紹介
古典文の解釈文法の確立を目指す著者による百人一首の解説書。百人一首歌について、古注の諸説を整理した上で、語学の立場から改めて解読する。その過程で、著しい進展を見せている古典文法研究の最新の知見を、易しい語り口で縦横に解説した。百人一首歌には、その構造を示すため、句読点を付した。和歌の表現史についても極力留意する一方で、歌人伝に関するものは一切扱わない。まさに語学者による異色の百人一首本といえる。
【著者紹介】
國學院大學文学部教授。日本語学専攻。主著に、『実例詳解古典文法総覧』(和泉書院、2015)、『読解のための古典文法教室』(和泉書院、2018)、『旺文社全訳古語辞典[第五版]』(共編、旺文社、2018)、『古代日本語文法』(ちくま学芸文庫、筑摩書房、2020)など。
目次
凡例
百人一首
1 秋の田の仮庵の庵の苫をあらみ、我が衣手は露に濡れつつ。 天智天皇
2 春過ぎて、夏来にけらし。白妙の衣干すてふ天の香具山。 持統天皇
3 あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む。 柿本人麿
4 田子の浦にうち出でて、見れば、白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ。 山辺赤人
5 奥山に黄葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ、秋はかなしき。 猿丸大夫
6 鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば、夜ぞ更けにける。 中納言家持
7 天の原ふりさけ見れば、春日なる三笠の山に出でし月かも。 安倍仲麿
8 我が庵は都の辰巳、しかぞ住む。世を宇治山と人は言ふなり。 喜撰法師
9 花の色は移りにけりな、いたづらに。我が身世にふるながめせし間に。 小野小町
10 これや、この、行くも帰るも別れては、知るも知らぬも逢坂の関。 蟬丸
11 「わたの原、八十島かけて漕ぎ出でぬ」と、人には告げよ。海人の釣り舟。 参議篁
12 天つ風、雲の通ひ路吹き閉ぢよ。乙女の姿しばしとどめむ。 僧正遍昭
13 筑波嶺の峰より落つるみなの川、こひぞつもりて淵となりける。 陽成院
14 陸奥のしのぶ捩摺り、誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに。 河原左大臣(源融)
(以下略)
索引[初句・事項・引用文献著者名]