紹介
ヌスバウムの代表作の翻訳。▼現代のアメリカを代表する哲学者、マーサ・C・ヌスバウムの主著の一つ、Hiding from Humanity: Disgust, Shame, and the Law, Princeton University Press, 2004 の翻訳。アメリカ出版社協会(AAP)最優秀専門・学術図書賞受賞。▼ヌスバウムの著作は、日本では3冊(『国を愛するということ』(2000年、人文書院)、『クオリティー・オブ・ライフ—豊かさの本質』(里文出版、2006年)、『女性と人間開発—潜在能力アプローチ』(岩波書店、2005年)の翻訳が刊行されており、近年はアマルティア・センとの共同研究者としても知られる注目の著者。▼公平ではあるが無情でもある理性の秩序として捉えられてきた「法」。これに対し、ヌスバウムは、「法」をある社会の成員が共有すべく求められている「感情」の表現としてとらえ、法の基盤としてふさわしい「感情」とはどういうものかを検討する。▼差別意識を助長する「嫌悪感」と「羞恥心」など少数派の排除につながる「感情」を明らかにし、そこからフェミニズムや共同体主義とは異なる視点から、リベラリズムへの新たな視座を提供する大著。
目次
謝辞序章 第1節 恥辱と嫌悪感——実践と理論における混乱 第2節 感情なき法? 第3節 二つの問題ある感情第1章 感情と法 第1節 感情に訴える 第2節 感情と信念、感情と価値 第3節 感情、値踏み、そして道徳教育 第4節 感情と「常識人」——故殺と正当防衛 第5節 感情と社会規範の変革 第6節 理に適った共感——刑事判決における同情 第7節 感情と政治的リベラリズム 第8章 感情の評価の仕方第2章 嫌悪感と私たちの動物的身体 第1節 嫌悪感と法 第2節 嫌悪感に法的役割を認める議論——デヴリン、カス、ミラー、カハン 第3節 嫌悪感の認知内容 第4節 嫌悪感と憤り 第5節 投影的嫌悪感と集団の従属 第6節 嫌悪感、除外、文明化第3章 嫌悪感と法 第1節 不法行為としての嫌悪感と判断基準としての嫌悪感 第2節 嫌悪感と犯罪者——「同性愛という挑発」を用いた抗弁について 第3節 嫌悪感と「平均的な人間」——わいせつ性について 第4節 嫌悪感は不法行為の根拠となるか——ソドミー、屍姦の場合 第5節 嫌悪感と生活妨害法 第6節 嫌悪感と陪審員——「恐ろしく、非人間的な」殺人行為第4章 顔の刻印——恥辱とスティグマ 第1節 顔を赤らめること 第2節 原初的羞恥心、ナルシシズム、および「黄金時代」 第3節 不完全性の拒絶——Bの場合 第4節 恥辱とその縁戚——屈辱と狼狽 第5節 恥辱とその類縁的感情——嫌悪、罪悪感、抑鬱、激怒 第6節 建設的な羞恥心とは何か 第7節 スティグマと烙印——社会生活における恥辱第5章 市民を恥じ入らせること? 第1節 恥と「促進的環境」 第2節 恥辱刑——尊厳とナルシスティックな怒り 第3節 恥と「モラル・パニック」——ゲイ・セックスと「アニムス」 第4節 モラル・パニックと犯罪——ギャングうろつき禁止法 第5節 別の道筋によるミルの結論第6章 恥辱から市民を守る 第1節 促進的環境を作る 第2節 恥辱とまともな生活水準 第3節 差別禁止、ヘイト・クライム 第4節 恥辱と個人のプライバシー 第5節 恥辱と障害を持った人々第7章 隠すことなきリベラリズム? 第1節 政治的リベラリズム、嫌悪感、そして恥辱 第2節 ミルの自由擁護論に対する再考 第3節 嫌悪感および恥辱に向けられる異論 第4節 感情およびリベラリズムの形態 訳者解題 石田京子 訳者あとがき 河野哲也 判例 参考文献 訳註 原註 索引