目次
序文
頭字語・略語
要旨
教師の専門職性を支える柱として教授学的知識を研究する
21世紀の指導に必要な知識は何か
理論と実践の橋渡し:研究に基づく実践と文脈に適した知識の利用を検証し支援する
研究と政策課題を推進し知識基盤を強化する
第1章 知識専門職としての教師[ハナー・ウルファーツ]
第1節 序論
第2節 教師はすべての職業の母である
第3節 教師の専門職性の柱としての教授学的知識
第4節 教授法の学習と職業的な知識交換を支える政策と実践
第5節 教師の知識の国際的調査
第6節 本書の概要
第7節 結論
第2章 教師の知識に関する国際的調査[ハナー・ウルファーツ]
第1節 序論
第2節 TALIS調査の教員知識調査(TKS)評価モジュールの概要
第3節 教師の知識に関する国際的調査の概念的基盤
第4節 教師の知識と文脈依存性の測定
第5節 結論
第3章 21世紀の指導のためのテクノロジー関連の知識[サラ・ウィラーマーク]
第1節 序論
第2節 テクノロジーを指導に組み込むための知識の概念化
第3節 教師のテクノロジーに関する知識とスキルを測定するための国際的調査
第4節 大規模な国際的調査のための指針
第5節 結論
第4章 多様性を増す教室における批判的指導[ノース・クック/グレース・ミヒョン・キム]
第1節 序論:文化的多様性を増す教室
第2節 多文化教育
第3節 教育における多様性と包摂にかかわる共通問題
第4節 多様性を増す教室で指導するコンピテンシーの測定
第5節 結論
第5章 一般的教授知識とスキルの文脈的測定[クリスチャン・ブリューヴィラー/レナ・ホレンスタイン]
第1節 序論
第2節 実践に基づく知識と状況特異的なスキルによる効果的な指導
第3節 実践に基づく知識と状況特異的なスキルの文脈評価
第4節 大規模な国際的調査における設計アプローチ別の長所と短所
第5節 結論
第6章 一般的教授知識の学習機会[マリア・テレサ・タトゥー]
第1節 序論
第2節 教師の学習機会を検証するための概念と方策
第3節 一般的教授法の学習機会の全体像の実証的把握
第4節 結論
第7章 多次元適応型テストによる一般的教授知識の国際的評価[アンドレアス・フレイ/アーロン・フィンク]
第1節 序論
第2節 多次元適応型テスト(MAT)とはどのようなものか
第3節 TKS評価モジュールのための多次元適応型テストの設計
第4節 テスト設計の実施に必要なソフトウェアと分析スキル
第5節 結論
第8章 教師の知識に関する研究と政策課題[ハナー・ウルファーツ]
第1節 序論
第2節 本書の成果を教師の知識に関する国際的調査に生かす
第3節 教師の知識に関する国際的知見を教育政策と実践に利用する
第4節 研究課題を進め、教師の知識に関する理解を拡大する
第5節 結論
謝辞
編著者・編者・著者紹介
訳者紹介
前書きなど
序文
今日の複雑な世界において、私たちの生活の質は専門職の知識やスキルに大きく依存している。コロナウイルス感染症の大流行は世界に大きな打撃を与え、何百万人もの感染者を出して人類に途方もない苦難をもたらした。しかし世界には、医師、看護師、効果的なワクチンを生み出す生物医学者らがいた。彼らの専門知識、献身、不屈の努力がなければ、被害はどれほど増えていたことだろう。日常生活で橋を渡るとき、私たちは橋を設計し建築した市民エンジニアの知識とスキルを手放しで信用している。食事をするとき、食品を生産加工した生産者やバイオエンジニアを頭から信頼している。生活の多くの領域は科学的知識に満たされ、労働はいまや知識を必要とする専門的活動に変容した。
愛する子どもを学校にゆだねるときも、学校は細心の注意を払って子どもの面倒をみてくれると信じている。教育を与えれば、子どもたちは能力を開花させて私たちの夢をかなえてくれると信じている。しかし、これはそう簡単な話ではなく、洗練された知識やスキルも必要とする。そしてほかの多くの専門職と同じく、教師の仕事も複雑さを増し、差し出される科学的知識も増加する一方である。つまり、教師はますます多くの知識とスキルを身につけることを迫られている。ところが、このような見方はまだ浸透していない。政治関係者も含めて多くの人々はいまだに、教えることは、人間が生まれつき保有するよくわからない能力による一種の「アート」であると考えている。あるいは、最低限の訓練を受ければ、誰でも資格を取得できる仕事と信じ込んでいる。残念ながら、教師を専門職とみなすかどうかはいまだに決着がついていない。教師は、指導において「何が、いつ、なぜ有効に働くのか」を語る共通言語を持た
ない、したがって完全な専門職ではないという批判がある。職業的な判断、意思決定、行動の指針となる共通の知識体系が欠けているといわれる。
本書は、そのような批判に対する優れた反論の集積である。特に一般的教授知識に注目して、教師が知識の専門職であるかどうかを詳細に検証する。教師は、生徒の学習、社会情動的発達、ウェルビーイングを促進する必要がある。しかしそのためには、高度に専門化された知識体系を動員して実践に臨む必要がある。優れた教師は教科内容の専門家であるだけではない。生徒の学習方法、進歩の評価方法、魅力的で豊かな学習経験の設計方法の専門家でもある。このタイプの知識、つまり教授学的知識こそが、教師(数学の教師)の知識とほかの専門職(数学者)の知識を区別する。
(…中略…)
本書はTKS評価モジュールの参考として、教師の知識と大規模調査に関する一流の専門家の意見を集積し、一般的教授知識の調査方法に関する優れたアイディアを伝える。教師は教授学的知識を柱とする専門職であるという見解に立ち、実証的データ、特に国際的な比較データの役割に重点を置くことによって、教師の知識の強化を導く。
(…後略…)