紹介
異彩を放つ在野の思想家・矢部史郎が日本各地を自らの足で訪ね歩き、その土地土地でインスピレーションを受けながら、自身の積年のテーマであった「原子力と都市」について思いをめぐらせ書き上げた渾身の異色作。
本書に収められたエッセーは、2006年から2年間のあいだ、いくつかの土地を歩き書いたものだ。
どんなところであれ、人が生きる土地には人の手が加えられていて、都市化されてきた歴史がある。都市の歴史はいくつかの時代が地層をなして折り重なっているものだろう。そして、歴史とは現在を基点にして遡っていくことでしか見えないものなのだとすれば、問題となるのは、現在という時代をどう規定しどのようなものとして捉えていくか、である。
「原子力都市」は、ひとつの仮説である。
「原子力都市」は、「鉄の時代」の次にあらわれる「原子の時代」の都市である。
原子力都市の新たな環境のなかで、人間の力はいまはまだ小さな犯罪や破壊行為に封じ込められている。だが、こうした小さなうごめきもいつかは、政治と文化をめぐる一般理論を生み出し、確かな意思を持つことになるだろう。この無数のうごめきがはらんでいる創造性を解き放つために、いま考えなければならない。
目次
序
柏崎
旧・上九一色村 サティアン跡
呉
砂丘(演習)
京都
むつ
川口
日本ピラミッド
硫黄島
広島
両国 隅田川テラス
恐山
圏央道 つくばジャンクション
藤里町
厚木 幽霊病院
原子力都市と海賊
教育と都市について
あとがき