目次
はじめに
序章 「語られるリスク」と「語られないリスク」─「新型コロナウイルス×沖縄」をめぐる新聞報道の諸相─
第1節 原発事故から新型コロナへ
1.1 東日本大震災と福島第一原発事故があぶり出したもの
1.2 コロナに関するリスクコミュニケーションに批判的な目を向ける
1.3 新聞報道からリスクコミュニケーションの諸相を読み解く
第2節 誰が何をリスク視するのか
2.1 リスクコミュニケーションとは誰が何をすることなのか
2.2 一方向的なリスクコミュニケーションの意図
第3節 新型コロナウイルスをめぐる報道の諸相
3.1 感染源をめぐる報道
3.2 米軍基地内感染をめぐる報道
第4節 未来に向けての提言─リスクコミュニケーション再考─
第1章 敵はコロナか、みんなか─戦争メタファーから考えるリスクコミュニケーション─
第1節 はじめに
第2節 リスクコミュニケーションで用いられる戦争メタファーの可能性と危険性
2.1 リスクコミュニケーションでメタファーを活用する意義
2.2 戦争メタファーとはなにか
2.3 戦争メタファーの特徴
2.4 新型コロナウイルス感染拡大をめぐる言説で戦争メタファーを用いる危険性
第3節 敵はだれなのかを見抜くための分析法
第4節 戦争メタファーを用いる言説の具体的分析
4.1 2020年4月7日の安倍首相記者会見
4.2 安倍首相記者会見における戦争メタファーの機能
第5節 戦争メタファーを用いたリスクコミュニケーションへの提言
5.1 より多くの市民に届くリスクコミュニケーションの模索
5.2 異なる視点から考える
5.3 戦争メタファーではなく体験談から考える
5.4 戦争メタファーの使用をめぐる今後の課題
第6節 おわりに
第2章 ヘイトスピーチに見られる「言葉のお守り」─排外主義団体の選挙演説の分析から─
第1節 はじめに
第2節 ヘイトスピーチをどのように分析するか
第3節 選挙演説のヘイトスピーチで語られているもの─言語的特徴の分析─
3.1 対比による「ウチ」と「ソト」の二分化
3.2 スローガンの使用
3.3 文末表現の特徴
3.4 曖昧表現
第4節 「排除」と「差別」を正当化する論証構造
4.1 リスク①:国民安全に危険・危機を与える存在
4.2 リスク②:経済・財政への負担
第5節 ヘイトスピーチに向き合う「権力」の姿勢
第6節 ヘイトスピーチによる「排除」にどう対抗するか
第3章「外国人児童生徒」とは誰のこと?─言葉の奥にあるものを批判的に読み解く─
第1節 リスクでないものがリスクとみなされる時
第2節 「外国人児童生徒」に対する教育
2.1 「外国人児童生徒」とは?
2.2 「外国人児童生徒」に対する教育
2.3 「外国人児童生徒」教育の指針を示すもの
2.4 違和感の正体を紐解く─批判的言説分析との出会い─
第3節 言説を分析することで見えてくるもの
3.1 「私」の正義は「私」が作り出したもの?
3.2 ある言説が支配的になる時
3.3 なぜ言説を分析するのか?
第4節 『外国人児童生徒受入れの手引 改訂版』の分析
4.1 「外国人児童生徒」の範囲
4.2 「外国人児童生徒等」を受け入れること
4.3 在籍学級担任と日本語指導担当教師
第5節 考察
5.1 日本語指導が焦点化されることと、それによる懸念
5.2 「外国人児童生徒等」を受け入れることの意味
5.3 日本語指導担当教師と在籍学級担任の間に境界線が引かれることの意味
5.4 排除と包摂の教育制度
第6節 これからの教育に向けて─自分自身のイデオロギーを分析する─
第4章 学校制服とリスクコミュニケーション─ジェンダーの観点から─
第1節 はじめに
第2節 日本の学校における女子制服の導入過程─明治から戦前まで─
2.1 袴の着用から洋装へ
2.2 和装への回帰と袴への再転換
2.3 制服による帰属感の創出と管理機能
2.4 洋装制服の定着
2.5 女子制服の定着過程と「望ましい女性像」
第3節 戦後の女子制服
3.1 第Ⅰ期:戦後~1970年代前半
3.2 第Ⅱ期:1970年代後半~1980年代半ば
3.3 第Ⅲ期:1988年~2000年
3.4 第Ⅳ期:2000年代~現在
第4節 制服とリスクコミュニケーション
4.1 制服の管理機能とリスクコミュニケーション
4.2 性の対象とされる女子制服とリスクコミュニケーション
4.3 性的マイノリティと制服─望ましいリスクコミュニケーションとは─
第5節 おわりに
第5章「障害」の表記とその言説をめぐって
第1節 はじめに
第2節 「障害」の表記をめぐって
第3節 個人モデル・社会モデルと「障害」の表記
3.1 「障害」か「障碍」か「障がい」か
3.2 「障害者」に代わる表現を求めて
第4節 「見える障害」と「見えない障害」
第5節 障害と当事者性
第6節 パラリンピックと障害者
第7節 おわりに
第6章 コロナパンデミック・ロックダウンと「私たち(市民)」─メルケル首相の演説と感染予防条例にみるリスクコミュニケーション─
第1節 はじめに
第2節 市民に連帯を呼びかけるメルケル首相の演説
2.1 メルケル演説の全体的な印象
2.2 段落ごとの特徴
2.3 コロナパンデミック・ロックダウンの描き方
2.4 政府・民主主義の描き方
2.5 首相自身の描き方
2.6 私たち・身近な人の描き方
2.7 演説全体から見えてくるもの
第3節 ベルリンの感染予防条例
3.1 ベルリンにおける新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染拡大を抑制するために必要な措置に関する条例
3.2 メルケル首相演説後のコロナ関連条例
3.3 SARS-CoV-2感染予防条例
3.4 11月3日発効の感染予防法
3.5 感染予防条例が前提とするもの
第4節 ロックダウンとリスクコミュニケーション
第7章 コロナの時代と対話
第1節 はじめに
第2節 コロナでリスク視され、排除されている人たち
2.1 「であること」という属性重視のコロナ対策
2.2 名詞句の属性的用法と指示的用法
2.3 指示的用法から生まれる差別
2.4 何がリスクか
第3節 コロナ関連の言説分析
3.1 コロナ報道の定型性
3.2 ストーリー展開の定型化と思考の固定化
3.3 コロナ時代の社会変革の言説
第4節 未来への提言─誰もが「すること」が可能なコロナ対策─
4.1 リスクを防ぐことばの使い方の開発
4.2 「異」を「違」に変える生き方
4.3 空白を余白に変える活動記録
4.4 いいかげんを良い加減へ
第5節 コミュニケーションのより大きなリスクを防ぐために
5.1 コロナと環境問題の接点
5.2 ことばの使い方の環境モデル
第6節 結論
第8章 食品中の放射性物質って安全なんですか?─「おおよそ100mSv」の意味と、守られない私たち、管理される私たち─
第1節 なぜ「食の安全安心」について考えようと思ったのか
1.1 放射能汚染に巻き込まれて
1.2 「安全安心」のリスクコミュニケーションから見えてくるもの
第2節 「官製リスクコミュニケーション」を取り上げる
2.1 内閣府「食の安全安心セミナー」の配付資料を分析する
2.2 批判的談話研究の姿勢で分析する
第3節 放射線・放射性物質についての説明を分析する
3.1 リスクコミュニケーションのイメージ
3.2 リスクコミュニケーションの構図と問題点
3.3 放射線・放射能・放射性物質とは
3.4 放射性物質を摂った時の人体影響
3.5 放射性物質が減る仕組み
3.6 内部被ばくと外部被ばく
3.7 もともとある自然放射線から受ける線量
3.8 放射線による健康影響の種類
3.9 ここまでのリスクコミュニケーションについて
第4節 食品健康影響評価についての説明を分析する
4.1 放射性物質に関するリスク評価とリスク管理の取組
4.2 食品健康影響評価にあたって①
4.3 食品健康影響評価にあたって②
4.4 食品健康影響評価の基礎となったデータ
4.5 食品健康影響評価の結果の概要
4.6 「おおよそ100mSv」とは
第5節 官製リスクコミュニケーションを読み解く
5.1 イデオロギーについて
5.2 コミュニケーションする姿勢や態度について
5.3 ヘゲモニーについて
第6節 未来に向けての提言─対抗するリスクコミュニケーションを─
6.1 そこで行われていたのはディス・リスクコミュニケーション
6.2 私たちの、私たちによる、私たちのためのリスクコミュニケーションを
6.3 最後に
補遺 いわゆる「処理水」についてのチラシを読み解く─「対抗するリスクコミュニケーション」の実践─
おわりに
前書きなど
はじめに[名嶋義直]
(…前略…)
各章の概要:さまざまなリスクコミュニケーションの諸相
本書は序章から第8章まで大きく4つに分けられる。( )内は執筆テーマである。
はじめに:名嶋義直(本書の概説)
序章:名嶋義直([コロナ×沖縄]の報道にみるリスク視と排除の実践)
第1章:太田奈名子(コロナと戦争メタファー)
第2章:韓娥凜(ヘイトスピーチ)
第3章:村上智里(外国にルーツを持つこどもたちの教育)
第4章:義永美央子(制服をめぐるジェンダー的問題)
第5章:林良子(障害者をめぐって)
第6章:野呂香代子(ドイツのコロナ対策と人間性疎外)
第7章:西田光一(コロナ時代の新しいコミュニケーションのあり方)
第8章:名嶋義直(食品の安全性、放射能汚染について)
補遺:名嶋義直(汚染水の海洋放出について)
おわりに:執筆者全員(読者へのメッセージ)
序章と第1章では「コロナをリスク視する言説」を取り上げる。
序章では、2020年7月におけるコロナ状況全般と沖縄の米軍基地で発生した大規模感染をめぐる新聞報道を取り上げ、そのリスクコミュニケーションの諸相とその背後に見え隠れする政府やメディアの意図や功罪について考察する。(……)
第1章では、戦争メタファーを用いて新型コロナウイルス感染拡大に言及する政治家の言説、特に、安倍晋三前首相が初の「緊急事態宣言」を発令した2020年4月7日の記者会見における発言を分析し、リスクコミュニケーションにおいていかにメタファーが活用されているかを論じる。(……)
第2章ではヘイトスピーチを取り上げる。(……)本章では、排外主義を掲げる政治団体の選挙演説を分析し、
日本社会の構成員である外国人や在日コリアンおよび朝鮮人を誰がどのようにして社会のリスクとみなしているのかを読み解き、その非論理性や欺瞞性を可視化するとともに、そのような言説に流されないようにするための姿勢を提言する。
第3章では外国にルーツを持つ子どもの学校での受け入れや指導に関する文書等の言説を取り上げる。分析では、日本語習得が最優先とされることで言語以外の支援が不可視化されてしまうこと、日本語指導が必要な外国にルーツを持つ子どもの指導には負担が伴うという認識が前提とされており、彼ら/彼女らが日本の学校に通う意義は「日本人児童生徒」にとってメリットがあるという文脈でしか認められないこと、さらに、彼ら/彼女らの教育は国民を育てるメインストリームの教育とは「別物」として捉えられていることを示し、日本の教育制度から「排除」とも言える扱いを受けていることを可視化する。(……)
第4章では、日本の学校における制服とジェンダーとの関わりを、特に女子制服に着目しながら通時的に分析する。また、女子制服の変遷の背景にある社会状況や、人々の価値観についてもあわせて検討する。(……)
第5章では障害者をめぐる言説を取り上げる。(……)そこでさまざまな「障害」や「障害者」に関する言説を取り上げ、使用表記の乱立やその原因、ともすると避用、無視されてしまうという現状を明らかにすることで、障害者と健常者の世界を分断してしまうリスクについて指摘する。言語障害や発達障害などの「見えない障害」や障害の「当事者性」、パラリンピック報道との関連についても取り上げ、障害を「見える化」し、多くの人々が人生の早期から障害を身近なものとして感じることができる環境を構築していくことを提唱する。
第6章と第7章では再びコロナ時代の社会に目を向け、人間性や人間そのものをリスクとしてみなし排除していこうとする言説を取り上げ、コミュニケーションのあり方を論じる。
第6章ではドイツのコロナ対策を分析する。メルケル首相の演説とベルリン感染予防条例のテクストを批判的に検討しながら、市民生活の何がどのような形で変化していったかを見る。(……)
第7章では「コロナ時代の対話」について考える。(……)第7章では、コロナウイルス感染に関するリスクコミュニケーションにおける固定化や分断の実態を明らかにし、分断が分断を生む負の連鎖に陥らないための4つの視点と方法を提案する。(……)
最後の第8章と補遺では放射能汚染に関するリスクコミュニケーションを取り上げる。原発事故後、放射性物質や放射能汚染に関する政府自治体主導のリスクコミュニケーションが全国規模で行われてきた。コロナ感染拡大の今、原発事故が起こり放射能汚染が広がった当時の言説とまったく同じ表現のもの、「~を正しく怖がる」や「~と戦う」「~に負けない」という言説が見られるのは単なる偶然ではないであろう。
第8章では、原発事故のあと政府・自治体主導の形を取り全国規模で展開されている「食品の安全性をめぐるリスクコミュニケーション」の言説の中から2013年のものを分析することで、コロナ時代の今と原発事故後の過去とをつなぐ。(……)
補遺では復興庁が公開したいわゆる「処理水」のチラシを取り上げる。このチラシは復興庁HPで公開されると同時に批判の声があがり翌日には公開休止となったが、チラシからは本書が指摘し論じてきたリスクコミュニケーションをめぐる諸問題が透けて見えた。(……)第8章と密接に繋がる部分も多いが、ぜひ本書全体のまとめとして読んでほしい。