目次
はじめに
田中ビネー知能検査モンゴル版の発刊に寄せて
第1章 モンゴル国における子ども発達支援の現状
第1節 モンゴル国の子どもたち[N.Oyuntungalag・D.Odgerel]
1.モンゴル国の概要
2.モンゴル国の教育制度及び子どもを取り巻く状況
3.モンゴル国における特別支援教育及び発達支援の課題
4.モンゴル国における発達障害児支援の現状と課題
第2節 子ども発達共同支援センターの取り組み[野邑健二]
1.名古屋大学のモンゴル国での活動
(1)名古屋大学とモンゴル国立教育大学の共同研究
(2)子ども発達共同支援センターの活動
2.モンゴル国の視察から得られた知見
(1)特別支援教育
(2)発達障害児支援
3.相談活動を行ってみて
(1)モンゴル国での相談活動
(2)A君の場合
(3)モンゴル国で発達相談をやってみて
第3節 知能検査開発までの経緯[永田雅子]
1.モンゴル国における発達・知能検査の現状
2.新たな環境に検査を導入することの意義と困難
第2章 知能検査開発から見えてきたもの
第1節 心理アセスメントにおける知能検査[金子一史]
1.心理アセスメントについて
(1)心理アセスメントとは
(2)生物・心理・社会モデル
2.心理アセスメントにおける情報収集の方法
(1)面接によるアセスメント
(2)観察によるアセスメント
(3)心理検査によるアセスメント
3.心理検査の標準化について
(1)原案の作成
(2)試行の段階
(3)原案の検討及び修正
(4)本検査の実施
(5)基準の設定
(6)検査自体の吟味
4.知能検査を標準化することの意義
第2節 発達支援における知能検査――田中ビネー知能検査の果たす役割
1.知能と知能検査(知能を測るということ)[野村あすか]
(1)知能とは
(2)知能のとらえ方
(3)知能の測り方
(4)知能を測る上での留意点
2.知能検査の種類と特徴[横山佳奈・野村あすか]
(1)ビネー式知能検査
(2)ウェクスラー式知能検査
(3)K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー
3.田中ビネー知能検査の特徴と発達支援における有用性[横山佳奈]
(1)ビネー式知能検査の歴史
(2)ビネー式知能検査の特徴
(3)田中ビネー知能検査Ⅴの特徴
(4)発達支援における有用性
第3節 知能検査モンゴル版開発から見る日本とモンゴル国の違い[若林紀乃]
1.開発の流れ
(1)各調査の経過について
2.検査開発調査の結果から見る知能と環境の関係性
第4節 検査問題の変更を通してみえる知能における環境・文化の影響[若林紀乃]
1.問題変更からみえた日本とモンゴル国の文化・社会的違い
検査問題の変更内容
2.知能における環境・文化の影響のうけ方
第5節 テスター養成を通して見えてきた、モンゴル国での課題[福元理英]
1.開発調査担当者への検査者養成研修の内容と工夫
(1)田中ビネー知能検査モンゴル版実施マニュアル作成
(2)開発調査担当者養成研修の枠組みづくり
2.検査が一般的でない社会に検査を導入することの意義
(1)知能検査の意義について
(2)知能検査を実施することの難しさと今後の課題
第6節 検査を実施できる人材育成のために[福元理英]
1.本プロジェクトでの検査者研修の内容
(1)指導者研修のスケジュールと内容
(2)モンゴル国における検査者養成研修内容
(3)研修テキスト作成について
2.検査を根付かせるための人材育成の重要性と課題
第3章 子どもの発達支援に検査を活かすために
第1節 臨床への活用[永田雅子]
1.検査実施の適応――支援に活かすために
(1)検査を行うべき時
(2)検査を行うべきでない時
2.検査の実施の準備をする
(1)検査道具に不備がないかどうか確認しておく
(2)検査場所の設定をする
(3)事前に子どもの概要について確認しておく
3.結果をより正確に解釈するために
4.結果の解釈
(1)数値的な情報の分析
(2)各問題の反応分析
(3)検査結果の質的検討
(4)観察記録の活用
(5)総合的な評価
5.子どもの状況に合わせた支援方針を立てる
(1)情報との照らし合わせ
(2)検査から支援を考える際の留意点
(3)支援方針を伝える――フィードバック
第2節 事例を通して学ぶ検査の活用の実際[横山佳奈]
第3節 モンゴル国における今後の発達支援に向けて[野邑健二]
1.日本における発達支援の現状
2.モンゴル国における発達支援の現状と今後
(1)モンゴル国における発達支援の現状と課題
(2)検査を発達支援に活かしていくために
検査用具の概要
田中ビネー知能検査モンゴル版 開発メンバー 一覧
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
はじめに
2013年に初めて名古屋大学がモンゴル国立教育大学を訪問し、共同研究を開始しました。モンゴル国を年に数回訪問し、またモンゴル国立教育大学の先生方に日本にもお越しいただき、お互いの国の状況を共有する中で、子どもたちの知的レベルを正確に把握するアセスメントツールの必要性が喫緊の課題であることが明らかになってきました。知能テストの標準化に取り組むことになったものの、最初は雲をつかむような話で、現名古屋大学モンゴル国立教育大学子ども発達共同支援センターセンター長のОдгэрэл(オドゲレル)先生と、南は九州、そして東京と、知能検査などの日本版の開発者の先生や、出版社の訪問を重ねていきました。この度完成した田中ビネー知能検査モンゴル版は、田中教育研究所を訪問した時に、モンゴル国の子どもたちのためになるならと全面的な協力を申し出ていただいたことで、可能となったものです。前モンゴル国立教育大学学長のМандах(マンダフ)先生には、田中教育研究所との契約時に訪日いただき、いかにモンゴル国にとって知能検査の開発が必要かをお話いただきました。そのことが、今回の開発の大きな後押しとなったと感じています。その後、JICA技術協力プロジェクト「障害児のための教育改善プロジェクト」にも協力を得られることになりました。モンゴル国全土の子どもたちに調査を行い、標準化をしていくという道のりはとても長く困難なもののように感じていましたが、さまざまな関係機関や関係の方々から全面的な協力、バックアップを得ることができ、モンゴル国初の標準化された知能検査を完成させることができました。
しかし、検査は開発して終わりではありません。この検査用具を適切に使用し、その結果を的確に評価し、その評価を、目の前の子どもたちに合わせた支援につなぎ合わせていくことができなければ意味をなしません。検査の実施や解釈ができる専門職の養成が急務となっています。この検査が測定する知能とは何を指すのか、子どもの発達はどういったプロセスをたどるのか、どういったプロフィールを示す子どもには、どういった支援が有効なのか、この検査を通して検討を重ねていくその過程自体が、モンゴル国の子どもたちの支援の体制を整えていくことにつながっていくと考えています。
モンゴル国立教育大学の中には、名古屋大学モンゴル国立教育大学子ども発達共同支援センターが2016年に設立され、すでに発達支援などを開始しています。この知能検査を活用しながらモンゴル国における子どもの発達支援のモデルを構築するとともに、今後も、共同研究や共同事業を通じて、お互いの発展に力を注いでいきたいと思っております。
この知能検査の開発を通した私たちの取り組みを広く知ってもらうことは、モンゴル国だけではなく、日本がアジアにおける発達支援の体制構築にどう貢献できるかについて多くの示唆を提供するのではないかと考えています。本書が、多くの人にアジアの国の子どもたちの支援を考える契機となれば幸いです。