目次
序章 問題意識、先行研究
第1節 問題意識、研究の範囲と限界、研究の方法と性格
1-1 問題意識――研究の出発点
1-2 研究の範囲と限界――対象国と対象時期の設定、資料の性格と限界
1-3 研究の方法と性格
第2節 戦後国際秩序へのアメリカの国内社会秩序の影響に関する先行研究
2-1 海外援助と政治発展――リベラル・コンセンサス(Liberal Consensus)
2-2 embedded liberalism――戦後の貿易と通貨の国際レジームの規範
2-3 ニューディール複合(New Deal complex)――マーシャル・プラン
2-4 リベラル・コンセンサス批判
2-5 葛藤論的なアメリカ史の見方とリベラルと欧州社会民主主義の同盟――ラムズデインの海外援助レジーム論
2-6 戦後アトリー合意――福祉国家と混合経済という文化的ヘゲモニー
2-7 まとめと考察
第3節 リベラルの主張(liberal causes)の政治学――民間財団研究の意義
3-1 財団自らによる言説とニューレフトのグラムシ的批判
3-2 連合国家(associative state)論と非営利セクター、民間財団
3-3 まとめと考察
第1章 アメリカにおけるフォード財団――a liberal cause institution
第1節 フォード財団の設立、ゲイザー報告書、ホフマン理事長時代
1-1 財団設立経緯と資本関係
1-2 ヘンリー・フォード2世とフォード財団
1-3 ゲイザー報告書――調査実施の経緯
1-4 ゲイザー報告書の内容――フォード財団の活動を規定する文書的根拠
1-5 ポール・ホフマン理事長時代(1950年11月~1953年2月)
第2節 フォード財団の組織と人々――理事会とスタッフ
2-1 意思決定過程
2-2 理事会
第3節 フォード財団のliberal causes
3-1 共和国基金――マッカーシズムの時代の市民権擁護
3-2 教育振興基金、グレイエリア――Great Societyの貧困との戦争(War on Poverty)へ
3-3 まとめと考察
第4節 助成活動の概観――国際的活動を中心に
4-1 フォード財団の規模
4-2 1977年までの助成活動全体の概略
4-3 3つの国際的活動分野の概略
4-4 地域の優先順位
4-5 1950~60年代のインドにおけるフォード財団とアメリカ政府援助の援助金額の比較
4-6 1950~60年代のビルマにおけるフォード財団とアメリカ政府援助の援助金額の比較
4-7 1950~60年代のインドネシアにおけるフォード財団とアメリカ政府援助の援助金額の比較
第2章 インドにおけるフォード財団
はじめに――研究の範囲と構成
フォード財団のインドにおける活動分野
第1節 インドにおける海外開発プログラムの始まり
1-1 ホフマン訪印前の米印関係
1-2 調査団の訪印の目的
1-3 中東とパキスタン訪問
1-4 ネルーとの会見
1-5 農業重視の合意
1-6 農村開発プログラムの提案
1-7 理事会の承認とインド駐在代表の選任
1-8 エンスミンガーの出発
1-9 予想されていた諸問題
第2節 第1次5カ年計画(1951~1955年)
2-1 インドの開発5カ年計画の概観
2-2 国家コミュニティ開発と農村の近代化
2-3 ポール・アップルビーと行政改革
2-4 教育の改革――チャンピオン・ウォードと中等教育、農村教育
2-5 まとめ
第3節 第2次5カ年計画(1956~1960年)
3-1 第2次5カ年計画前後のインドの国際関係
3-2 第2次5カ年計画
3-3 製鉄技術者養成
3-4 農村産業、小規模産業開発へのフォード財団の関与
3-5 インドの社会科学、経済学の強化
3-6 まとめ
第4節 第3次5カ年計画(1961~1965年)
4-1 第3次5カ年計画前後のインドの国際関係
4-2 集約的農業郡プログラム
4-3 家族計画
4-4 経営学分野への関与
4-5 教育への関与――コンサルタント派遣から本格的な大学への関与へ
4-6 まとめ
第5節 小括
5-1 平和と開発の合意
5-2 異なる系譜の政治経済観の混在とアメリカの影響力――時代変化
5-3 フィランソロピーの影響力の技法――正統性の獲得、政策実験と研究、知識共同体形成
5-4 国際フィランソロピーと諸政府との連合国家
第3章 ビルマとインドネシアにおけるフォード財団
第1節 ビルマにおけるフォード財団
1-1 米緬(アメリカ・ビルマ)関係
1-2 ビルマでの活動の開始――ビルマ・インドネシア調査団
1-3 ビルマでのフォード財団の活動分野
1-4 ヌ政権の国家開発8カ年計画(1952~1958年)における活動
1-5 ネ・ウィン選挙管理内閣とピダウンス内閣(1958~1962年)における活動と1962年3月2日、ネ・ウィンによる国軍のクーデター
1-6 ビルマに関する小括
第2節 インドネシア――議院内閣制の時代(1950~1957年)
2-1 インドネシア国内政治の状況――独立闘争の過程と不安定な議院内閣制の時代
2-2 アメリカ政府の対インドネシア政策――トルーマン政権からアイゼンハワー政権
2-3 インドネシアでのフォード財団の活動の開始
2-4 初期の成功――英語教育と技術教育
2-5 失敗したコミュニティ開発
2-6 ニューヨーク州立大学(SUNY)による中等教育教員養成
2-7 まとめと考察
第3節 「指導される民主主義」の時代(1958~1965年)と新秩序体制への伏線
3-1 左傾化するスカルノのインドネシアとアメリカとの関係悪化
3-2 インドネシア大学、ガジャマダ大学、ノメンセン大学の経済学支援
3-3 ハメンクブウォノ9世のアメリカ訪問支援
3-4 インドネシア科学院国立経済社会研究所とハーヴァード大学
3-5 新秩序体制での復活
第4節 インドネシアに関する小括
4-1 インドネシア社会党系知識人とはどのような人々だったのか
4-2 協力関係の意味するもの
4-3 協力関係における主導権――支配だったのか
4-4 「陣地戦」、あるいはアイディアをめぐる闘争におけるフィランソロピーの「力」
4-5 世代文化としての「陣地戦」
4-6 知識生産・再生産の制度・組織作り、開発知識人ネットワークの形成、「社会的な力」としての民間財団
4-7 フォード財団の活動の評価――知識の生産・再生産の制度・組織作りと未完のアメリカ化
第4章 日本におけるフォード財団
第1節 日米の「和解」に向けて――アメリカのフィランソロピー、ロックフェラー財団
戦後のアメリカ政府の国際文化交流、および情報活動
第2節 1950年代のフォード財団の日本における活動
2-1 1952年の事前調査報告書に見られる対日観
2-2 1950年代のフォード財団の日本での活動の概観
2-3 どのように助成に至ったのか――日本労働運動史の事例
2-4 フォード財団の助成活動がもたらした変化――プロジェクトの効果
2-5 箱根会議のインパクト
第3節 社会的介入の長期的影響――日本の事例を通しての考察
3-1 文化自由会議(Congress for Cultural Freedom)、日本文化フォーラム、日本文化会議=言論界における保守派の台頭
3-2 日本地域開発センター
第4節 小括
終章 リベラルな帝国のソーシャル・パワー――アメリカのフィランソロピーのパワー
第1節 リベラルな帝国アメリカ
1-1 アメリカ帝国論
1-2 「アメリカ」とは何か
1-3 冷戦下の西側諸国におけるインフォーマル帝国システムはどのように作られたのか
第2節 マイケル・マンのソーシャル・パワー論から見たフォード財団
2-1 軍事的、政治的、経済的、イデオロギー的な「社会的な力」の供給源
2-2 歴史的変動と「社会的な力」――既存諸制度の間隙、または小穴
2-3 「社会的な力」とは組織的、あるいは制度的な手段である
2-4 アメリカのイデオロギー的な力
2-5 フォード財団の力はイデオロギー的な力である
2-6 フォード財団のイデオロギーとは何か
2-7 イデオロギー的な力の組織化、制度化
2-8 イデオロギーの同盟構築
2-9 行政府との融合
2-10 アメリカの大学等の知識生産・教育組織との協力・連携
2-11 アメリカ人専門家の派遣と留学生受け入れ
2-12 新しい政府機関、拠点大学、専門家協会の形成
2-13 知識共同体の形成
参考文献
あとがき
索引
前書きなど
序章 問題意識、先行研究
(…前略…)
本書の主要部分はフォード財団の特定の時期と国における活動を内部資料に基づいて叙述したものである。叙述は、財団が助成したプロジェクトが、どのような経緯で、何の目的で決定され、どのように実行され、その結果がどのように当事者によって評価されたのかを中心にしている。プロジェクトについての叙述をいささか詳細に過ぎるかもしれないほど行った理由は、以下の通りである。
フォード財団を含めて、アメリカの民間財団に関する研究は近年ようやく始まったという状況である。したがって、アジア諸国におけるフォード財団についての研究は筆者の知る限り1点しか見られない。フォード財団の名前が、これら国々のエリートたちの間で広く知られているのに反して、財団が具体的に何の目的で、何を、どのようにして行ったのかについて、体系的な説明は存在しないに等しい。以上のような状況であるため、今後の研究の発展のためにもまず叙述的な研究が必要であると筆者は考えた。
本書を構成するもう一つの大きな部分はフォード財団が活動した歴史的、政治的文脈についての説明である。内部資料に基づく活動叙述だけでは、なぜそれらの課題が取り上げられ、特定の経過をたどったのかを解釈することは出来ない。助成されたプロジェクトは歴史的、政治的文脈に置いて見たときに初めて、その意味を解釈することが可能になるのである。本書では個々具体的なプロジェクトの経緯と意味を歴史的、政治的文脈の上で理解することが、一つの重要な作業となっている。
(…後略…)