目次
はじめに
Ⅰ.新型コロナと公衆衛生・社会
1 新型コロナ時代の公衆衛生の役割を考える[堀愛]
はじめに
1.公衆衛生とは
2.新型コロナの疫学
3.予防のレベルと予防原則
4.予防接種
5.リスクコミュニケーション
6.健康格差
おわりに
2 日本国憲法の視点から考える新型コロナ対策――人権の多面性と国家の役割[秋山肇]
はじめに
1.日本国憲法とは何か
2.新型コロナをめぐる法、政策
3.新型コロナ対策と日本国憲法
4.その他の検討すべき課題
おわりに
3 強制的テレワークにより従業員が受けた影響[マニエ-渡邊レミー・ベントン キャロライン・内田亨・オルシニ フィリップ・マニエ-渡邊馨子]
はじめに
1.調査の概要
2.結果と考察
おわりに
Ⅱ.新型コロナと福祉・教育
4 COVID-19感染拡大が高齢者の活動に及ぼした影響[山田実]
はじめに
1.老年学と超高齢社会
2.フレイルと介護予防
3.COVID-19感染拡大とフレイル
おわりに
5 障害者の虐待・孤立の実態把握と対策――障害のある人たちは新型コロナによって影響を受けたか[大村美保]
はじめに
1.研究デザイン
2.家庭内での子ども虐待
3.家庭内での障害者虐待
4.孤立による危機的状況の把握
5.新興感染症流行下での障害のある人たちへの虐待および社会的孤立の防止のために
おわりに
6 障害の有無にかかわらず、学びやすいユニバーサルな学習環境[佐々木銀河]
はじめに
1.大学等の高等教育機関における障害学生の状況
2.筑波大学におけるオンライン授業のアクセシビリティ調査
3.全国の大学等における障害学生のオンライン授業受講に関する調査
4.障害の有無にかかわらず、学びやすいユニバーサルなオンライン授業とは
おわりに
Ⅲ.新型コロナと日本、世界
7 コロナ下のマイグレーションとマイグランツ[明石純一・大茂矢由佳・金井達也]
はじめに
1.コロナ下のマイグレーション
2.マイグランツへの諸影響
3.サイバースペースにおけるマイグランツへの差別・嫌悪
4.日本で学ぶ留学生の苦悩と挑戦
おわりに
8 蔓延初期の日本・英国・ドイツ市民の行動変容[谷口綾子]
はじめに――研究領域の前提
1.日英独の概要と当時の感染状況、対策
2.日英独の比較分析
3.首都圏在住者の態度・行動変容
おわりに――ディスカッション・クエスチョン
Ⅳ.新型コロナと芸術
9 ディスタンス・アートの創作手法分析[宮本道人]
はじめに
1.ディスタンス・アートの形式
2.ディスタンス・アートの鑑賞
3.ディスタンス・アートの題材
おわりに
10 COVID-19下の創造性と芸術表現[池田真利子]
はじめに
1.新型コロナと文化芸術
2.新型コロナを契機とするオンライン文化芸術の創造
おわりに
Ⅴ.新型コロナとポスト・コロナ学
11 新型コロナと社会の変化・連続性――ポスト・コロナ学の構築に向けて[秋山肇]
はじめに
1.「ポスト・コロナ学」とは
2.新型コロナにより変わったこと――変化
3.新型コロナによっても変わらないこと――連続性
4.ポスト・コロナ学の射程と学問の役割
おわりに
おわりに
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書の構成
本書は、5部11章構成である。第1部は新型コロナと公衆衛生・社会を検討する章により構成される。堀が執筆する第1章は、公衆衛生が科学だけでなく技術の側面を有すると述べ、歴史にも言及しつつ、感染症対策を検討する際に学際的な議論が必要であると指摘する。秋山が執筆する第2章では日本国憲法の視点から、歴史的に重視されてきた自由権に限らず、生命権や生存権との視点を重視して感染症対策を行う必要があると論じる。第3章ではマニエ-渡邊らが、在宅勤務により家庭と仕事のバランスが変化したことを指摘する。
第2部は、新型コロナと福祉や教育に関連した章により構成される。第4章では老年学を専門とする山田が、コロナ禍における高齢者の身体活動時間の減少を指摘し、オンラインを利用した身体活動の取り組みを紹介している。第5章では大村が、コロナ禍における家庭内での障害者の虐待や孤立の問題を調査し、行政や学校などによる支援が重要であると述べる。第6章では佐々木が、大学の授業のオンライン化を取り上げ、障害の有無にかかわらず学びやすいユニバーサルな授業のあり方を論じている。
第3部は諸外国も射程に入れて新型コロナの影響を検討する。第7章では明石らが、新型コロナが脆弱な立場に置かれがちな国境を越えた人々の生活に与えた影響を分析している。第8章では交通計画を専門とする谷口が、日英独における交通行動や衛生行動について比較分析した。
第4部はコロナ禍における芸術に着目する。第9章では、宮本がコロナ禍で急速に増えたディスタンス・アートを類型化し、災害や危機における芸術の役割を指摘した。第10章では池田が、ドイツに言及しつつコロナ禍での文化芸術への公的な支援やアーティストの実践を紹介している。
第5部はまとめとして、第4部までの10の章をもとに、ポスト・コロナ学を構築する際に検討すべき、新型コロナによる社会の変化と連続性について議論している。
本書の特徴
本書には、いくつかの特徴がある。第一に学際性である。新型コロナが社会に与えた影響は広範であるため、一つの学問分野のみで分析するのは困難である。そのために学際的な視点が求められる。しかし異なる分野を横断して理解するためには、それぞれの学問分野や研究者が拠って立つ異なる前提を理解する必要がある。そのため執筆者には、各章の基盤となる知識を示すように依頼した。各章では新型コロナに関連する最先端の研究に触れると同時に、様々な学問領域の前提となる知識にも触れることができるだろう。
第二に、各章にディスカッション・クエスチョンを記載した点である。新型コロナによって様々な変化が生じたため、従来の学問の蓄積のみでは新型コロナが社会に与えた影響を理解し解決策を提示することが困難である。そのため、各章の執筆者が特定の研究分野の専門家としての知見を示すだけでは新型コロナの理解や解決策の提示、ひいてはポスト・コロナ学の構築には不十分であると考えた。そこで各執筆者からディスカッション・クエスチョンを提示してもらい、読者の皆さんに考えを深めていただけるようにした。読者それぞれの視点、経験を基盤として向き合ってみてほしい。
第三に、本書が想定する読者が多様であることである。新型コロナに関する影響に関心を持つ高校生、大学生、研究者、一般の読者の皆さんいずれにとっても有益な書籍となることを目指した。高校生の皆さんには、大学での研究の一端に触れつつ、それぞれの学問領域の基盤的知識を得て、新型コロナについて考える契機となれば幸いである。大学生の皆さんには最新の研究に触れつつ、自らが専門として学ぶ分野との関係性を考える契機としてほしい。新型コロナは影響が広範だからこそ一般の読者にも読んでいただき、今後の社会について考えてみていただきたい。また多様な分野の研究者にも新たな社会や研究のあり方を構想する契機としていただければ幸いである。いずれの読者にとってもディスカッション・クエスチョンが、それぞれのこれまでの経験や学び、知見と新型コロナや今後の社会を考える際の結節点になるはずである。ディスカッション・クエスチョンに対する答えは、読者や研究者の皆さんの数だけあるだろうが、本書を読んでいただき、ディスカッション・クエスチョンに向き合う先に、ポスト・コロナで目指すべき社会や学問の役割が見えてくるはずである。
(…後略…)