目次
はしがき
序章 ソーシャルワークの新しい可能性
はじめに
1 本書の執筆に至る経緯
2 批判はどこまで到達しているのか
3 本書が明らかにしたいことと,そのための具体的構成
第1章 批判はどこまで到達しているのか――本書において明らかにしたいこと
はじめに
1 従来の議論から提出できたこと
(1)「近代の産物」としてのソーシャルワーク論の限界
(2)「実践の科学化」の必要性
(3)「共同性の価値」論
2 本書の課題と問題意識
(1)従来の議論のまとめ
(2)研究課題の設定
第2章 「実践の科学化」の方法論――「当事者」として何を引き受けることができるのかという問いを中心に
はじめに
1 「質的研究」への関心
(1)「演繹」か「帰納」か?
(2)質的研究の有効性
2 「参加型アクション・リサーチ」という方法の採用について
3 いかなる事象に対して,どのようにアプローチするか
(1)「事例=エスノグラフィー」という方法
(2)サンプリングの戦略
(3)倫理的配慮
第3章 「間柄的関係」の実践――「地域包括支援センター」の実践を例に
はじめに
1 「地域包括ケアシステム」を構成するサブシステムについて
(1)「地域包括ケアシステム」の概略
(2)「地域包括ケアシステム」を構成するそれぞれのシステムの操作上の概念定義
2 事例=エスノグラフィーの実際
(1)事例の選択と倫理的配慮について
(2)分析対象事例の概要
3 「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」に依拠した生活の包括的支援についての理解
(1)「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」とは
(2)「自助・互助・共助・公助」それぞれの生活支援システムの役割・機能
4 「互助・共助の社会関係」が意味するもの
(1)間主観性に基づいた「共生の論理」の構造
(2)「存在を承認する関係性」としての「互助・共助」のあり方
(3)「わたし」はなぜそこにいる「あなた」を認めようとするのか
第4章 「共感」から生まれる関係性のあり方――「あおやま広場」のコミュニティ・エンパワメント・スキームを例に
はじめに
1 「地域共生社会」構築の技法への関心
(1)「コミュニティ・エンパワメント・スキーム」実験開始の経緯
(2)実験プロジェクトの概要
(3)フィールドサイトの概要とサイトへのアプローチ
2 地域ニーズのアセスメント――「生活課題実態調査」の実施
(1)「生活課題実態調査」の概要
(2)「生活課題実態調査」の結果(概略)
3 介入計画の立案(プランニング)
(1)プランニングに向けたブレーン・ストーミングの実施
(2)「アクションプラン」の策定~プランニング過程
4 計画の実施(アクション)のプロセス
5 「アクション」の評価(エヴァリュエーション)のプロセス
6 考察
(1)「コミュニティ・エンパワメント・スキーム」とはどのようなソーシャルワーク実践なのか
(2)「関係性」への関心と視点
(3)「共感と共有」の視点
第5章 「対話」による公共空間の構築――中津市地域福祉計画・地域福祉活動計画の策定プロセスを例に
はじめに
1 中津市の概要
2 「地域福祉計画」と「地域福祉活動計画」の一体的策定
3 計画策定に向けた「作業部会」の活動プロセス
4 「作業部会」の具体的な検討内容
(1)一例としての沖代地区の取り組み
(2)「作業部会」の活動内容
5 策定された「第3次中津市地域福祉計画・地域福祉活動計画」の内容
6 考察――中津市の取り組みから考えるべきこと
(1)住民相互の「関係性」のあり方
(2)「対話の実践」としてのソーシャルワークの意味
第6章 見出された「意味」の構造とは――「間柄的関係,共感,対話」という3つのキーワードから同定されるもの
はじめに
1 「間柄」として存在を見る視点の「意味」について
(1)岡村重夫による和辻倫理学の受容
(2)和辻弁証法の展開
(3)岡村理論の限界
2 「共感」の意味するところ
(1)「共感」の構造
(2)「人格」の構造
3 「対話」の意味するところ
(1)「対話」の歴史的発展
(2)「対話」の新たな戦略
(3)「対話的理性」の位置づけ
終章 ソーシャルワークが目指す社会のあり方とは
1 ここまでの論究の振り返り
2 「価値」と「原理」との関係
3 今後の課題
(1)理論的洗練の必要性
(2)理論と実践の往還(=「実践の科学化」)の確立に向けて
用語解説一覧
参考・引用文献
あとがき
索引
前書きなど
序章 ソーシャルワークの新しい可能性
(…前略…)
3 本書が明らかにしたいことと,そのための具体的構成
本書はこのような関心のもと,既存の理論の演繹的な説明ではなく,「実践の科学化」とよばれる帰納的な理論構築の方法によって,葛藤するソーシャルワーカーの実践に密着しつつ,それらがいかなる「意味的世界の可能性」に開かれているのか,そしてその「意味の構造」は,いかなる論理によって支えられるのか,「価値と原理がもたらす,生活のアクチュアリティとはいかなるものか」についての論究を行いたい。
具体的には,ミクロレベルにおいて「地域包括支援センター」の個別援助の事例,メゾレベルにおいて「コミュニティ・エンパワメント・スキーム」(用語解説一覧を参照)によって展開された地域づくりの事例,マクロレベルにおいて「地域福祉計画・地域福祉活動計画」策定の事例,の3つの事例(=エスノグラフィー)を実態調査のデータとして参照しつつ,「並列する3つの位相」を垂直に貫徹する「意味の構造の独自固有性」を明示することによって,ソーシャルワークがいかなる価値と原理をもち,どのような社会的現実(=意味的世界)を具象化しようとしているのか,その価値と原理に加えて,実現しようとする社会的現実の具体的なあり方を踏まえた,ソーシャルワークについての理論枠組みと具体的実践の立体的な理論の構築を試みたいと考える。
そのため,まず第1章においては,「批判はどこまで到達しているのか」と称し,筆者のこれまでの研究のなかで「何が明らかになり,何に言及する必要があるのか」を振り返りつつ,本書のなかでこれから明らかにすべき研究設問について改めて明示したい。
そのうえで,第2章ではその研究設問に対する解を導くための研究方法論,とくに参加型アクション・リサーチ(Participatory Action Research[用語解説一覧を参照])によるデータ収集の技法と,エスノグラフィーとしてソーシャルワークの実践事例をとらえる可能性について述べ,対象者の「語り」のデータの切片化などといった「客観的な」研究方法ではなく,筆者自身がソーシャルワークに参加して「実践の科学化」を行うための,具体的な研究方法について詳述する。
さらに,データ・サンプリングの戦略として,「ミクロ・メゾ・マクロ」の3つの位相についてのデータを取り扱う根拠について述べる。これは,前著において筆者が医療ソーシャルワークの実践場面をデータとして取り扱ったということもあるのだが,近年叫ばれている「地域包括ケアシステム」の構築,さらにその上にある「我が事・丸ごと地域共生社会」なるものの提示,そして「地方創生」「一億総活躍社会」といった政策課題が矢継ぎ早に登場してくるなかで,「地域」におけるソーシャルワークのあり方が改めて問われていると考えたからである。
そして,概念整理に続いて実践のフィールドワークに基づくエスノグラフィー・データ(=各位相における事例データ)について述べる。
第3章では,筆者が対話型スーパービジョン(用語解説一覧を参照)を行った地域包括支援センターのソーシャルワーカーが,生活課題を抱えた高齢の姉妹を支援した事例をミクロレベルの事例(=エスノグラフィー)として描写をし,同様に第4章では,筆者自身が実践に参画した「コミュニティ・エンパワメント・スキーム」の展開をメゾレベルにおけるデータとして分析した。第5章においては,筆者自身が策定委員長を務めた地域福祉計画・活動計画の策定プロセスを詳細に記述・分析していくことで,3つの位相における事例(=エスノグラフィー)の分析に共通する,ソーシャルワークの実践に内包された「意味のモメント」についての考察を試みる。
第6章においては,3つの位相における事例(=エスノグラフィー)から析出された「意味のモメント」の連関構造について,検討と考察を行う。そこでは,「間柄的関係=間主観性」の立場から存在を把握しようとするカール・レーヴィット,和辻哲郎,そして和辻倫理学から大きな影響を受けた社会福祉学の嚆矢・岡村重夫の所論を参照しながら,ひとびとを「間柄的存在」として把握する間主観性を基礎としたソーシャルワークの視点について述べる。そのうえでひとびとが「共感」しながらひとつの共同体(=コミュニティ)を形成しているという事実から,マックス・シェーラーの「共感による人格と理性の形成」の論理を参考とした「人と人との関わりのあり方」についての検討を加え,最後に地域においてひとびとが「対話」していくことにより,新たな理性(=コミュニケーション的合理性)を獲得しうるというハーバーマスの理論を活用しながら,「間主観的な個人が,他者と相互の共感関係への参与をもって,人格と理性を確立しつつ,コミュニケーションと対話という営みをとおして,近代的合理性(=道具的理性)だけに回収されない新しい人格と理性のあり方」を提示することを試みる。
そして,そうした新しい世界の人格や理性を備えたひとびとが,相互に関係することによって成立する公共空間(=共同体としてのコミュニティ)のあり方についてまで,言及することを試みたい。
本書は単に思想や哲学について述べるのではなく,まさに「実践の書」であることを目指している。
社会福祉学,ソーシャルワーク理論というものは,現実に働きかけることによって意味をもつという点において,実学であると筆者は考えている。
前著において難解であるという評価をいただいたように,本書の主題に対する解を提出することは容易ではないが,可能な限りソーシャルワークの実践場面を活用し,それが実践にとって「準拠しうるフレームワーク」となることを期待しながら,できるだけ多くの方々に理解していただけるように,著述を進めていきたいと考えている。