3.1.3 試作の概要
3.1.4 電動低床フルフラットバスの導入効果
3.1.5 電動低床フルフラットバスの検証と利用者・市民の評価
3.1.6 電動低床フルフラットバスへの運転手側の評価
3.1.7 電動低床フルフラットバスへの経営者側の評価
3.1.8 電動低床フルフラットバスへのメーカー側の評価
3.1.9 将来の展開と応用の可能性
3.1.10 まとめ
3.2 病院などの屋内を対象にした一人乗り用電動自動運転車
3.2.1 病院内での移動が大変な高齢者・障がい者
3.2.2 看護者の移動支援負担の増大
3.2.3 試作の概要:自動運転技術と電動車技術の融合
3.2.4 電動自動運転車の検証と患者の評価
3.2.5 電動自動運転車の検証と当該分野専門家による評価
3.2.6 まとめ ―― 将来の展開と応用可能性
3.3 電動バンを用いた農都共生支援システム
3.3.1 JAの直売所の隆盛と農家の高齢化
3.3.2 野菜の搬入と搬出の支援の必要性
3.3.3 青果物エコ搬送システムの実際
3.3.4 農業と都市生活者を結ぶ情報共有システムの概要と設計
3.3.5 青果物エコ搬送システム・実証実験の評価
3.3.6 まとめ
3.4 IoTタグを用いた新しい交通運輸情報サービス
[執筆 東 陽一]
3.4.1 QRコードの隆盛とIoTタグ
3.4.2 IoTタグのインフラコード「ロゴQ」
3.4.3 IoTタグを使った想定される交通サービス
3.4.4 将来の展開と応用の可能性
3.5 小型無人飛行機・ヘリコプターによる社会サービス
[執筆 松田篤志]
3.5.1 無人の飛行機・ヘリコプターへのニーズと課題
3.5.2 無人航空技術の現状
3.5.3 小型無人航空機を有効活用したサービス
3.5.4 将来の展開と応用の可能性
第4章 近未来の交通運輸サービス
4.1 建物の中に車輌が入る社会
4.2 医療の質を高める交通運輸サービス
4.3 自動運転技術がもたらすもの
4.4 公共交通車輌を変える蓄電池技術
4.5 海外技術の流入による変革
おわりに
索 引