目次
序章 誰が奴隷制を廃止したのか
第1章 奴隷制廃止までの一〇〇年
第2章 平等の音を響き渡らす
第3章 流血の闘いは続く
終章 ついに自由を得る
謝辞
訳者あとがき
原註
索引
前書きなど
序章 コロナ危機で問われているもの
歴史とは過去のことではなく、我々が過去をどう考えるのかを論ずることである。そして、我々を巡る議論であるがゆえに、歴史は我々自身について語ることになる。アメリカ合衆国史の研究上、奴隷制度が廃止に至った特徴や廃止の原因を巡る議論ほど白熱し、かつ継続的に、あたかも永遠に続くかと思われる議論はない。誰が、どのように、なぜ廃止したのか、そして究極的には廃止は何を意味するのかを巡って、議論は展開されてきた。こうした議論は我々の脳裏に焼きついたかのように払拭し難く、そのこと自体がアメリカ人にとって自由がいかに中心的な位置を占めているかの証しである。自由の重要性は、建国の礎たる憲章やアメリカ合衆国憲法で謳われた市民権の意味そのものに織り込まれている上に、現在もっとも深刻な国家的な社会問題、すなわち人種問題にもつながる。つまり、アメリカ人にとって、一五〇年近く前に実現した憲法修正による奴隷制の廃止に至るまでの闘いは、現在もまだ継続中で、それは我々自身の闘いでもあるのである。
本書『アメリカの奴隷解放と黒人――百年越しの闘争史』は上記の議論に加わることになるが、動産から人間へと変革を遂げた何百万人もの男女の物語である。よって、本書が扱うのは、アメリカ合衆国という共和国の誕生期と、建国以降に展開されてきた建国理念の達成に向けた闘争である。二〇世紀および二一世紀の時代に自由を問う行為が、一八世紀や一九世紀と同じように政治性を帯びるのは必至であり、それはアメリカ人の気質や野心、そして政治形態と深く結びついている。そして、自由の意味が問われる場が、もっとも手軽なポピュラー・カルチャーであろうが、もっとも難解な学術研究であろうが、自由を問う行為自体が政治的であることに変わりはない。
『アメリカの奴隷解放と黒人』は、歴史を理解する上でもっとも近づき難いとされる学術の立場から、奴隷制の終焉とそれが暗示することについて、継続中の議論を再考するものである。この議論は、奴隷制廃止の問題が表面化すると必ずと言ってよいほど起こる。
(…後略…)