目次
第一章 カエル・愉快な仲間たち−小動物をとおしてみるヒト
第二章 ミクロとマクロ−文学は望遠鏡
第三章 人生の華・ロマンス−本物よりロマンチック
第四章 悲しみの結晶−愛する者の死
第五章 闇と光のせめぎあい−微妙な色彩感覚を持つ日本人
第六章 山の怪異−放逐された神々の復権
第七章 ことばで切り撮る自然−アミニズムという「薬」
第八章 忌まわしき戦争−兵士の心の記録から、反戦詩へ
第九章 夢の不思議−夢はの散歩道
第十章 文学と美−「文学のエッセンス」とは何か
子どもたちへの手紙−あとがきに代えて
前書きなど
古代ギリシャのデルフォイ神殿の壁には「汝(なんじ)自身を知れ」という箴言が掲げれていたらしいが、今も昔も自分自身を知ることは至難の業(わざ)である。
「これが自分だ!」と自信を持って言えないまでも、自分を構成している要素のうちで最も重要なものを指摘することは、誰にでもわりあい簡単にできるだろう。
政治家は「政治!」と叫ぶかも知れないし、経済学者は「えーと、それは経済、ですね」と眼鏡のフレームの中ほどを指で押し上げながら言うかも知れず、詩人は「詩以外の何ものでもない」と眉間に皺(しわ)を寄せてつぶやくかも知れない。スポーツ選手は「そりゃスポーツに決まってますよ」と明るく答えるだろうし、宗教家は「信仰です。信じるものは救われる」と厳かにのたまうかも知れず、難波(なにわ)の商人(あきんど)なら「銭(ぜに)や、銭!」と威勢よく答えるかも知れない。
とにかく、千差万別の答えが予想される。
その伝で行くと、著者の場合は、さしずめ文学である。文学少年から文学青年を経て、文学おじさんになっている以上、「私の本質は、文学である」と言っても過言ではなかろう。
本書は、俳句、短歌、詩、小説、随筆など幅広いジャンルの作品の中から、主題にそって適宜引用し、解説を加えたものである。文学の面白さや醍醐味(だいごみ)を、「カエル」とか「芋の露」といった身のまわりの小さな自然から説き起こしているので、中高生などの初心者にも比較的とっつきやすいと思う。文学に馴染みがある大人の読者なら、「こいつ、聞かない名前だけど、何か目新しいことでも書いてるかな。どれどれ一つ見てやるか。」というくらいの軽い気持ちで読んでいただければ、幸いである。「目新しいこと」が書いてなかったら、その方には申し訳ないが。
とにかく、読者が好きなように、どこからどう読んでいただいても構わない。本というものは、そもそもそのようなものとして存在しているのだから。
では、そろそろ文学街道の道案内を始めるとしよう。