目次
はじめに
序章 生徒指導と子どもの権利条約
1.文科省『生徒指導提要(改訂版)』に「子どもの権利条約」が明記
2.大学生たちの「生徒指導」のイメージ
3.文科省の「生徒指導」の定義と「本当の生徒指導」
4.「生徒指導」とフーコーのdiscipline(規律・訓練)
5.「子どもの権利条約」と日本の学校における「生徒指導」
第1部 子どもの権利条約時代の教育
第1章 日本国憲法と基本的人権
1.日本国憲法とは何か
2.憲法を守らなければならないのは誰か
3.なぜ憲法は国家権力を縛るのか
4.憲法は何のためにあるのか
5.基本的人権とは何か
6.日本国憲法が目指しているもの
7.権利が保障されるためには
第2章 権利としての教育
1.教育は子どもの義務ではなく権利
2.基本的人権としての「教育を受ける権利」
3.大日本帝国憲法・教育勅語の下における教育体制
4.日本国憲法・教育基本法による教育体制の確立
5.「権利としての教育」を保障するための日本国憲法・国際条約と法体系
6.日本国憲法・教育基本法体制で保障される「権利としての教育」とは
7.「権利としての教育」を保障するために「やってはいけないこと」
8.憲法・教育基本法体制において「権利としての教育」は保障されているのか?
第3章 子どもの権利と子どもの権利条約
1.「子どもの権利」とは
2.人権としての「子どもの権利」の歩み――子どもたちに“最善のもの”を
3.「子どもの権利宣言」から「子どもの権利条約」へ
4.「子どもの権利条約」の成立――子どもの生命・生存・発達の権利を保障する
5.子どもを権利行使の主体として捉える――参加と市民的自由の権利
6.子どもの権利条約の思想
第4章 子どもの権利条約と日本
1.「子どもの権利条約」と日本
2.「子どもの権利条約」を批准しても、何も変える必要はない?
3.「子どもの権利委員会」への報告と審査
4.第2回~第5回の報告書の提出と「最終所見」
5.条約の広報義務
6.子どもの権利と子どもの権利条約は、日本に定着したのか?
第5章 子どもの権利条約時代の教育
1.「子どもの権利条約時代」
2.子どもの権利を伝える(知らせる)こと
3.子どもに権利行使の主体としての能力を育てていくこと
4.「学習する権利(学習権)」を保障すること
5.「参加する権利(参加権)」を保障すること
6.「子どもの権利条約時代」の教育とは
7.「子どもの権利条約時代」の実現のために
第2部 生徒指導の構造と起源
第6章 生徒指導とは何か――リアル生徒指導
1.大学生たちの「生徒指導(生活指導)」のイメージ
2.「生徒指導」を受けたことがない大学生?
3.教師たちの「生徒指導」のイメージ
4.大学の教職課程の「生活指導・生徒指導」のテキストと現実の「生徒指導」
5.「リアル生徒指導」とは、どのような「指導」なのか?
6.「リアル生徒指導」(1)――「規律指導」という生徒指導
7.「リアル生徒指導」(2)――「特別指導」という生徒指導
8.なぜ生徒指導は“ブラック”になるのか?
9.「行き過ぎた指導」「不適切な指導」というブラック生徒指導
第7章 生徒指導の出現――「手びき」から「提要」へ
1.「生徒指導」の出現
2.『生徒指導の手びき』の発刊
3.『生徒指導の手引(改訂版)』の発刊
4.『生徒指導提要』の発刊
5.2022年の『生徒指導提要』の改訂
第8章 生徒指導の定義と目的
1.文部科学省の「生徒指導」の定義
2.生徒指導の目的
3.二つの生徒指導――消極的な生徒指導と積極的な生徒指導
4.三つの生徒指導――生徒指導の分類
第9章 生徒指導の機能と構造
1.機能としての生徒指導
2.学校教育の「領域」と「機能」
3.教育課程の展開を補助・補正する機能としての生徒指導
4.生徒指導は「管理」なのか「訓育」なのか?
5.「管理=経営過程」における生徒指導
6.生徒指導のふたつの機能――disciplineとguidance
第10章 生徒指導の起源と深層
1.生徒指導の起源
2.近代学校の誕生
3.disciplineのシステムとしての学校
4.「パノプティコン(一望監視施設)」としての学校
5.「隠れたカリキュラム(ヒドゥン・カリキュラム)」
6.「隠れたカリキュラム」で学び、身に付けていくこと
7.隠れたカリキュラムとしての「生徒指導」
第11章 日本における生徒指導の起源
1.日本における近代学校の成立
2.生徒指導の起源――「小学生徒心得」
3.「学校管理法」と「教化」――教授のための児童管理としてのdiscipline
4.disciplineとしての「躾方」
5.「躾方」の徳育化――教師の品性と権威による“しつけ”
6.「管理」の分化――disciplineによる「児童生徒管理」と「法令準拠の学校管理」
第3部 disciplineとしての生徒指導
第12章 校則と生徒指導
1.ブラック校則問題から『生徒指導提要(改訂版)』での「校則の見直し」へ
2.「校則」には何が書いてあるのか?
3.「校則(生徒心得)」とは何か?
4.生徒は学校が決めた「校則」には従わなければならない――「特別権力関係論」
5.学校は特別な「部分社会」だから従わなければならない――「部分社会論」
6.「校則」は「契約」だから守らなければならない――「在学契約説」
7.「校則」の内容は誰がどうやって決めたのか?
8.「校則」は本当に「不合理であるといえない」のか?
9.「校則」は見直すことができるのか?
10.「子どもの権利条約」と「校則」
11.「校則」の見直しには児童生徒と保護者の参加と手続きの確立が不可欠
第13章 懲戒と生徒指導
1.学校における「懲戒」(教育的懲戒)とは何か?
2.「事実行為としての懲戒」とは何か
3.「事実行為としての懲戒」は「生徒指導」なのか?
4.「教育的懲戒」の「懲戒的側面」と「教育的側面」
5.どこまでが「指導」で、どこからが「懲戒」なのか?
6.「懲戒」と「手続きの公正性、公平性(適正手続きの原則)」
7.「事実行為としての懲戒」という「ブラックな生徒指導」
第14章 体罰と生徒指導
1.「体罰」は“ブラック”な生徒指導?
2.「体罰」は法律で禁止されている
3.どのような行為が「体罰」になるのか?
4.教師の「非違行為」としての「体罰」
5.大阪市立桜宮高校体罰自殺事件の「衝撃」
6.いかなる場合も「体罰」を行ってはならない
7.「体罰」は「指導」なのか?「懲戒」なのか?
第15章 ブラック生徒指導――不適切な指導と指導死
1.「不適切な指導」という名のブラック生徒指導
2.「安全な生徒指導を考える会」からの要望
3.「生徒指導」をきっかけとした子どもの自殺・指導死
4.「指導死」の定義
5.「指導死」を引き起こす教師の「不適切な指導」とは
6.「事実行為としての懲戒」というグレーゾーン
7.児童生徒を死に至らしめる「生徒指導」は「教育」なのか?
第4部 guidanceとしての生徒指導
第16章 教育相談とカウンセリング
1.「教育相談」とは何か
2.「教育相談」は誰がやるのか?
3.「教育相談」は何をやるのか?
4.「教育相談」はいつ、どこでやるのか?
5.「教育相談」は、どうやってやるのか?
6.「教育相談」と「カウンセリング」
7.1980年代以降の「教育相談(カウンセリング)」
8.スクール・カウンセラーの導入
9.「生徒指導」と「教育相談」の対立
第17章 進路指導とキャリア教育
1.「ガイダンス理論」と「生徒指導・進路指導」
2.「進路指導」とは
3.「進路指導」の現実
4.キャリア教育
5.ガイダンスとしての「生徒指導」と「進路指導」
第18章 生活指導とは何か――源流としての生活綴方
1.「生徒指導」か? 「生活指導」か?
2.「生活指導」概念の源流――自由主義的綴方教育実践
3.「生活指導」概念の誕生――綴方指導から生活指導へ
4.もうひとつの「生活指導」概念の源流――「自治訓練」と「生活訓練」
5.「生活指導」概念の展開――北方教育と生活綴方教育実践
第19章 生活指導の展開――仲間づくりから学級集団づくりへ
1.戦後「公民科」構想における「生活指導」概念
2.アメリカの「ガイダンス理論」からの「生活指導」
3.戦後生活綴方の復興――『山びこ学校』の衝撃
4.生活綴方教育実践の新たな展開――「生活綴方」から「仲間づくり」へ
5.戦後日本型「生活指導」概念の成立――「仲間づくり」から「学級づくり」へ
6.「集団づくり」から「学級集団づくり」へ
7.戦後日本における「生活指導」概念と「生徒指導」概念の混同と混乱
第20章 生活指導実践に取り組む
1.「生活指導」と「生徒指導」
2.「生活指導」は「機能」なのか、「領域」なのか
3.「生活指導」としての「教科外活動(特別活動)」の指導
4.「生活指導」の実践に取り組むために
終章 子どもの権利条約時代の「生徒指導」とは
1.子どもの権利条約は、なぜ学校の中に入っていけないのか?
2.子どもの権利条約時代における教師の「指導」とは
3.子どもの権利条約時代の「生徒指導」は、どうあるべきか
4.リアル生徒指導・ブラック生徒指導から子どもの権利条約時代の「生徒指導」へ
資料〔日本国憲法(抄)/子どもの権利条約(抄)〕
おわりに
前書きなど
はじめに
子どもの権利条約が国連総会で採択されたのは1989年、日本が条約に批准したのは1994年です。それ以降の時代を「子どもの権利条約時代」と呼びたいと思いますが、はたして世界と日本の子どもたちの権利は、しっかりと保障されるような時代になっているのでしょうか。
昨年のロシアのウクライナ侵攻によって、多くの子どもたちが戦禍により避難を余儀なくされたり、心と身体を傷つけられています。世界各地では、いまだに紛争や内乱がおさまることなく、多くの子どもたちの命と健康が脅かされています。
日本では条約を批准した当時、「子どもの権利」はほとんど保障されているので国内法の改正は必要ないと政府は言っていましたが、いまだ極度に競争的な学校教育の下で、学びに意味を見いだせなかったり、劣等感に苦しんでいる子どもたちがいます。また、虐待やいじめ、不登校や自殺などの問題も深刻です。
この30年あまりの「子どもの権利条約時代」において、日本で、ほとんど変わることがなかったのは学校で実際に行われている「生徒指導」ではないでしょうか。理不尽で不合理な「校則」の問題や、教師の「体罰」や「不適切な指導」については、条約批准当初から指摘されてきたことですが、2012年には大阪の高校での教師による体罰と不適切な指導によって生徒が自殺したり、2017年には教師の指導によって無理やり髪を黒色に染めさせられたことを生徒が裁判に訴えるという事件もありました。
長い間、学校の校門の前で立ち止まらされてきた「子どもの権利条約」ですが、2022年、文科省が発行する『生徒指導提要』の改訂で、条約の内容の一部が初めて記載されました。わずか1p半という不十分なものではありますが、「生徒指導の手引書・マニュアル」と言われる『生徒指導提要』に「子どもの権利条約」が明記されたことは画期的なことであると思います。また、2022年の国会では、「こども家庭庁」の設置と「こども基本法」の制定が可決されました。
これを大きな契機として、「子どもの権利条約」の理念と内容を、日本の学校の「生徒指導」の具体的な指導の中にも生かされていくようにしなければならないと思います。
この本は、大学での教職課程の「生徒指導論」のテキストとして使われることを想定して書かれたものです。8年前に35年間勤めた高校教員を退職して現在の大学に勤務し、私が最初に担当したのが「生活指導論」という講義でした。2019年の教職課程の再課程認定によって、講座名が「生徒指導論」と変更されましたが、この間この「生活指導論」と「生徒指導論」の講義で、私が学生たちに話してきた内容を中心にまとめました。
さらに、教職課程の必修科目ではないのですが「子どもの権利と教育」という講座も担当し、「子どもの権利条約」や「日本国憲法・教育基本法」などにおける「子どもの権利」と教育の問題についても学生たちに話をしてきました。「子どもの権利条約時代」の「生徒指導」を考えるためには、そのような内容も加えること必要であると考えました。そのために全体で20章をこえる大部な本になってしまいましたが、これまでに私が、学生たちとともに学び考えてきた「子どもの権利条約」と「生徒指導」についての重要なポイントを網羅することができたと思います。
是非とも多くの皆さんに読んでいただき、「子どもの権利条約」と「生徒指導」の問題について考えたり、学んでいくきっかけになれば幸いです。