紹介
本書の分析対象は、「規制緩和」と総称される現代社会そのものである。翻訳のうえで「ルール」を官僚制としたのは、全く同じことは私企業ではマネージメントといわれており、その性格はかつての官僚制と全く同じことを意味しているためである。
官僚制についての短いサーヴェイに続いて、政府による経済介入の縮小政策は、むしろより多くの規制、官僚、警察官を生みだすという「リベラリズムの鉄則」が描かれる。そして自由な市場経済を維持するためには、ルイ14世風の絶対主義の数千倍のお役所仕事が必要になるという逆説が指摘される。
この逆説のために〈自由〉や〈合理〉という基本的観念が揺らぎ、コラボだのグループワークだの自己点検、自己評価、創発性といった「クリエイティヴ」な売りに自ら演ずることを強要される。日常における自らの立ち位置が不明瞭となり、自己責任ばかりが強調される雰囲気が醸し出される。
本書は社会制度から自由などの基本的概念、日常の感情世界にいたるまで、不定期労働者が創生される土壌を人類学する基本図書である。
目次
序 リベラリズムの鉄の法則と全面的官僚制化の時代
リベラリズムの鉄則
1 物理的暴力そのものの重要性を過小評価してはならない
2 原則としてのテクノロジーの重要性を過大評価するな
1 想像力の死角? 構造的愚かさについての一考察
2 空飛ぶ自動車と利潤率の傾向的低下
テーゼ 一九七〇年代に、いまとはちがう未来の可能性と結びついたテクノロジーへの
投資から、労働規律や社会的統制を促進させるテクノロジーへの投資の
根本的転換がはじまったとみなしうる。
アンチテーゼ とはいえ、莫大な資金を得ている科学やテクノロジーの領域すらも、
もともと期待されていたブレイクスルーをみていない。
ジンテーゼ 詩的テクノロジーから完了性的テクノロジーへの移行について
3 規則(ルール)のユートピア、あるいは、つまるところ、なぜわたしたちは心から官僚制を
愛しているのか
1 脱魔術化の魔術化、あるいは郵便局の魅力
2 精神性の一形式としての合理主義
3 反官僚制的ファンタジーの官僚制化について
4 規則(ルール)のユートピア
補論 バットマンと構成的権力の問題について
注
訳者あとがき