目次
序論[李暁東]
1.「コンタクト・ゾーン」を通して捉える北東アジアの「近代」
2.本論集の内容とその特徴
第1部 胚胎期から近代前夜までの北東アジア
第1章 モンゴル・「中国」の接壌地帯としての12~14世紀華北――モンゴル帝国の統治と華北社会の変容[飯山知保]
1.問題の所在
2.華北士人層とモンゴル支配
3.モンゴル時代華北の統治・官吏登用システム
4.渾源孫氏とその栄達
5.おわりに:華北社会の歴史におけるモンゴル支配の意義
第2章 大清国による歴史記述のモンゴル史的文脈[岡洋樹]
1.問題の所在
2.大清国のモンゴル統治範疇としての「外なるモンゴル(外藩)」
3.清代「外なるモンゴル」の王公タイジ系譜
4.「外なるモンゴル」王公タイジの功績記録としての伝記史料
5.清朝の「外藩」統治の理念
6.結語
第3章 ネルチンスク条約における「モンゴル」について――領有と決定[S.チョローン/訳・堀内香里]
第4章 駅站の守人――モンゴル国ハラチン集団の歴史と記憶[中村篤志]
1.はじめに
2.清朝治下漠北モンゴルにおける人の移動と駅站
3.ハラチン駅站の歴史とハルハ社会
4.サイルオス駅站の構造
5.ハラチンの駅站寺院とその後
6.おわりに
第5章 『大義覚迷録』から『清帝遜位詔書』まで[韓東育]
1.はじめに
2.『大義覚迷録』の問題設定
3.『大義覚迷録』の構造の分析
4.『清帝遜位詔書』と『大義』の終局的表現
第6章 東アジアにおける多様性の形成――「心学」を題材として[澤井啓一]
1.はじめに
2.朱子学の誕生と土着化
3.二つの心学
4.心学の土着化
5.日本における心学の展開
第7章 朝鮮における近代的国家構想――「民国」と「愛民」[井上厚史]
1.はじめに
2.「民国」説の検討(その1)――正祖「万川明月主人翁自序」
3.「民国」説の検討(その2)――蕩平君主と「民国」
4.朝鮮王朝における「民国」の系譜学
5.朝鮮の近代国家構想と「愛民」思想
6.結語
第8章 生態・移民・鉄道――準備されていた満洲の近代[劉建輝]
1.満洲の近代とは?
2.柳条辺と囲場、盟旗制度によって管理された満洲
3.封禁の解除
4.内外移民の流入
5.鉄道がもたらした近代と「満洲国」の誕生
第2部 「近代」の受容・再編・読み換え
第9章 対馬と異国船――来着と渡航[石田徹]
1.はじめに
2.異国船への対応体制――二つの「来着」
3.もう一つの「異国船」
4.もう一つの「渡航」
5.むすびに
第10章 露清外交におけるコミュニケーション=ギャップの実相――18世紀初頭と19世紀中葉の二つの事例を通じて[柳澤明]
1.はじめに
2.18世紀初頭の事例
3.19世紀中葉の事例
4.おわりに
第11章 中国的秩序の理念――その特徴と近現代における問題化[茂木敏夫]
1.はじめに
2.中国的秩序の理念と実態
3.中国的秩序の近現代における変容
第12章 ジャムツァラノの描いたモンゴルの近代的空間[井上治]
1.はじめに
2.ジャムツァラノ略歴
3.『国の権利』
4.『モンゴルの地の天命を革める行いの始まりを起こしたことの略史』(『革命略史』)
5.『モンゴル国の地勢』
6.『モンゴル国史』
7.おわりに
第13章 言葉、戦争と東アジアの国族の境界――「中国本部」概念の起源と変遷[黄克武/訳・苗婧]
1.はじめに――華夷秩序から現代国際政治と国境まで
2.何種類の地図から
3.中国本部観念の遡源――行省制度から中国本部概念の導入まで
4.顧頡剛と費孝通の「本部」、「辺疆」等の言葉をめぐる論争
5.おわりに
第14章 兪吉濬の文明社会構想とスコットランド啓蒙思想――東アジアにおける近代思想の受容と変容の一様相[張寅性]
1.はじめに――東アジアの啓蒙思想と思想連鎖
2.スコットランド啓蒙の受容と変容
3.「開化」と「文明」
4.「人民」と「各人」
5.「人世」と「交際」
6.「邦国」と「国家」
7.おわりに――主体的開化と「変通」
第15章 近代法理学の中国における受容と展開――梁啓超の自然法の「発見」を中心に[李暁東]
1.はじめに――「文化運動」としての「法学」
2.穂積陳重と梁啓超
3.自然法と法実証主義
4.「変革的原理」としての自然法
5.梁啓超における儒教的自然法と法理学
6.梁啓超の議論中における陳重
7.おわりに
第16章 朝鮮における〈アナーキズム的近代〉――20世紀初頭の東アジアにおけるクロポトキン主義の拡散と『朝鮮革命宣言』[山本健三]
1.はじめに
2.クロポトキンと申采浩
3.クロポトキン主義と朝鮮
4.『朝鮮革命宣言』と〈アナーキズム的近代〉
5.おわりに
第17章 朝鮮末期における近代的空間――民主主義的土壌の培養[李正吉]
1.はじめに
2.朝鮮末期の「民主主義の土壌づくり過程」:第一局面
3.朝鮮末期の「民主主義の土壌づくり過程」:第二局面
4.朝鮮末期の「民主主義の土壌づくり過程」:第三局面
5.おわりに
第3部 「コンタクト」に見る「光」と「影」
第18章 沖縄近代の再考によせて――日本帝国と同化主義の問題[波平恒男]
1.はじめに
2.帝国と帝国主義
3.日本の帝国化と琉球併合
4.日本帝国の同心円的構造
5.日本帝国の同化主義、沖縄の同化
6.「国内植民地」論ないしは「内部植民地主義」論について
7.おわりに
第19章 大韓帝国期漢城における水道建設――植民地都市「京城」の二重構造論との関連から[松田利彦]
1.はじめに
2.水道建設以前の朝鮮人・在朝日本人の水資源利用
3.漢城水道の建設
4.京城二重都市構造論と水道
5.おわりに
第20章 「蒙彊」を表象する――従軍画家としての深澤省三を中心に[王中忱]
1.「蒙疆」という地域
2.童画画家から従軍画家への歩み
3.「蒙疆」の画伯としての活動
4.「蒙疆」時期の絵制作
5.プロパガンダ的な作品が全て消えてしまったのか
6.「蒙古軍民協和之図」の多義的な意味
第21章 近代的な北東アジアの形成とロシアン・フロンティア――1920年のニコラエフスク事件とサハリン州保障占領[バールィシェフ・エドワルド]
1.はじめに
2.サハリン州とニコラエフスク事件
3.日本軍による北サハリンとアムール河下流地域の占領
4.サハリン州の「保障占領」に向けて
5.軍政の導入と地元ロシア人社会
6.結論
第22章 清の門戸開放後におけるロシアの茶貿易――キャフタ・漢口の流通を材料に[森永貴子]
1.はじめに
2.1850年代のキャフタ貿易危機とロシア商人の構造
3.ロシア商人の漢口進出と製茶工場
4.ロシアの茶貿易ルート拡大と漢口の役割
5.露清貿易の終焉と茶貿易
第23章 近代移行期済州島民の移動とトランスナショナル・アイデンティティ[趙誠倫]
1.序論
2.歴史の中の済州――耽羅から済州
3.海女たちの出稼ぎ
4.在日済州人社会の形成
5.帝国の解体と国境、そして密航
6.おわりに
第24章 1912~1932年における内モンゴル人の活動――東蒙書局、蒙古文化促進会及び東北蒙旗師範学校を事例に[娜荷芽]
1.はじめに
2.中華民国期の対モンゴル教育政策
3.東蒙書局と蒙古文化促進協会
4.東北蒙旗師範学校
5.おわりに
研究の歩み[李正吉]
執筆者紹介
索引
前書きなど
序論
島根県立大学北東アジア地域研究(NEAR)センターは、人間文化研究機構の地域研究推進事業「北東アジア地域研究」の研究拠点の一つとして、2016年から共同研究プロジェクト「北東アジアにおける近代的空間の形成とその影響」を推進してきた。本論集はプロジェクトの最終成果論集である。本プロジェクトを推進するNEARセンターは、2000年の本学の建学時に北東アジア研究を大学の特徴とする考えに基づいて創設されたものであり、以来、「北東アジア学」の創成を一貫して追求してきた。その理念について、創設者である宇野重昭初代学長は以下のように語っている。「北東アジア学の考え方の核心は、西欧によって作り出された『アジア』という概念を越え、改めて世界的視点からアジアを捉え直すものであり、さらにその開かれた世界的視点で西欧のありかたに対してもアジアの側から改変を迫るものであり、その上で、改変される欧米との触発関係において世界史的課題を捉え直し、もってアジアさらには北東アジアの『難問』を解明する可能性を探索しようとするものである」。このような理念は本プロジェクトの研究の中でも息づいている。
ここ5年間のプロジェクト研究の歩みに関する紹介は、本書の最後の「研究の歩み」に譲ることにして、序論では、本プロジェクトの狙い、特徴、およびその意義について、研究プロジェクトのこれまでの議論を踏まえつつ、筆者自身の理解に基づいて述べることにしたい。その後、本論集の各論文の内容を概観して、本書の意義を確認したい。
(…後略…)