目次
序[佐野正人]
第1部 東アジアのメディア状況
第1章 2010年代における大衆文化の変貌――K-CultureとJ-Cultureの交錯をめぐって[佐野正人]
序 2010年代の大衆文化の国際化
1 2010年代の韓国大衆文化――韓国大衆文化からK-Cultureへ
2 2010年代日本の大衆文化――サブカルチャーのメジャー化
3 大衆文化のメジャー文化化
第2章 フォーマット・リメイクの潮流と日本のテレビ番組の海外進出[高世陽]
1 日本のテレビ番組のフォーマット販売の不振
2 日本の位置づけ
3 日本のテレビ番組の中国リメイク版の受容
4 フォーマット・リメイクのリスクと可能性
第3章 東宝の特殊撮影技術と韓日映画交流史の様相[咸忠範]
1 はじめに
2 帝国/植民地映画の歴史的意味、そして撮影技術力の比重
3 合作過程における東宝の役割と朝鮮-韓国での日本映画に対する視線
4 特殊撮影技術提携を通した韓日映画製作交流活動
5 結び
第4章 香港の新派武侠映画における日本映画の影響――映画評論家としての張徹の活動を巡って[鄺知硯]
1 はじめに
2 評論家張徹の日本映画への姿勢
3 張徹評論の内容とその特徴
4 張徹映画における「真実感」の実践
5 おわりに
第5章 日中の韓流ドラマ視聴者の視聴状況の変遷[石俊彦]
1 はじめに
2 2000年代日中における韓流ドラマ視聴者の視聴状況
3 2010年代以降の日中における韓流ドラマ視聴者の視聴状況
4 おわりに
第6章 日本のアニメ聖地巡礼における中国人聖地巡礼者の研究――『SLAM DUNK』を通した観光行動の分析[楊世航]
1 はじめに
2 コンテンツツーリズムにおけるコンテンツ概念の再検討
3 中国における『SLAM DUNK』の影響に関する考察
4 本論文のまとめ
第7章 映画宣伝戦略中日比較研究――アニメ映画『君の名は。』を例として[王雅涵]
序
1 中国における『君の名は。』の宣伝戦略
2 日本における『君の名は。』の宣伝戦略
3 『君の名は。』宣伝戦略の中日比較
おわりに
第2部 東アジアのジェンダー状況
第8章 伝承の継承とその過程から生まれる人々の縁(えにし)――徳島県三好市山城町における狸話の記憶[妙木忍]
1 はじめに
2 地域資源としての妖怪
3 阿波川口駅周辺を中心とする地域への着目
4 狸話を通して生み出される人々の縁
5 おわりに
第9章 「弱者」へのまなざしと当事者性の重視――「東大祝辞」(上野千鶴子、2019年)を読む[妙木忍]
1 「東大祝辞」と「非力の思想」
2 上野の思想をたどる――ケアをする者へのまなざし
3 上野の思想をたどる――「弱者」へのまなざし
4 上野の思想をたどる――当事者性の重視
5 対話を引き出す「東大祝辞」――東北大学での企画「上野千鶴子さんと語ろう」
6 誰もが安心して暮らせる社会になるために
第10章 韓国映画『はちどり』から拓かれる「サバルタンの友情と連帯」[真鍋祐子]
1 はじめに――「ウニたち」の再会
2 『はちどり』が明かした女性叙事の「真実」
3 サバルタンとしての女性、そして「私たち」
4 サバルタンの友情と連帯
5 おわりに――「切れた指」の意味を問い続ける
第11章 おばあちゃんたちの共同体――台湾における高齢レズビアンの埋もれた物語[橋本恭子]
1 はじめに
2 主流/非主流のレズビアン
3 弱者女性の「共同体」
4 フィクションとしての「共同体」
5 おわりに
第12章 東北地方におけるトランスジェンダーの経験――それぞれの生を記録する[大森駿之介]
1 はじめに――問題意識と課題設定
2 先行研究の整理と本稿の目的
3 調査概要
4 六花さんのライフ・ヒストリー
5 神保さんのライフ・ヒストリー
6 遠藤さんのライフ・ヒストリー
7 まとめ
第13章 大島渚作品における性的支配の構図――『愛のコリーダ』と『愛の亡霊』を例に[柴媛敏]
1 見つめることにおける能動/受動の図式
2 「愛」による性的支配関係を築く構図
3 「家長」を消滅する行為
4 共通する愛の構造
第14章 新社会人女性のキャリアプランとライフコース選択における意識変化とその要因[加茂野優]
1 研究の目的
2 これまでの研究が明らかにした女性の人生設計における現状
3 研究方法と研究対象
4 明らかになった新社会人女性の意識変容
5 本研究の意義と残された課題と今後の展望
第3部 東アジアのカルチャー状況
第15章 日本現代ミステリと華文ミステリとの交差[押野武志]
1 はじめに
2 華文ミステリの歴史と日本における受容
3 華文特殊設定ミステリの特質
4 ミステリ形式の破壊と革新
5 華文ミステリの地政学
6 おわりに
第16章 伊集院静の日本文化論とその翻訳をめぐって[森岡卓司]
1 2000年代の「日本文化」論の動向と伊集院静
2 「海峡」三部作における自己確立の物語
3 伊集院静の「日本文化」論とその「翻訳」
4 滞留し、幽霊化していく言葉への想像力
第17章 周作人における日本文学翻訳に関する考察――『枕草子』を中心に[肖燕知]
1 はじめに
2 テキストの分析
3 翻訳特徴から見る周作人の翻訳観
4 おわりに
第18章 ロールプレイングゲームに見られるジェンダー差別の形成――『ゼノブレイド』(2010)と『ゼノブレイド2』(2017)を中心に[曹瀟月]
1 はじめに
2 戦争立国の「男の子の国」
3 『ゼノブレイドDE』に見られる冒険から排除された女性たち
4 『ゼノブレイド2』に見られる権力によるステレオタイプの形成
5 男性の眼差しの下での女性の日常
6 おわりに
第19章 アダプテーション理論から見る東野圭吾の小説の映画化――『容疑者Xの献身』を中心に[陳家強]
1 はじめに
2 小説『容疑者Xの献身』の概要
3 小説『容疑者Xの献身』の物語構造
4 日本映画『容疑者Xの献身』の概要
5 アダプテーション作品として選ばれた理由
6 日本映画『容疑者Xの献身』と原作小説の比較
7 おわりに
第20章 1990年代日本映画における在日中国人の表象[王月麗]
1 概要
2 はじめに
3 映画に表象された在日中国人
4 在日中国人表象の形成
5 おわりに
第21章 戦後の日系アメリカ文芸雑誌と女性の日本語による創作活動――戦後移住者の見た戦後アメリカ[齋藤志帆]
1 戦後アメリカにおける日本語文芸誌『南加文藝』に見る戦後移住者の存在
2 アメリカへの憧れと疎外感のはざまで――山中眞知子による「戦後移住者」の語り
3 森美那子が見つめた日系一世
4 アメリカ中央部から西海岸へ吹いた新風――ストール富子の見つめる「戦後アメリカ」
5 戦後移住者の文芸人たちが『南加文藝』にもたらしたもの
執筆者紹介
前書きなど
序
21世紀に入って東アジアでは大きな変動が起こっている。政治的・経済的な変化はもちろん言うまでもないが、文化的な面で東アジアに起きた大きな変動はより深くて広い変化を各国にもたらしている。この東アジア各国に起こった文化的な変動のあり方は今も現在進行形で進んでいることもあって、その内実をはっきりと明確にすることは難しい。
例えば21世紀の初頭に急速に東アジア各国の文化が相互に交流を見せるようになった時期のことはまだ記憶に新しいだろう。日本・韓国では2002年に日韓ワールドカップが開催され、それと前後して日韓の文化的交流も活性化することになった。様々な日韓合作のドラマが製作されたり、2004年には『冬のソナタ』の人気が日本で爆発し、いわゆる韓流ブームが起きることになった。その時期は、韓国でもそれまで禁止されていた日本の大衆文化が金大中政権によって開放され、日本の大衆文化が韓国で公式に受容され始めた時期であって、日本の漫画やアニメ、小説などの大衆文化が韓国に流入するようになった。つまり、日本においても韓国においても相互に大衆文化が受容されるという双方向的な受容と交流がこの時期に起きていたのである。それだけではなく、実は韓流ブームは日本よりも一足先に中国・台湾で起きており、1997年の『愛は何だって』の流行によって中華圏でも韓流ドラマの受容が始まっていたのである。
つまり、21世紀の初頭から急速に東アジアでは国境を越えた大衆文化の受容が活発化し、それは現在まで時に停滞することはあれ、基本的に拡大を続けているのである。初めは日中両国で韓流ドラマのブームとして始まった「韓流」はその後2010年前後からK-POPの流行、K-フードの流行、K-ファッションやK-メイクの流行といったように、狭い意味での大衆文化を越えてライフスタイルや日常生活に及ぶ領域に拡大している。また、その流行の空間的範囲も、最初の中国・日本を中心とした東アジアでの流行からアメリカ・ヨーロッパ・中東・アフリカ・中南米に及ぶ全世界的な流行現象を見せている。そのような意味で、韓国大衆文化はいまやグローバルなカルチャーとして認知されつつあると言っていいだろう。
ただ現在K-POPなどの韓国大衆文化がグローバルな脚光を集めているのは確かだが、それと並行して日本の大衆文化や中国の大衆文化もまたグローバルな受容をされているのは強調されなければならない。特に日本のアニメ、ゲーム、マンガといったサブカルチャーは世界的に大きな人気を集めており、ことにアニメはNetflixなどの動画配信サイトが世界的に普及したことでまさにグローバルな受容をされるようになっている。また、中国のドラマやポップスなどの大衆文化も東南アジアや北アメリカの華人圏を介して世界的な受容をされるようになっている。
このように見てくる時、東アジアの大衆文化は21世紀に入って急速にグローバル化し、世界的な受容をされ始めていることが分かる。もちろん、それは世界的なSNSの普及や動画配信サイトの普及などといった動きの一環でもあるのだが、その中でも東アジアの大衆文化が世界的な流行を見せているのは、例えばNetflixでのグローバルランキング上位に韓国ドラマが多く入っていることや、ビルボードチャートでのK-POPの人気などを見れば証明されるだろう。つまり、東アジアの大衆文化は世界の大衆文化のグローバル化の中で焦点となっており、流行を先導していると言っても過言ではないのである。
このような東アジアの大衆文化の持つ現在的な意味と、そのパワーの拠ってくる原因についてはより深い考察がなされなければならない。それには東アジアの大衆文化の持つ多面的な性格によって、複数の分野に渡った多角度からの考察が必要となってくるだろう。本書ではそのような考察をメディア、ジェンダー、カルチャーという三つの軸に沿って行っていくことにした。以下ではなぜメディア、ジェンダー、カルチャーが問題となるのかということと、収録論文の概略を述べることで本書の全体の見取り図を描いておきたい。
(…後略…)