目次
刊行のことば[首藤明和]
はじめに[櫻井義秀]
1.本書の視点
2.本書の構成(各章の概略)
第1章 中国における三つの宗教市場――赤色・黒色・灰色の宗教市場[楊鳳崗/翻訳:櫻井義秀]
1.はじめに
2.宗教への需要と供給
3.宗教経済における規制
4.厳しく規制される三つの宗教市場
5.中華人民共和国時代の宗教規制
6.改革期の中国における三色の宗教市場
7.討論
第2章 現代中国におけるチベット仏教と漢族の交流と課題[川田進]
1.はじめに
2.チベット仏教の概況と研究の動向
3.北京・雍和宮界隈に見る仏教ブーム
4.2017年,ツルティム師の初来日
5.ラルン五明仏学院の門を叩いた漢族
6.五台山と上海菩提学会
7.中国共産党とラルン五明仏学院の関係
8.おわりに
第3章 国家をかわす――現代中国における回族のインフォーマルな宗教活動[奈良雅史]
1.はじめに
2.宗教の制度化
3.国家をかわす
4.おわりに
第4章 キリスト教系NPOの障害児養護を通じた公共領域への展開――中国のキリスト教復興と公民社会を考察する端緒として[佐藤千歳]
1.はじめに
2.主要宗教による社会活動とキリスト教
3.公共圏の復興か、諮問的権威主義の補強か
4.FBOによる児童福祉事業の展開
5.おわりに
第5章 現代中国における新興家庭教会の公開化路線――北京守望教会の「山の上の町」教会論を中心に[松谷曄介]
1.はじめに
2.守望教会とは何か
3.守望教会事件とは何か
4.「山の上の町」とは何か
5.結論
第6章 香港の基督教と雨傘運動[伍嘉誠]
1.はじめに
2.香港の社会運動におけるキリスト教の役割
3.雨傘運動の経緯
4.雨傘運動とキリスト教との関わり
5.雨傘運動後のキリスト教会
6.おわりに
第7章 台湾における宗教参加と宗教認知の多元性――宗教団体固有の宗教性とは何か[齊偉先・范網/翻訳:翁康健・櫻井義秀]
1.はじめに
2.宗教性,宗教参加と宗教認知
3.台湾宗教発展の社会背景
4.宗教と慈善――寄付と組織的脈絡
5.研究方法
6.研究結果
7.結論――台湾社会の多元的な宗教性
第8章 台湾における伝統的宗教文化の社会的位置づけ――「環保(エコ)祭祀」をめぐる抗議運動からの考察[玉置充子]
1.はじめに
2.台湾の宗教事情
3.エコ祭祀抗議活動に到る経緯
4.エコ祭祀と環境保護政策
5.「宗教団体法」草案と反対運動
6.「本土文化」と「中華文化」
7.おわりに
第9章 台湾における忠烈祠の形成と変容[赤江達也]
1.はじめに――中華民国/台湾の官立追悼施設
2.近代忠烈祠の形成――中国大陸における忠烈祠
3.忠烈祠の来台――戦後台湾への忠烈祠の移植
4.戒厳令下の台湾忠烈祠――1947年から1987年まで
5.民主化後の台湾忠烈祠――1987年から現在まで
6.おわりに
おわりに[櫻井義秀]
索引
前書きなど
刊行のことば[日中社会学会会長 首藤明和]
21世紀「大国」の中国。その各社会領域――政治,経済,社会,法,芸術,科学,宗教,教育,マスコミなど――では,領域相互の刺激と依存の高まりとともに,領域ごとの展開が加速度的に深まっている。当然,各社会領域の展開は一国に止まらず,世界の一層の複雑化と構造的に連動している。言うまでもなく私たちは,中国の動向とも密接に連動するこの世界のなかで,日々選択を迫られている。それゆえ,中国を研究の対象に取り上げ,中国を回顧したり予期したり,あるいは,中国との相違や共通点を理解したりすることは,私たちの生きている世界がどのように動いており,そのなかで私たちがどのような選択をおこなっているのかを自省することにほかならない。
本叢書では,社会学,政治学,人類学,歴史学,宗教学などのディシプリンが参加して,領域横断的に開かれた問題群――持続可能な社会とは何であり,どのようにして可能なのか,あるいはそもそも,何が問題なのか――に対峙することで,〈学〉としての生産を志す。そこでは,問題と解決策とのあいだの厳密な因果関係を見出すことよりも,むしろ,中国社会と他の社会との比較に基づき,何が問題なのかを見据えつつ,問題と解決策との間の多様な関係の観察を通じて,選択における多様な解を拓くことが目指される。
確かに,人文科学,社会科学,自然科学などの学問を通じて,私たちの認識や理解があらゆることへ行き届くことは,これまでにもなかったし,これからもありえない。ましてや現在において,学問が世界を考えることの中心や頂点にあるわけでもない。あるいは,学問も一種の選択にかかわっており,それが新たなリスクをもたらすことも,もはや周知の事実である。こうした学問の抱える困難に謙虚に向き合いつつも,そうであるからこそ,本叢書では,21世紀の〈方法としての中国〉――選択における多様な解を示す方法――を幾ばくかでも示してみたい。