紹介
不安や抑うつ,怒りや悲しみの軽減だけではなく,患者が本来もっている「健康的な側面」や「将来に対する前向きな態度」をもう一度活性化させるためにはどうすればよいのか,体系的に解説。患者の成育歴・社会的背景を考慮したセラピーの展開方法や,進行・終末期患者への適用,遺族へのアプローチなど,実践的な内容も網羅。
◆【訳者一覧(執筆順)】
鈴木 伸一 早稲田大学人間科学学術院 はじめに,序文, 第1章,第17章
小川 祐子 早稲田大学大学院人間科学研究科 はじめに,序文, 第7章,第15章,付録
尾形 明子 広島大学大学院教育学研究科 第2章
武井 優子 宮崎大学医学部付属病院小児科 第3章
松岡 志帆 東京医科歯科大学大学院心療緩和医療学分野 第4章,第13章
上田 淳子 国立がん研究センター東病院 第5章
堂谷 知香子 国立がん研究センター中央病院 第6章
市倉 加奈子 東京医科歯科大学大学院心療緩和医療学分野 第8章
筒井 順子 東京女子医科大学神経精神科 第9章
古賀 晴美 千葉県がんセンター 第10章
竹内 恵美 慶應義塾大学病医院緩和ケアセンター 第11章
五十嵐 友里 埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック 第12章
小林 清香 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 第14章
佐々木 美保 比治山大学現代文化学部社会臨床心理学科 第16章
付録訳協力:長谷川 由美・原 沙彩(早稲田大学大学院人間科学研究科)
目次
監訳者まえがき
はじめに
序 文
第Ⅰ部 がんの心理学
第1章 がん患者が日々感じていること
1.正しい診断が必要とされる
2.不安とうつ
3.関係性の障害
4.性機能不全
5.一過性の混乱状態
第2章 がんへの適応に関する認知モデル
1.生きることへの脅威
2.自己への脅威
3.がんにおける情報処理
4.家族や友人の役割
5.適応障害への脆弱性
6.まとめ
第3章 認知行動療法は生活の質を改善できるのか
1.個人を対象とした認知行動療法
2.補助的心理療法の無作為化比較対照試験
3.集団心理教育
4.集団認知行動療法
5.電話療法
6.進行がん
7.メタ分析
8.その他の共通する問題に対する認知行動療法
9.不眠と倦怠感
10.痛み
11.まとめ
第4章 心理療法は生存期間に影響を与えることができるのか
1.SpiegelとFawzyによる研究の追試的研究
2.割り付けは適切であるか
3.まとめと結論
第5章 セラピーの概要
1.がん医療における心理社会的介入の位置づけ
2.補助的心理療法の理論的背景
3.セラピーの目標
4.セラピーの構造
5.セラピーの構成要素
6.セラピーフェーズ
7.補助的心理療法の解説
8.実践上の配慮
第6章 セラピーセッション
1.治療的関係
2.補助的心理療法の構造
3.その後のセッションの構造
4.まとめ
第7章 補助的心理療法における感情体験とその表出
1.ネガティブな感情からの回避
2.ネガティブな感情の抑圧と表出
3.感情表出の価値
4.感情処理か問題解決か
5.感情表出促進の適用
6.問題焦点型の介入の適用
7.感情表出の促進
8.否認に働きかける
9.怒りの表出を促し導く
10.まとめ
第Ⅱ部 がん患者に対する認知行動療法
第8章 行動的技法
1.リラクセーション・トレーニング
2.活動スケジュール
3.活動スケジュールの機能
4.活動スケジュールを使う
5.段階的な課題設定
6.将来のための計画
7.行動実験
8.不安にとらわれた患者への行動的技法の活用
9.無力感/絶望感を抱えた患者への行動的技法の活用
10.行動的技法の将来的適応
11.まとめ
第9章 認知的技法I――ベーシックな認知的技法
1.認知的技法の適用
2.思考と信念を評価するための基本的な方法
3.他の認知的技法
4.まとめ
第10章 認知的技法Ⅱ――不安と抑うつ状態への取り組み
1.不安にとらわれている患者への認知的介入
2.再発不安に対する全体的な方略
3.無力感/絶望感を感じている患者への認知的介入
4.認知的行動療法の実際
5.まとめ
第11章 日常的な問題への認知的・行動的技法の展開
1.怒りや自己非難を取り扱うこと
2.不眠
3.倦怠感
4.痛み
5.嘔気
6.まとめ
第12章 がんを人生の中で捉える――中核にある信念と思い込みに働きかける
1.個人の信念とがんへの適応
2.ポジティブな中核信念とネガティブな中核信念
3.条件つき信念と補償方略
4.中核信念とパーソナリティ障害
5.病気と困難についての信念
6.発達的概念化
7.発達的概念化を一緒につくり上げる方法
8.家族歴
9.生活歴
10.全般的な対処スタイル
11.致命的な病気が信念と影響しあう4つの観点
12.思い込みと中核信念に取り組む
13.病気についての信念に取り組む
14.まとめ
第13章 夫婦への取り組み
1.心を開いたコミュニケーションの促進
2.認知的技法
3.共同セラピストとしての配偶者
4.性機能障害の治療
5.まとめ
第14章 進行性または終末期の疾患における認知行動療法
1.身体症状の心理学的な影響
2.生活の質を改善する
3.「現実的な」否定的自動思考を扱う
4.ファイティング・スピリットとポジティブな回避を促進する
5.緩和/ホスピスケアの一部としての補助的心理療法
6.終末期
7.死に直面する
8.ファイティング・スピリットと受容
9.カップルを扱う
10.心理的障害の器質因
11.まとめ
第15章 看病をしていた遺族や近親者における遷延性悲嘆障害
1.有病率
2.遷延性悲嘆障害のリスク要因
3.幼少期における死別と分離不安
4.遷延性悲嘆障害の治療
5.有用なガイドライン
6.まとめ
第16章 集団療法
1.個人療法 vs. 集団療法
2.集団療法における異なるモデル
3.集団療法における共通項
4.セラピーを行なうべき患者とは
5.実際的な問題
6.集団療法の比較
7.まとめと結論
第17章 結論
□付録1 がんと向き合うための対処法
□付録2 認知のゆがみ
□付録3 1週間の生活スケジュール
□付録4 思考記録表
□付録5-1 Mental Adjustment to Cancer Scale(MACS)
□付録5-2 Cancer Coping Questionnaire(CCQ:21項目版)
□付録5-3 Cancer Concerns Checklist
文 献
索 引
前書きなど
Moorey, S.とGreer, S.によって書かれた本書は,2002に出版された本の第2版である。初版は,認知行動療法をがん患者の心理社会的な問題にどのように適用しているかを体系的にまとめた解説書として注目されたが,本書はその後約十年の様々な研究や臨床実践内容を踏まえて改訂された内容になっている。本書は二部構成になっており,第一部はがん患者が抱える心理的問題の詳細やそれらを構造的に理解するための認知行動モデルが紹介され,それらの問題の解決に認知行動療法がいかに貢献できるかが述べられている。第二部は,がん患者への認知行動療法プログラムの概要,構成要素,背景理論とそれに依拠した技法の詳細が解説されている,また,後半では,個々の患者の成育歴や社会的背景を考慮したセラピーの展開方法や,進行・終末期患者への適用,グループや配偶者,あるいは遺族へのアプローチなど,セラピーの実践的な内容も網羅されている。
いずれの章においても一貫して述べられている理念は,患者の不安や抑うつ,怒りや悲しみといった心理反応を軽減することに留まるのではなく,がんという病気がもたらす個々の患者の主観的イメージ(認知)を理解するとともに,その認知を維持させている生活行動上の問題を明らかにし,それらの悪循環を解消することを通して,その患者が本来もっている健康的な側面や豊かな人間関係,さらには人生の価値や将来に対する前向きな態度をもう一度活性化させていくという発想である。この発想こそ,がん患者が求めている本質的なサポートであり,新たながん対策推進基本計画が目標とする「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」の基軸になるべき方向性であると考えられる。
本書の発想や方法論が,日本の日常的ながん医療に普及するとともに,がん患者のメンタルヘルスを担う専門家のガイドブックとして活用されることを心より期待したい。
(本書「監訳者まえがき」より引用)