目次
まえがき[出口治明]
序章 新しい時代の新しい学び[上杉勇司・大森愛]
1.21世紀型コンピテンシー
2.大学では何を、どのように学ぶのか
(1)自分の頭で考える力
(2)社会を生き抜く武器
(3)考えあう集団
(4)学まなび舎やの環境
3.21世紀の国際関係論
4.国際関係論を英語で学ぶことの利点
(1)実践的な学びから即戦力が育成される
(2)「伝わる英語=わかりやすい英語」だと実感する
(3)世界とつながり、情報量が増える
5.本書の魅力
第1章 英語を用いた高等教育の学び[大森愛・上杉勇司]
1.グローバル化した世界における日本の高等教育
(1)高等教育におけるEMI授業
(2)EMI授業の利点
(3)EMI授業への積極的な参加を阻む心理的な壁
2.意思疎通のための実用英語
(1)英語使用者のイメージと実態
(2)国際語としての英語に求められるもの
(3)英語に過度に頼ることの危険性
3.EMI授業を通じて得られる異文化交流の体験
4.EMI授業を楽しむためのヒント
(1)学生ができる工夫
(2)教員ができる工夫
5.EMI授業のススメ
第2章 国際高等教育の潮流と国際関係論の学び[杉村美紀]
1.求められる持続可能な未来に向けた「教育の変革」
2.大学教育における「国際関係論の学び」
(1)実践的意義
(2)政策的意義
3.トランスナショナルな国際高等教育の枠組み
(1)越境する高等教育の新たな挑戦
(2)国際高等教育の特徴
4.「国際高等教育」がもたらす「新たな学び」への質的転換
(1)コンピテンシーを基盤とする学習者主体の学び
(2)非伝統的な学びと学習環境の変容
5.国際高等教育による教育の変革と学習者主体の学び
第3章 多文化環境における国際関係論の学び[佐藤洋一郎]
1.世界平和の実現を目指した大学の国際化
2.日本の大学教育と多文化環境
3.日本の大学における国際関係論の学び
(1)理論を重視した教育と実務性
(2)米英欧との比較
(3)日本の大学における障壁
(4)オンライン教育拡散と規制
4.立命館アジア太平洋大学(APU)での実践
(1)開学時の国際化の方針
(2)国際関係論の位置づけ
(3)SGUの取り組み
(4)大学ランキングに見る英語での研究実績
5.ポスト・コロナの日本の国際関係論
第4章 英語によるワークショップ型国際関係論の学び[小林綾子]
1.3つのハードル
2.英語で意思疎通をする
3.主体的に議論や活動に参加する
(1)単純な質問から始める
(2)発言方法をある程度ルールで決める
(3)傾聴
4.国際関係論を学ぶ
(1)概念を理解するためのワークショップ
(2)ロールプレイ型ワークショップ
(3)オンライン・ワークショップの限界
5.3つのハードルを乗り越える
第5章 オンライン・ロールプレイの学び[上杉勇司]
1.コロナ禍でのオンライン・ワークショップ
2.学びあう場としてのワークショップの魅力
3.オンライン・ロールプレイの実践例
(1)授業概要
(2)使用したオンライン環境
(3)ロールプレイ概要
(4)ロールプレイの進行
4.コロナ禍でのオンライン・ロールプレイの教訓
(1)オンライン化に伴い講じた工夫
(2)ICT技術の活用による副次効果
(3)オンライン・コミュニケーションの留意点
(4)ただ乗りと幽霊学生の課題
5.ポスト・コロナのワークショップ授業の未来
第6章 キャンパス・アジアという国境を越えた学び[小山淑子]
1.次世代リーダーの育成
2.キャンパス・アジアの特色
(1)どんな人材を育成するのか
(2)なぜ英語で学ぶのか
(3)なぜアクティブ・ラーニングなのか
(4)多様なアクティブ・ラーニング技法
3.授業実践例――集中講座「東アジアにおける歴史認識問題と和解」
(1)授業概要
(2)アイスブレイク(1日目)
(3)授業参加時の「約束ごと」の制定・確認(1日目)
(4)金魚鉢エクササイズを用いた関連施設訪問の振り返り(4日目)
(5)グループ学習:東アジアの歴史教育教材の作成(5~7日目)
4.授業実践における留意点・工夫・気づき
(1)英語で実践する場合
(2)オンライン形式で実践する場合
5.私たち一人ひとりが平和をつくる当事者
終章 これからの大学における学び[上杉勇司・大森愛]
1.国際関係論を日本の大学で英語で学ぶことの付加価値
(1)手段としての英語
(2)学習者主体の学び
2.コロナ禍を通じて認識した学びの場としての大学の役割
(1)イノベーション・ハブ
(2)学生サポート
(3)中継ぎという名の命綱
(4)オンラインの可能性
3.授業のオンライン化の効果と課題
(1)オンライン化で見えた国際高等教育の可能性
(2)オンライン化で見えた新しい体制の必要性
(3)非言語コミュニケーションを補う代替技術
4.学習者主体の学びの課題
(1)学生評価の実例
(2)アクティブ・ラーニングにおける学生評価
(3)EMI授業の評価における英語(語学)力の位置づけ
(4)カリキュラム
前書きなど
まえがき
大学の国際化が言われて長い年月が経ちます。日本人学生の英語力を何とかしようという政府の希望は、小学校からの英語授業の導入、会話重視のカリキュラムへの移行など、試行錯誤を繰返したものの、その効果は芳しいものではないようです。大学レベルでは、政府はスーパーグローバル大学を選定し、そこでの「国際化」の様々な試みを財政的に支援しました。
助成を受けた側の大学では、自らを「国際化」するということをどのように捉えていたのでしょうか?世界水準での研究力の卓越を目指すAタイプと、教育の国際化を目指すBタイプという、助成する側の政府から与えられた区分にしたがって各大学のプログラムが編成されることになりましたが、Aタイプに選ばれた、というよりそもそもこれに応募した大学のほぼ全てが旧帝国大学系の国立大学でした。Bタイプの大学のプログラムは、キャンパスへの国際留学生の誘致、日本人学生の海外留学の促進(その多くが短期)、授業を英語で担当してもらう国際教員の雇用、それらの施策に付随した大学職員の英語での執務能力向上を目的としたものに留まりました。
各プログラムの達成度を測る数的指標の導入もあり、多くの大学が目標を達成したと判定を受けましたが、それ以上に深く「国際化」の意味を掘り下げた振り返りは、ほとんど見られませんでした。国内私学としては最大規模の早稲田大学と、学生数6,000名程度の中規模大学である立命館アジア太平洋大学(APU)が、海外からの留学生数で国内の1位を競っている一方で、学費も安く巨大な旧帝国大学系の国立大学における外国人留学生のプレゼンスが低いのは、大学国際化の牽引は私学のほうが熱心にやっている証だと思います。僕は人、本、旅を通じた学びが人生を充実させると思っています。外国へ留学する意義は、語学を身に付けるのみならず、多様な人々と交流し、自らの視野を広げることにあります。多くの国内大学で取り入れた「英語による授業」では、学生のほとんどが日本人で、果たしてそれでも彼らの視野が広がるのでしょうか? もしそうなら、その効用と限界はいかなるものでしょうか?
本書は僕が2期6年にわたり学長を務めてきたAPUの佐藤洋一郎・アジア太平洋学部長と、国際政治の舞台で活躍できる日本人を育成するという彼の志を共有する、国内私学の海外経験豊富なエースたちが、その叡知と実践をまとめあげたものです。スーパーグローバル大学の助成を受けた大学の義務として、この事業から得られたノウハウを国内の他大学へ伝播することが課せられています。政府への報告書を読むよりも、現場に近い教員の生の声で書かれた本書が、日本の大学の真の「国際化」に役立つことを願っています。