紹介
本書は『〈帝国〉』についての単なる解説書ではなく、『〈帝国〉』が提起した問題をどのように受けとめ、展開していくかを主題化しつつ、9・11以後の世界をも視野に入れた〈状況への発言〉です。
この状況とは、一口に言ってタイトルである「非対称化」ということです。政治的な局面でいえば、9・11以後「テロとの戦争」という言葉が横行しています。このことの意味は、戦争とは国家対国家の紛争であったはずですが、それが国家対個人・集団間の紛争を指すように、対象がすり替えられたばかりでなく無制限に拡大してしまいました。それは、強力な武力装備=軍隊と個人・集団との対決という不条理な不均衡をもたらしています。また、経済の局面では「市場原理」という言葉は、自由で平等な競争原理を指すものではなくなって、巨大なマネー・ファンドが企業を買収できる「自由」であり、貧富の差の拡大の「自由」であり、いまや強者がなりふり構わず振る舞う自由で、これは原理主義的な暴力といえます。
このような状況が新自由主義の温床になっていますが、安全性や貧富の差など、あまりにもわれわれの日常に深く根差して身近であり、的確な判断をするのに実に見えづらいのが特徴です。それだけに日常的な実感として、掴み所のない不安感をわれわれにもたらしております。この「掴み所のない不安感」に焦点を当てて、何とか見えるところへ議論を開きたい、これが本書のねらいです。
目次
救済の夢と抵抗—ネグリ&ハートの『〈帝国〉』によせて 西谷 修
帝国〉概念の魅力
マルクス主義の“余生”と“転生”
「9・11」との遭遇
メシアニズムの影
普遍主義の限界
マルチチュードの存在論的コンテクスト
共犯性としてのスーパー国家性 酒井直樹
イラク占領と日本占領の語り
新植民地政策としての日本占領
国民主義の転位
〈帝国〉-東アジアからの視点
〈帝国〉と国民主義の共犯性
主権、帝国(主義)、民主主義-『〈帝国〉』の射程 遠藤 乾
世界秩序賛歌-方法的ナショナリズムからの脱却
「主権」-複雑系の戦線
9・11後の米国-〈帝国〉か帝国主義国か
新しい民主主義?-国民の不可能性、マルチチュードの不可能性
貨幣の帝国的循環と価値の金融的捕獲 市田良彦
〈帝国〉とジャパン・マネー
プラザ合意の市場的帰結
貨幣の帝国循環と戦争
〈帝国〉における包摂と排除-「生政治」についてのノート 酒井隆史
ポストフォーディズムにおける貧民
オペライスモ的反転
歴史のなかへの生命の登場
生権力と生政治
ポストフォーディズムのフーコー
保障と自律
隠れた生産の場所に降りて行くこと 宇野邦一
構成的なアメリカ
六八年はマルチチュードだったのか
近代あるいは戦争機械
アメリカの「裏切り」
葛藤に満ちた生産的なジャングル
マルチチュードの(不)可能性 尾崎一郎
はじめに
〈帝国〉という非‐場
非‐場における闘争/抵抗
存在の新たな意味
マルチチュードの存在論的定義に向けて トニ・ネグリ(箱田徹 訳)
主権、マルチチュード、絶対民主制-『〈帝国〉』をめぐる討議 マイケル・ハート
インタビュアー: トマス・ダム
(水嶋一憲 訳)
協働作業と一般的知性
主権への抵抗と絶対民主制
ネーションと異種昆交性のポリティクスを超えて
『〈帝国〉』の方法論をめぐって
〈帝国〉と外部の不在
マルチチュードの理論に向けて