目次
はじめに[須藤廣]
第1章 社会学への招待――関係性の学問としての社会学[須藤廣]
1 社会的存在としての人間
2 自分を知ることと他者からの定義
3 社会学が問う近代の外部と社会の再編成
4 おわりに
○column PTSDの症状が物語るもの
第2章 社会学のなりたち――社会学小史[須藤廣]
1 コントの社会学
2 デュルケムの社会学
3 テンニエスの社会学
4 ウェーバーの社会学
5 おわりに
○column 「社会科」とは異なる「社会学」!?
第3章 少子高齢化の推移と福祉国家の現在――少子高齢化を巡る現状の主な課題と政策的課題[舟木紳介]
1 日本における少子高齢化の現状と課題
2 家族形態の変化
3 超高齢社会と介護保険制度の導入
4 制度の狭間で見えにくい課題―ある地方都市の事例
5 当事者の気持ちを「受け止める」支援とは?
○column ソーシャルワーカーとはどのような専門職か?
第4章 現代社会の貧困と格差[森谷康文]
1 「貧困」をどう捉えるか
2 貧困の非物質的側面
3 日本における貧困の状況
4 格差と不平等
5 子どもの貧困
6 貧困と健康問題
7 おわりに
第5章 社会的逸脱と社会的包摂の仕組み――社会によって周辺化されることと統制されること[作田誠一郎]
1 社会的逸脱とは何か
2 逸脱行動の理論からみる統制とマイナスの評価
3 社会的包摂/排除をめぐる諸問題と本質的排除傾向
4 看護の場面における健康格差とマイノリティ
5 おわりに
○column 公的扶助に対するラベリングとアプローチ
第6章 社会のなかのジェンダー規範――医療現場におけるジェンダー規範とその変容[阪井俊文]
1 ジェンダーとは何か
2 ジェンダーがもたらす不平等
3 就業とジェンダー
4 医療とジェンダー
5 おわりに
第7章 性と身体に関する医療知――医療は性別と身体をどのように扱ってきたか[入江恵子]
1 医学における知(1)――性と身体
2 医学における知(2)――生殖
3 セクシュアリティ(1)――同性愛
4 セクシュアリティ(2)――性同一性障害から性別不合へ
5 おわりに
第8章 現代家族の社会学――社会の変化に呼応する家族[濱野健]
1 近代社会と家族の変遷
2 「カタチ」から「つながり」へ
3 家族間のつながりと、私たちの社会のこれから
4 おわりに
○column 国際結婚の増加と家族の多様化
第9章 医療の文化的側面――多様性を増す社会における医療者の役割[入江恵子]
1 医療人類学とは
2 人類学における「病気」とは
3 自文化中心主義と相対主義
4 インターセクショナリティ
5 おわりに
第10章 近代社会の「医療」概念の形成(医療社会学)――医療化を通じた近代医療の制度化とその歴史的変化[作田誠一郎]
1 医療化とは何か
2 社会現象としての「病」
3 医療保障制度の発展と医療の社会化
4 健康意識の変化と健康ブーム
5 医師の専門職化と信頼
6 医療スタッフに対する患者という役割
7 おわりに
○column 医療化の新たな判断基準とその影響
第11章 ケアの社会学――社会的な関係性の行為としての理解[濱野健]
1 医療現場での「ケア」
2 ケア労働――そのジェンダー規範を問う
3 人間関係のあり方としてのケア
4 おわりに
○column 訪問のすゝめ
第12章 看護・介護現場における「感情」の所在――まごころと思いやりが商品化されるとき[阪井俊文]
1 患者が求めるものは何か?
2 感情労働とその種類
3 お客様社会と感情労働
4 看護職の本質と「感情労働」
5 おわりに
第13章 健康と予防の産業化と自己責任論(ヘルス・フィットネス論)――消費社会における健康管理と予防への取り組みを再検討[阪井俊文]
1 健康を扇動する社会
2 消費社会化とヘルシズム
3 健康と「リスク」
4 医療が原因の病
5 おわりに
第14章 情報化社会の功罪――テクノロジーの進歩と医療の行方[阪井俊文]
1 情報化社会の功罪
2 ソーシャル・メディアの浸透とその弊害
3 ビッグデータがもたらす「監視社会」
4 情報社会と「格差」
5 おわりに
第15章 地域のなかの医療と福祉――地域社会を支える医療と福祉[木村多佳子]
1 住み慣れた地域で暮らし続けるためのしくみ
2 地域完結型医療と医療格差
3 在宅医療の提供体制
4 在宅医療とソーシャルワーク
5 おわりに
○column 放課後等デイサービスでの児童・家族支援
第16章 看護から考えるグローバル化――EPA制度を事例として[濱野健]
1 グローバル化とは何か
2 経済連携協定(EPA)と看護師候補生の受け入れ
3 看護の現場からの共生社会
4 おわりに
○column 日本人看護師としてオーストラリアで働くこと
第17章 医療ツーリズム――医療のグローバル化の可能性と問題点[須藤廣]
1 医療ツーリズムとは何か
2 医療ツーリズムの歴史
3 医療ツーリズムの現在――特にアジアを中心に
4 医療ツーリズムの問題点
5 日本における医療ツーリズム
6 おわりに
○column 東南アジア医療ツーリズム事情
第18章 生と死の社会学――現代社会における生と死の社会学的考察[鈴木健之]
1 はじまりは、パーソンズ――生と死の場としての「病院」
2 ホスピタルとホスピス
3 キュアとケア
4 THE END
○column パーソンズが語る老い
第19章 ウィズコロナの社会(学)――私たちの社会のこれまでとこれから[濱野健]
1 グローバル化した社会とパンデミック
2 後期近代における「不安」と「リスク」
3 「不安」により顕在化した社会的課題
4 おわりに
○column 「わからないことがわからない」世界と生きる
あとがき[阪井俊文・濱野健]
索引
執筆者紹介
前書きなど
はじめに
本書は看護専門学校等での講義を持っている教員が中心となって、看護専門学校・大学看護学部等、看護師を養成するコースの学生および、すでに看護師として働いている方の再教育に向けて書かれたものである。看護師の養成コースにおいては、社会学の授業が置かれていることが多いにもかかわらず、医療・介護現場に直結するような社会学の知識や考え方を紹介するようなテキストはあまりない。また、看護師が自分たちの専門性をより高めるための研修用教材にも、社会学から看護の領域について考察したものはほとんどない。本書において私たちは、看護師養成校における今までの教育経験から、学生たちがこれからの職業生活のなかで身につけるべき、社会学の基本的知識や考え方と、それを応用した看護(や福祉)の現場の社会学的研究の知見を、看護師のために厳選し、それぞれの立場から系統的に提示する。
現在、医療の現場は専門性をますます要求され技術的にも変化しているのみならず、社会的使命という点においても急激に変化している。言うまでもなく、患者や利用者は一人で生きているわけではない。家族・地域社会・職場等の人間関係が患者・利用者を支えている。そして、医療施設は患者・利用者にとっては一つの社会であり、世界である。また新型コロナ禍において明らかになったように、現代社会のなかにおいて医療施設は非常に重要な位置を占めており、それらのあり方が現代社会の一つの特徴をつくり上げている。従って、社会学の領域においては、医療(や福祉)の分野が次第に重要なものとなりつつある。看護師が身近に接する患者・利用者の現状と現代社会のあり方との関係について、あるいは看護という行為と現代社会のあり方との関係について、社会学の視点から見つめ直してみようというのが、本書のねらいである。
(…中略…)
本書は、患者のための社会学だけではなく、看護師自身の社会学をそのなかに含んでいる。看護師であることにはどんな喜びがあるのか、あるいはそこにはどのような問題点があるのかについても多くのところで触れている。看護師の(あるいはそれらに向けて勉強をしている)方々が、ときに自分の立場を振り返りながら、自分を見つめ直して生きていくためにもこの本が扱っている内容が大いに役に立つと筆者たちは自負している。私たちはそういう意味において、この本が看護師の方々の職業生活の参考になればと願っている。
(…後略…)