目次
はじめに ほんとうの連携と協働のために
本書を読むにあたって
Case1 アルコール依存症の母の代わりに家族を守ろうとした、8歳の児童の健全な育ちを取り戻すための協働
§ 担任教諭になされた「お金を貸してほしい」との相談
§ 母子の実情の把握と家庭訪問
§ 個別ケース検討会議の開催
§ 個別ケース検討会議に基づく各機関の対応
§ 第2回 個別ケース検討会議から新たなステージへ
§ 第3回 個別ケース検討会議
レビュー
Q1 相談にはどんな姿勢で向き合ったらよいでしょうか?
Q2 保健師は、秋葉保健師のように他機関からの相談を受け、受診した健診結果を理由にして家庭訪問をしたりするのですか?
Q3 秋葉保健師は、泥酔状態であるものの意識はある母に対し、挨拶と酔いが醒めたらお話ししましょうと言い残して、事務所に戻りました。この対応は適切と言えますか?
Q4 母子保健担当保健師の、アルコール依存症など親の精神疾患やメンタルヘルス不調への関わりについて教えてください。
Q5 子ども虐待とヤングケアラーの関係について教えてください。
Q6 アルコール依存症の治療と回復について教えてください。
Case2 機能不全家族に育つ若者が、解放を求めて家を出たあとの保護・支援と、その後の家族形成支援について
§ A子のメール発信から子どもシェルターにつながるまで
§ A子の自立援助ホームへの入所と妊娠発覚後の自己退所
§ 個別ケース検討会議とA子(特定妊婦)の支援
§ A子がCちゃんを出産するまで
§ 出生後の個別ケース検討会議
§ A子がCちゃんとの2人の生活を歩み出すまで
レビュー
Q1 子どもシェルターについて教えてください。
Q2 事例検討会で対象事例の心理的側面をアセスメントする際の留意点について教えてください。
Case3 重度の医療的ケア児に対する医療-保健-福祉の「手厚い」関与態勢の落とし穴
§ 薬局からの連絡と医師の初期対応
§ 医療機関から保健センターへの連絡と医師の対応
§ 個別ケース検討会議
§ その後の経過
レビュー
Q1 臨床医は保健福祉に関する知識経験をどのくらい備えているのですか?
Q2 医療ネグレクトとは? その対応は?
Q3 医療機関内の児童虐待予防/対応委員会(CPT、CAPS等)の意義と実情について教えてください。
Q4 保健福祉スタッフは患者情報について直接医師に問い合わせていいのですか?
Q5 医療的ケア児に対する家庭介護に関する支援施策について教えてください。
Case4 虐待であることを自覚できないローティーン女子への介入
§ 学校でA子の妊娠が発覚し、市の子ども家庭課に電話連絡が入る
§ 産科受診と2回の個別ケース検討会議
①情報共有と対応方針
②各支援者の役割が明確化され、支援ネットワークが機能する
§ その後の経過
レビュー
Q1 A子のような未成年の中高生の妊娠を学校が把握した際に、学校および連絡を受けた市の機関はどのような点に留意したらよいですか?
Q2 出産を決意した場合と、人工妊娠中絶を選択した場合とで、支援のあり方はどのように異なってくるものでしょうか?
Q3 児童・生徒の妊娠ケースに対して、子ども家庭課等の要対協調整機関、保健センターは、学校とどのように連携を図ったらよいでしょうか?
Q4 生徒の妊娠への初期対応に際して、学校が留意すべきことは他にもありますか?
Case5 2歳の女児が乳児院から家庭引き取りとなり在宅支援を行ったが、連携した支援に困難をきたした事例
§ 乳児院措置解除前の個別ケース検討会議
§ 家庭復帰後の多機関による在宅支援
レビュー
Q1 施設入所措置解除前の個別ケース検討会議には、どのような意義がありますか?
Q2 児童福祉司の発言にあった「保護者支援プログラム」とは何ですか?
Q3 「見守り」とは何をすることなのでしょうか?
Q4 在宅支援の判断について教えてください。
Q5 家庭復帰時に家族関係が変化している事例ではどういう点に留意が必要でしょうか?
Case6 虐待環境に生育した低学年児が示した暴言暴力
§ 事例化の経緯
§ 学校、子ども家庭課、スクールソーシャルワーカーの連携
§ 関係者会議
§ その後の経過
§ 児童精神科の関わり
§ 学校と子ども家庭課の協調介入および特別支援学級(通級)の導入
レビュー
Q1 就学時健診/要支援児童とは、どのようなものですか?
Q2 スクールソーシャルワーカーの機能と役割について教えてください。
Q3 WISC-Ⅳとはどのようなものですか。発達障害の診断にも使えますか?
Case7 支配的な母の下で、どこまでも母の期待に応えようとする少年
§ E男の気になる行動
§ 過干渉的で支配的な母
§ E男の強迫性障害
§ 合唱コンクールの準備の中で燃え尽きていったE男
§ 児童精神科への入院と両親の変化
レビュー
Q1 強迫性障害/強迫神経症とはどのような病ですか?
Q2 支配的、過干渉的な親の態度は心理的虐待と言えますか?
Case8 長期間のひきこもりの中で、本人と会えないまま計画した支援
§ 学校からひきこもり相談センターへ
§ A子の変化
§ A子との接触から入院まで
レビュー
Q1 長期の不登校やひきこもりの児童生徒を見つけたときは、まずどのように動けばよいのでしょうか?
Q2 親が子どもの将来のことを考えて勉強など教育課題を強いることは、子どものひきこもりや精神疾患を起こしやすくするのでしょうか?
Q3 ひきこもっている事例の「緊急事態」とはどのようなものですか?
Case9 予期せぬ妊娠による葛藤を抱えた高校生(17歳)の気持ちに寄り添った支援のあり方
§ A子からのNPOへの妊娠の相談
§ A子の妊娠葛藤と保健センターの対応
§ A子の救急搬送と両親らとの話し合い
§ A子の家族の問題
§ A子の出産の決意とA子を支える体制づくり
§ A子を支える体制とその動き
レビュー
Q1 妊娠に困惑し、母子健康手帳の交付を受ける以前に悩む女性への支援は?
Q2 包括的性教育(自分を大切に、自分を守る行動ができる力を育む教育)とは何ですか?
Q3 経済的に不安定である妊婦を把握した場合、アドバイスできることは?
おわりに
前書きなど
はじめに ほんとうの連携と協働のために
本書は、保健・福祉・医療、心理、教育、法律等多分野の専門家が集い、一領域の専門家は別領域の素人であることを自覚し、お互いの溝を埋めるべく議論を重ねて編み上げた事例集です。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前から、月1回編者らが集まって構想を練り、それぞれの現場で経験した事例情報を提示しあい、事例の理解や対応について討論しながら本書の各事例が構成されていきました。コロナ禍が長引き、討論の場はウェブ会議に移行しましたが、職種や支援の場の違いによって、言葉の使い方から、対象事例に対する着眼点や対応すべき優先順位まで、これだけ異なっているのだと改めて知り、これまで自分たちが関わってきたネットワークでは、いかに言葉足らずであったかを編者らが振り返ることができる契機にもなりました。
各事例は、編者や協力者の過去の経験をもとにしていますが、複数のケースに見られた要素を組み合わせたり、加除改変したりすることによって、どのケースもほぼ「創作事例」に仕上がっています。一つひとつの事例において、最初は支援者同士の関係がぎこちなく、緊張感が拭えず、伝えたいことがきちんと伝わっているのか実感が持てないような情報交換であっても、それぞれの支援者が感じ取った言葉の意味や考え方のずれを可能な限り言語化し、支援開始時の問題意識や検討の目的に立ち戻っては意見を出し合う姿に変化していくさまが描かれています。支援者はこうしたプロセスをたどって初めて、ネットワークは成長し、相互尊重に基づいたほんとうの協働関係が実現するのだと思います。そこでは自分の専門分野の枠を少し超えた発言や活動が職種間を結びつける「のりしろ」となって、各支援者の個別的な支援は統合され、対象事例にとって一貫したものとなり、対象者はそれを受け入れやすくなっていきます。
多職種連携・協働が、事例との関わりの深まりとともにどのように推移したのか、その連携協働の詳細を事例ごとに経過を追って示しています。事例ごとに異なった部分はあるものの、どんな事例にも共通する支援者の意識や態度についてもご理解いただけることを期待しています。
(…後略…)