紹介
『源氏物語』五十四帖は、一息に書かれたものではない。
複雑な成立事情を持っていることはよく知られている。短編、中編として書かれていたものを途中から長編に組み入れたために、始めの方の巻々には、特に問題が多く、論争の種となっていた。名古屋の「源氏の会」で、四十五年間にわたって読み込み、考え抜き、講義して来た著者が、いまその真相に迫ろうとする。紫式部の庖厨には、何があったか、その執筆の環境はということに思いを馳せ、一貫して「伏線」と「芽」という視点を通して解明しようとする。
紫式部の周辺には、すでに物語の書ける女房もいくらもいた。いくつかの巻は、紫式部工房での競作に成るのではないか? かつて盛んであったが、いまは下火になっている成立論の論議に、あえて挑戦する。
七十年来、日本文学の研究に広く深く関わって来た著者が、最後に世に問う!
目次
一 はじめに―『源氏物語』と私―
二 作品の成立と諸伝本―成立論のために―
三 『源氏物語』成立論への興味
四 短編から長編へ―伏線と芽―
五 最初に書かれたのは「若紫」か―帚木三帖と「若紫」と―
六 「末摘花」から見えるもの
七 「桐壺」はいつ書かれたか
八 最初の長編化への道―「葵」「賢木」から「須磨」へ―
九 明石の物語の発端―「明石」から「澪標」へ―
十 「蓬生」と「関屋」―もしかすると紫式部の筆ではないかも―
十一 明石の物語の展開と藤壺崩御―「絵合」「松風」「薄雲」―
十二 「朝顔」の位置―前斎院朝顔という女君―
十三 終結と持続の意識の交錯―「少女」―
十四 玉鬘十帖の構成
十五 第一部の終結―「梅枝」から「藤裏葉」へ―
十六 「若菜」はなぜ長いのか
十七 「若菜上」を読む
1 「若菜上」の冒頭部
2 女三の宮の降嫁と紫の上
3 玉鬘と朧月夜尚侍
4 源氏の四十の賀
5 明石の物語の終焉
6 女三の宮をめぐる夕霧と柏木
7 六条院の蹴鞠の遊び
十八 「若菜下」の諸問題
十九 柏木の遺言―柏木・女三の宮の密通物語の終焉「柏木」―
二十 「その笛は、ここに見るべきゆゑあるものなり」―「横笛」―
二十一 女三の宮と冷泉院と秋好中宮と―「鈴虫」―
二十二 まめ人夕霧の恋―「夕霧」―
二十三 『源氏物語』終焉への意図―「御法」「幻」―
二十四 繫ぎ三帖―「匂兵部卿」「紅梅」「竹河」―
二十五 新しい宇治の物語の始発―「橋姫」の冒頭―
二十六 薫・匂宮と大君・中の君―いわゆる橋姫物語「橋姫」「椎本」「総角」―
二十七 「早蕨」の位置―橋姫物語の終結―
二十八 浮舟物語の序章―「宿木」―
二十九 浮舟物語の行方―「東屋」「浮舟」―
三十 物語の結末覚書―「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」―
索引 1源氏物語巻名 2源氏物語登場人物 3人名 4書名
あとがき