目次
序章
第1章 土木官僚の実態――『朝鮮総督府職員録』の分析
はじめに
(1)朝鮮総督府の土木機構変遷
(2)土木官僚の分析
おわりに
第2章 本間徳雄京城土木出張所所長の活動
はじめに
(1)朝鮮における本間徳雄の活動
(2)満洲国における活動
(3)敗戦後の活動
おわりに
第3章 坂本嘉一土木事務官の活動
はじめに
(1)坂本嘉一の生涯
(2)坂本嘉一と土木法
(3)坂本嘉一の朝鮮認識・土木認識
おわりに
第4章 日本人土木官僚四名の社会・工事認識
はじめに
(1)持地六三郎
(2)榛葉孝平
(3)本間孝義
(4)長郷衛二
おわりに
第5章 内務局土木出張所の雇員、傭人
はじめに
(1)京城出張所の人員分析
(2)平壌出張所の人員分析
(3)雇員、傭人の全体像
(4)下級土木官吏養成機関の京城工学院と京城工業学校
おわりに
第6章 一九四五年以降の土木官僚の活動
はじめに
(1)日本人
(2)朝鮮人
おわりに
終章
あとがき
初出一覧
広瀬貞三教授 略歴・著作目録
前書きなど
序章
日本の朝鮮支配を担当した朝鮮総督府(以下、総督府とする)は、三五年間に各種事業を行った。その一つとして総督府は植民地朝鮮において、大規模な土木事業を展開した。工事の種類は主に、道路、河川改修、港湾、市街地整理、上水道、下水道、災害復旧などである。総督府がこれらの土木工事に支出した金額は、一九一〇年から一九三八年までで国費が約一億四八六〇万円、地方費が約七六六〇万円、合計約二億二五二〇万円にも達した。
こうした広範な土木事業に対し、敗戦後日本に引揚げた総督府関係者が執筆した『日本人の海外活動に関する歴史的調査』の中では、「原始的な朝鮮から出発して過去四十年間、日本の周到なる技術と良心によつて鋭意近代文化の水準まで築き上げた土木事業の偉大なる足跡は、朝鮮統治史上特筆大書すべきことであり、永遠に〔朝鮮〕民族の福祉に貢献することを確信するものである」と、自画自賛している。
一方、大韓民国(以下、韓国とする)で刊行された『韓国土木史――解放以降編』は、「国土開発は南綿北羊と南農北工という名前で、日帝の強圧的な地域政策秩序下に電力、鉄道、道路、港湾などの社会資本施設が計画され、このように他者に依存させられた中で連合国の勝利によって一九四五年八月一五日を迎えた」と評価している。両者には総督府が実施した土木事業に関する見識の違いがある。いずれにしろ、長期間にわたる総督府の大規模な土木工事は、朝鮮の国土と社会構造を根底から大きく変えたのである。
こうした各種土木工事を行ったのは、総督府の土木関連部署である。後述するように、土木関連部署の名称は、「韓国併合」の一九一〇年から一九四五年まで、度支部、内務部、土木局、土木部、内務局、司政局、鉱工局と変化したが、主に土木課が中心となって、三五年間存続した。こうした土木関連部署には多くの官僚(土木技術者、事務職)が集まり、これは「土木官僚」とも呼べる層を形成した。また、総督府の中には建築関連の部署もあり、これらは「建築官僚」とも呼べる層を形成した。
すでに植民地期朝鮮の官僚、官僚制に関しては多くの研究蓄積がある。しかし、土木官僚に限定すれば研究は意外に少なく、いまだ充分ではない。研究としては、福島秀哉、崔静妍・中井祐、岡本真希子、許粹烈、高泰雨などのものがある程度である。
(…中略…)
本書ではこうした先行研究も活用しながら、総督府の三五年間に及ぶ土木官僚を主題として取り扱い、その実体解明に迫る。
(…後略…)