紹介
<TPP参加の最重要イシューは『人の国際移動』!>
▼2013年2月、安倍首相はTPP参加へと大きく舵を切った。国内では、産業保護政策との関連でとかく「モノ」の移動が注目されがちだが、日本社会に最も大きなインパクトを与えるのは、「人の国際移動」である。
▼経済面を見ると、TPP参加は、一方で生産年齢人口の減少に伴う労働力輸入、他方で日本人労働者の雇用確保というジレンマに加え、アジア諸国間での「トップ人材争奪戦」が本格化し、それが各国の国際競争力を左右する時代が到来することを意味する。
▼しかし、政治面・社会面を見ると、話はそれだけにとどまらない。流入した多文化・多国籍からなる人々と、どのように共存し、より豊かな社会を築いていくべきなのか。政府による中長期的ビジョンの提示と国民の広範な合意形成が不可欠なのはもちろんだが、地方自治体にとっては具体的かつ眼前の 問題でもある。
▼これに対し、本書は、国内外の詳細なフィールドワークの積み重ねから、具体的政策課題を抽出する。「多文化共生社会」は単なる耳触りのよい桃源郷思想ではなく、政治・経済・社会分野を横断する21世紀日本の喫緊の課題であることが明らかにされる。
目次
はじめに――本書刊行まで 吉原和男
序章 日本から考える「人の国際移動」 吉原和男
一、現代日本における少子化と外国籍住民の増加を考える視点
二、アジアの中の日本
三、本書がめざすところ、そして「移民」という用語
四、本書の概要
第1部 人の国際移動と日本
第1章 多文化社会の将来に向けて――ノルウェー事件と日本
関根政美
はじめに
一、移民国家と非移民国家
二、移民国家と非移民国家の収斂と分散
三、アンネシュ・ブレイビクが理想とする日本
四、多文化主義の成功と失敗
おわりに
第2章 近現代日本における外国人概念の変遷――明治初期から現在まで
浅川晃広
はじめに――「移住」と「国籍」のズレ
一、明治前期の「外国人」――開国から内地雑居まで
二、戦前期における「外国人」――「内地雑居」から敗戦まで
三、戦後における「外国人」概念の変化
四、「移住者」としての外国人の増加
おわりに
第3章 現代日本における入国管理政策の課題と展望 明石純一
はじめに
一、日本の入国管理政策――政策批判から看取できること
二、2009年の入管法改正と近年の政策提言
三、入国管理の機能特性――労働者の受入れと国際比較の視点から
おわりに
第4章 モビリティ・スタディーズから「移民の社会学」へ 吉原直樹
はじめに
一、「移民社会学」の原風景――初期シカゴ学派と遷移地帯の物語
二、「移民社会学」へ/から(1)――グローバルとローカルとのはざ
まで
三、「移民社会学」へ/から(2)――ポストコロニアルの地平
おわりに
第2部 アジアから日本へ
第5章 地域社会を通じて見た外国人技能実習制度
――北海道稚内市の事例を中心に 小林真生
はじめに
一、制度形成の経緯および概要
二、稚内市の技能実習生をめぐる状況
三、外国人技能実習制度の課題
四、課題改善に向けて
おわりに
第6章 「中国系」住民と日本人住民との「融合的コミュニティ」構築に
向けて
――京都府N団地自治会の取り組みを事例として 奈倉京子
はじめに
一、「X区」地域、N団地の概要と特殊性
二、住民の特徴と住民間の関係
三、自治体の取り組みから見る「共生」のための努力と課題
おわりに
第7章 東アジア圏内で展開する中華系キリスト教
――移動と宗教という観点から 藤野陽平
はじめに
一、在日中華系キリスト教の概要
二、独立系教会の東アジア展開――真耶穌教会を事例として
おわりに
第8章 戦後における琉球華僑をめぐる記憶と忘却
――「石垣市唐人墓建立事業」を事例に 八尾祥平
はじめに
一、「正史」としての「石垣市唐人墓建立事業」
二、琉球華僑にとっての「石垣市唐人墓建立事業」
おわりに
第9章 「ムラの国際化」再考――山形県在住の韓国人妻の事例から
柳 蓮淑
はじめに
一、日本の農村で国際結婚が増える背景
二、なぜ日本の農村に結婚移住するのか――「文化的逃避・避難」者としての韓国人女性
三、結婚直後の地位とジェンダー関係の再編のための交渉
四、「戸沢流キムチ」の誕生と高麗館、韓国人妻
おわりに
第10章 沖縄における「フィリピン・ウチナーンチュ」の「帰還」移動
――移動の交差する場所 ジョハンナ・ズルエタ
はじめに
一、沖縄という場所――ホスト社会としての沖縄
二、越境する沖縄――フィリピンへの移動
三、一時的なプロセスとしての「帰還」
おわりに
第11章 新日系フィリピン人の現状――日比の比較を通して
橋本直子
はじめに
一、「新日系フィリピン人」(JFC)とは
二、JFCおよびその母親が直面している問題
三、JFCへのアンケート調査――日比間の比較
四、JFCへのアンケート調査――日本在住JFCの中での比較
おわりに
第12章 在日ビルマ系難民の移住過程
――市民権・雇用・教育をめぐる諸問題 人見泰弘
はじめに
一、ビルマ系難民の移住背景
二、調査の概要
三、難民政策と市民権の享受
四、「外国人労働者」としての移民労働市場への参入
五、難民二世と学校教育
おわりに
第13章 在日ムスリムコミュニティと東日本大震災被災者支援
倉沢 宰(サイエド・ムルトザ)
はじめに
一、ソーシャル・キャピタルの視点
二、在日ムスリム人口
三、在日ムスリムに関する先行研究
四、在日ムスリムコミュニティの特徴
五、大塚モスク
六、東日本大震災被災者支援活動
おわりに
第3部 比較の視点から考える日本
第14章 日本への中国国費留学生の進路選択
――改革・開放初期の学部留学生へのインタビュー調査を通じ
て 王雪萍
はじめに
一、改革・開放初期の中国政府の日本への国費学部留学生の派遣政策
二、中国人国費学部留学生の留学終了後の進路選択
おわりに
第15章 台湾における多文化主義の変容
――婚姻移民の増加と変容する「血」のメタファー
横田祥子
はじめに
一、台湾の多文化主義の系譜
二、婚姻移民への支援政策
三、変容する「血」のメタファー
おわりに
第16章 ニューヨーク市のコリアンタウンにおける民族関係の再構築
――クイーンズ区フラッシング地区を事例に 魯ゼウォン
はじめに
一、ニューヨーク市における移民集団人口の推移
二、ニューヨーク市における韓人人口の推移
三、フラッシング地区における人種別人口の推移
四、コリアンタウンとしてのフラッシング地区
五、コリアンタウンに定着する朝鮮族
六、朝鮮族の民族組織の形成過程と役員の意識
七、韓人社会から見た朝鮮族
おわりに
第17章 韓国における多文化社会化の進行と移民政策の現状
李 姃姬
はじめに
一、移民政策の転換
二、移民の送出国から受入れ国へ
三、韓国における「多文化社会」の現状
四、李明博政権の移民政策
おわりに
第18章 タイ国ラノーン県のミャンマー人移民
――不安とともに生きる 石高真吾
はじめに
エピソード:紙飛行機少年モンの話
一、地理的・歴史的背景
二、フィールドの位置づけ
三、なぜ越境移民がタイへ?
四、制度面――法律
五、ラノーン――タイ人よりもミャンマー人の多い国境の町
六、問題と対策
おわりに――日本とのかかわり
第19章 オランダ領東インドにおける日本人社会の終焉 倉沢愛子
はじめに
一、戦争の勃発と蘭印の定住型邦人
二、敗戦と日系二世の運命
三、蘭印への「帰国」後の運命
おわりに
第20章 在日ペルー人コミュニティとカトリック教会 寺澤宏美
はじめに
一、宗教行事「奇跡の主」
二、名古屋市・緑ヶ丘教会における活動事例
おわりに
第21章 外国人支援から見る現代日本の「移民と宗教」
――在日ブラジル人とキリスト教会を中心として 高橋典史
はじめに
一、日本における移民と宗教をめぐる研究状況
二、地域社会における「移民と宗教」――静岡県浜松市を一例として
三、各地のカトリック教会による移民支援
おわりに
あとがき 吉原和男
索 引
執筆者紹介