目次
はじめに
序章 私たちはどこにいるのか
1 「共生の障害学」を求めて
2 障害者差別の本質――排除と隔離
3 「生きる権利」が脅かされる社会で
4 格差と貧困の深刻化
5 コロナ禍での生命と尊厳の危機
6 優生思想と資本主義
7 「解放の障害学」と「共生の障害学」
第1章 障害の社会モデルとは
1 障害の表記をとらえる視点
2 障害の表記をどう考えるか
3 「障害の社会モデル」の原点
4 「障害の社会モデル」の理論化と発展
5 障害の社会モデルの意義
6 障害の社会モデルへの批判と発展
7 イギリス障害学とアメリカ障害学
第2章 当事者学としての障害学
1 「当事者学としての障害学」とは
2 当事者とは誰か
3 健常者は障害学研究の主体になり得るか
4 当事者主導の重要性
第3章 障害学の研究方法
1 従来の障害研究の問題点
2 解放論的障害研究の意義
3 障害学研究における「立ち位置」の重要性
4 厳格な研究方法の重要性
5 障害学における参加型研究の意義
第4章 共生の障害学の地平
1 障害者運動の目的としての共生
2 障害学の課題としての共生
3 英米の障害学をどうとらえるか
4 新自由主義と「共生の障害学」
5 自立を欠いた共生概念の抑圧性
6 関係性としての共生
7 根源としての自然との共生
第5章 共生社会政策の超克
1 ソーシャルインクルージョンの2つの源流
2 ソーシャルエクスクルージョン概念の意義
3 ソーシャルインクルージョン概念への批判
4 欧州におけるソーシャルインクルージョン政策の問題点
5 日本における共生社会政策の問題点
6 自立支援と共生社会政策
7 地域共生社会政策の問題点
8 地域共生社会政策の超克
第6章 合理的配慮を問い直す
1 合理的配慮の意義と陥穽
2 「機会平等」に潜む能力主義とその批判
3 障害者運動の2つの目標――「機会平等」と「存在平等」
4 共生共育の論理――「存在平等」の希求
5 分離教育としてのインクルーシブ教育システム
6 機会平等としての教育における合理的配慮の意義
7 機会平等としての教育における合理的配慮の限界と「共に生きる権利」
8 「差別の責任」を問う合理的配慮概念の深化を
第7章 障害児の権利とは
1 障害者差別と子ども差別
2 障害児の権利の位置づけ
3 障害者権利条約における障害児の権利
4 第7条(障害のある子ども)の解釈と評価
5 第24条(教育)の解釈と評価
6 第1回日本政府報告の障害児の権利認識の問題点
7 第7条(障害のある子ども)についての報告の評価と日本の課題
8 第24条(教育)についての報告の評価と日本の課題
9 障害児の意見表明権と必要な支援
10 障害児観転換の必要性
第8章 教育におけるディスアビリティの克服
1 イギリス障害学における教育研究から学ぶ
2 『ウォーノック報告』と1981年教育法をめぐる問題
3 イギリスの教育制度と障害児教育
4 インテグレーションからインクルージョンへ
5 障害者運動が求めるインクルーシブ教育
6 障害学における教育研究の視点
7 日本への示唆
第9章 自立生活運動におけるピアカウンセリングの意義
1 日本におけるピアカウンセリングの導入と広がり
2 専門家による支配から相互援助ヘ
3 自立生活運動の根底としてのピアカウンセリング
4 ピアサポートとしてのピアカウンセリング
5 心理的援助としてのピアカウンセリング
6 ピアカウンセリングをめぐる論点
7 自立生活センターの2つの側面
8 ピアカウンセリングにおける対等性と専門性
9 ピアカウンセリングの基礎としての再評価カウンセリングの意味
第10章 CILによる地域移行支援がめざすもの
1 自立生活運動における地域移行支援の始まり
2 調査の対象・方法・倫理的配慮
3 調査協力団体の現況
4 施設訪問・地域移行支援の経過
5 地域移行支援の概要
6 CILによる地域移行支援のプロセス
7 意識覚醒期における支援内容と特徴
8 地域移行期における支援内容と特徴
9 自立生活期における支援内容と特徴
10 CILによる地域移行支援の意義
終章 障害学はどこに向かうのか
1 イギリス社会モデル批判の論点
2 イギリス社会モデルをとらえ直す
3 マルクス主義障害学の定立に向けて
4 障害学は生存学に解消されるか
5 障害者を肯定する倫理
6 財の分配のあり方
7 障害学はどこに向かうのか
文献一覧
前書きなど
はじめに
相模原障害者殺傷事件以降の、そしてコロナ禍での障害者の情況は深刻であり、社会が障害者排除の方向に舵を切りかねない怖さを感じている。このような情況の中で、障害学研究は共生社会の実現という目的に向けて行わなければならないという私の主張を明確な形で示し、問題提起をさせていただくことには一定の意味があるのではないかと考え本書の出版を決意した。
「何のため誰のための障害学か」という最も重要な立ち位置が、不明確になっているのではないかという危機感を持つからである。
私の研究は、学生時代に障害者運動と出会ったことから始まった。とりわけ、養護学校義務化に反対し地域の学校で共に学ぶ教育をつくり出す運動に決定的な影響を受けた。この運動に関わることにより、地域の学校や社会からの排除と特別な場への隔離が、障害者差別の本質であるとの確信を持つようになった。そして、差別からの解放とは、すべての人が存在を肯定されて、共に生きることができる社会をつくり出すことだと考えるようになったのである。本書は、このような問題意識に立って取り組んできた障害学に関わる近年の主要な論文をもとに、大幅な加筆修正を加え編集したものである。序章と終章は新たに書き下ろした。
(…後略…)