目次
はじめに
第一部 現代スピリチュアリティ文化の理論と研究アプローチ
第一章 現代スピリチュアリティ文化の歴史と現在――対抗文化から主流文化へ
1 グローバル化とスピリチュアリティ文化の広がり
2 データで見る宗教とスピリチュアリティへの人びとの関心
3 スピリチュアリティ文化とは何か?
4 スピリチュアリティ文化の変遷Ⅰ(一九六〇年代から九〇年代前半)
5 スピリチュアリティ文化の変遷Ⅱ(一九九〇年代後半から二〇二〇年まで)
6 現代スピリチュアリティと「宗教」概念の再考
第二章 二一世紀西ヨーロッパでの世俗化と再聖化――イギリスのスピリチュアリティ論争の現在
1 社会学における「宗教」の位置づけ
2 一九六〇年代以降の世俗化論の成立と展開
3 イギリスの世俗化論争
4 宗教の世俗化と社会の再聖化
第三章 現代宗教研究の諸問題――オウム真理教とそれ以後
1 はじめに
2 日本の宗教学とオウム事件
3 「宗教」イメージの再考
4 研究対象とのかかわり方の問題性
5 研究者の社会的立場性への自覚
6 おわりに
第二部 現代幸福論とスピリチュアリティ文化の諸相
第四章 マインドフルネスと現代幸福論の展開
1 幸福論の過去と現在
2 世界幸福度地図の作成と幸福経済の確立
3 一九六〇年代以降のマインドフルネスの広がり
4 現代幸福論と新しいスピリチュアリティ文化のゆくえ
第五章 現代マインドフルネス・ムーブメントの功罪――伝統仏教からの離脱とその評価をめぐって
1 マインドフルネス・ムーブメントの到来
2 マインドフルネスの起源と発展
3 仏教の断片化、あるいは再文脈化
4 仏教の革新性と社会適合
5 薄れゆく宗教・スピリチュアリティ・科学の境界
第六章 グローバル文化としてのヨーガとその歴史的展開
1 持続的幸福とヨーガの結合
2 近代ヨーガから現代体操ヨーガの発展へ
3 日本におけるヨーガの展開
4 現代スピリチュアリティ文化と現代ヨーガの相互連関
第七章 「スピリチュアルな探求」としての現代体操ヨーガ
1 現代ヨーガのグローバルな展開
2 古典ヨーガからハタ・ヨーガへ
3 現代ヨーガのスピリチュアル化
4 アシュタンガ・ヴィンヤサ・ヨーガにおけるスピリチュアル化の実際
5 ヨーガ実践者の世界観の変容
6 現代ヨーガを通じてのスピリチュアリティの創出
第三部 スピリチュアリティ文化の開かれた地平
第八章 ポジティブ心理学と現代スピリチュアリティ文化
1 心理学とスピリチュアリティ文化のかかわり
2 ポジティブ心理学の誕生と発展
3 ポジティブ心理学における美徳研究
4 ポジティブ心理学による介入調査の事例
5 科学性をまとったスピリチュアリティ文化の発展
第九章 人間崇拝の宗教としてのヒューマニズム――ヒューマニストUKの活動を手がかりとして
1 生命の尊さの意味基盤をもとめて
2 ヒューマニズムの誕生と発展
3 イギリスでのヒューマニズム関連活動
4 人間崇拝の宗教
5 二一世紀の生命観の課題と展望
第一〇章 「自己」論へのアプローチ――エックハルト・トールとネオ・アドヴァイタ・ムーブメント
1 一九六〇年代以降の現代スピリチュアリティ文化
2 エックハルト・トールのプロフィールと活動
3 エックハルト・トールの思想
4 ネオ・アドヴァイタ・ムーブメントの展開
5 「自己の聖性」神話の終焉?
おわりに
初出一覧
参考・引用文献
索引
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書では、これらの幅広い、しかしある程度のまとまりをもつスピリチュアリティ文化を現代の幸福論という切り口から論じていく。具体的には、おもに二〇〇〇年代以降に発展したマインドフルネス、ヨーガ、ポジティブ心理学など、人びとの心とからだの持続的幸福の向上をめざすスピリチュアリティ文化の活動を取り上げる。そして、こうした実践にどのようなメッセージが埋め込まれているのかを手がかりとしつつ、現代スピリチュアリティ文化の最近の動向を究明したい。
本書は三部より構成されている。第一部は理論編であり、現代スピリチュアリティ文化の歴史的変遷(第一章)、当該文化の発展と伝統宗教の衰退との関係を扱った世俗化をめぐる論争(第二章)、および宗教学者が同時代の宗教を研究することがはらむ問題性(第三章)について論じる。各章はある程度独立しており、現代スピリチュアリティ文化の具体的内容に関心のある読者は、第一章の歴史的変遷を理解したうえで第二部以降に進んでいただいてもよいだろう。
第二部は事例編であり、本書での主要な研究対象であるマインドフルネスとヨーガについて取り上げている。まず現代幸福研究の動向をふまえたうえで、西洋で確立したマインドフルネスの特徴や具体的なプログラムについて詳述する(第四章)。つぎに、西洋式マインドフルネスへの仏教界などからの批判に対する社会学的考察をする(第五章)。そして二〇〇〇年代以降に発展した現代ヨーガに関しては、欧米と日本の歴史的変遷についてそれぞれ検討する(第六章)。そうした社会的背景をふまえ、ヨーガという身体実践が「スピリチュアルな体験」として理解されるメカニズムを究明したい(第七章)。
第三部は応用編であり、スピリチュアリティ文化の未来を読み解く手がかりとなる現象にふれていく。一見するとスピリチュアリティ文化との関連がそれほど明瞭でないポジティブ心理学(第八章)、およびヒューマニズム(第九章)の当該文化との関連を見きわめつつ、具体例を織りまぜながらその特徴について考察する。そして第一〇章では、エックハルト・トールの思想と活動、およびネオ・アドヴァイタ・ムーブメントについて論じる。トールらは、「本当のわたし」「自己の聖性」のイメージを解体する「自己」論を展開し、スピリチュアリティ文化の大半のメッセージとは一線を画する内容であると筆者は捉えている。したがって、当該文化の今後の動向を読み解く手がかりにもなるため、第一〇章で扱うことにする。
本書はおもに大学、大学院での宗教学、宗教社会学、宗教心理学関連の講義・演習のテキスト、サブテキストとして使用されることを念頭に置いてまとめている。しかし、スピリチュアリティ文化全般について、あるいはヨーガやマインドフルネス、ポジティブ心理学という個別の事象について関心をもつ一般読者にも十分理解できる内容となることを心がけて書いたつもりである。一九八〇年代から九〇年代前半にかけて「精神世界」やニューエイジとして知られていた文化現象は、その後の二〇年間でどのような展開を見せたのか。現代スピリチュアリティ文化の二一世紀最新版におけるいくつかの重要な場面に読者をご案内させていただければ幸いである。