目次
第1部 実践編
第1章 森のようちえん活動をはじめました 今村光章
1 行事型森のようちえん活動に至るまで
2 ぎふ☆森のようちえんの活動の経緯
3 融合型森のようちえん活動のサポート
コラム1 「いま、ここ」にいのちの源流を 嘉成頼子
コラム2 始動したばかりの森のようちえん活動 渡辺玲・細川志保
第2章 森のようちえんを旅して 西澤彩木
1 森の子どもたち
2 森の大人たち
3 森のようちえん旅日記
4 森のようちえんの旅を通して
コラム3 信じて待つ 浅井智子
コラム4 仲間と楽しむ自然のなかでの子育て 小林直美
第3章 ドイツの森のようちえんを訪れて 水谷亜由美・今村光章
1 「森のようちえん ベンスハイム」の体験報告
2 卒園児対象の森のようちえんと二歳児対象の活動
3 ドイツの森のようちえんから学んだこと
コラム5 ドイツの森のようちえんを支える仕組み 東方真理子
第4章 森のようちえんの広がりと深まり 木戸啓絵
1 ドイツの森のようちえん
2 日本の森のようちえんとの比較
3 森のようちえんとシュタイナー教育およびホリスティック教育とのつながり
コラム6 森のようちえんを運営する! まるたんぼうの場合 西村早栄子
コラム7 くじら雲のこれから 依田敬子
第2部 理論編
第5章 森のようちえんの歴史と理念 今村光章
1 用語「森のようちえん」の由来とその意味
2 日本への森のようちえんの紹介
3 ドイツにおける森のようちえんの歴史と理念
4 日本における森のようちえんの歴史と理念
第6章 森のようちえんの意義を考える 今村光章
1 森は最高の保育現場…自由な時空と無制約なかかわり
2 遊びこむ体験への扉をひらく…溶解体験で世界と一つになる経験
3 人間になる教育と「動物性」を再認識する教育
あとがき 本当は秘密にしたい森のようちえんのおいしさ
執筆者一覧
前書きなど
年間を通して定期的に同じ森へ出かけ、基本的には自由保育とする活動を、「森のようちえん」と称する。ただ、森での活動の頻度はさまざまである。1年じゅう野外保育をしている園もあれば、月に数回という団体もある。保育内容も自由保育に限らない。その特徴をとらえて、園舎をもたない幼稚園であるとか、壁やドアのない幼稚園として紹介されることもある。だが、園舎を有するところもある。ともあれ「森のようちえん」とは、自然が豊かな広々とした空間で、ゆっくりと時間を過ごし、自然のなかで子どもの自主性を大切にすることを軸にした保育のあり方である。既存の幼稚園教育と対立するものではない。
もちろん、運営の形式によって多彩なタイプがある。保護者を含む自主的なグループが通年で運営する自主保育の形式である通年型森のようちえんもあれば、園外活動の1部に森のようちえん活動を取り入れている幼稚園や認可型保育所である融合型森のようちえんもある。自然学校や任意団体が行事で実践する行事型森のようちえんもある。また、一口に森のようちえんといっても、保育内容は多彩である。
それでも多くの共通点がある。まず、定期的に森や自然が豊かな場所に子どもとともに出かける。それもたいてい決まった場所で活動する。そして、寒い日も暑い日も雨の日も雪の日も、よほどの荒天ではないかぎり活動する。同じ場所に年間通じて出かける活動を続けると、四季折々の自然の変化やリズムを知ることができる。五感を働かせて自然の動きを感じ取り、自由な遊びを行う時間を大切にすることも可能になる。そして子どもの安全確保のために、保護者の積極的な関与が必要になる。
このような森での保育の活動は、1950年代にスウェーデンやデンマーク、ドイツで生まれ、いま、欧米や韓国や中国をはじめ、急速に世界各国に広がりつつある。
こうした広がりを受けて、日本では2005年から、森のようちえんの関係者らが集う「森のようちえんフォーラム」がはじまった。2010年には400名を超える参加者が全国各地から山梨県の清里に集まった。このフォーラムでは、森のようちえんをはじめたいという意欲にあふれる参加者が、すでに森のようちえん活動を実践している参加者の話を食い入るように聞きいる。子どもを森のようちえんへ通わせたいと願う親たちは、幼い子どもの手を引きながらメモを取る。幼稚園と保育所の関係者らも、もう一つの幼児教育のイメージを求めて、熱のこもった議論に参加する。森のようちえんにはいま、熱いまなざしが注がれている。
本書の目的は、森のようちえん活動に興味をもっていただくことである。そこで、日本における森のようちえんの実践を報告し、その成果と課題を検討する。ドイツの森のようちえんの紹介も行い、森のようちえん活動の意味について考察する。さらに、幼児教育と保育の関係者や研究者にもこの活動の意義を再考していただく契機も提供する。