目次
はじめに[五石敬路]
総論
第1章 子ども・子育て支援をめぐる状況と課題――教育と福祉の連携の観点から[森久佳]
はじめに
Ⅰ 子どもの貧困問題と教育支援
1.子どもの貧困の再発見と影響及び対策
2.教育支援と子どもの居場所問題
Ⅱ 子ども・子育て支援のプラットフォームとしての学校
1.学校のプラットフォーム化(学校プラットフォーム構想)
2.多職種との協働(連携)
3.つながる仕組みを通した子ども・子育て支援
Ⅲ 学校プラットフォーム構想における多職種協働(連携)をめぐる課題
1.教育関係者と福祉関係者の発想の違い:教員の単一文化(モノカルチャー)の克服
2.教育と福祉における「教育」・「学校」の捉え方の違い:学級をベースにした教育実践
3.学校・教員の「多能化」と「多忙化」
4.財政的措置による人員配置の必要性と課題
第2章 子ども・子育て支援に関する財政の動向と課題[水上啓吾]
Ⅰ 包括的な支援の必要性と本章の課題
Ⅱ 分権化による家族関係社会支出の変化
1.地方政府の裁量性の増大による現物給付の増大
2.2000年代以降の現金給付と現物給付の増大
Ⅲ 社会保険制度下における現金給付の増加
1.労働保険特別会計における育児休業給付金の増大
2.年金特別会計における児童手当の増大
Ⅳ 国によるコントロール下での現物給付の増加と財政の硬直性
1.保育サービスの多様化と保育所運営に関する国庫支出金の一般財源化
2.就学援助制度の地方自治体間の差異
3.財政の硬直性と裁量性の低下
Ⅴ おわりに
第Ⅰ部 就学前を支える
第3章 保育料無償化に伴う政策効果[海老名ゆりえ]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 保育料無償化を先行実施していた自治体
1.各自治体の施策について
2.本調査の方法について
Ⅲ 先行事例等の紹介
1.海外での保育料無償化施策
2.保育料無償化による弊害
Ⅳ 地域別将来推計人口(0~4歳児)について
Ⅴ 分析
1.保育料無償化を行った自治体について
2.保育料無償化を行っていない自治体について
3.考察
Ⅵ 今後の課題
第4章 就学前教育における子どもの育ちに関する実証研究[小田美奈子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 子どもの育ちをめぐる問題
1.貧困、格差と子どもの育ち
2.虐待問題と子どもの育ち
3.保育の質について
Ⅲ 分析方法
1.児童原簿について
2.使用データと分析
Ⅳ 分析結果
1.記述統計量
2.分析結果
Ⅴ 結論
第5章 親子の多様なニーズにこたえる地域子育て支援拠点事業[岡本聡子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 「地域子育て支援拠点事業」の展開
1.地域子育て支援拠点事業の沿革
2.地域子育て支援拠点事業の内容と目的
3.地域子育て支援拠点事業の実際
Ⅲ 拠点事業における子育て支援の分析
1.子育て中の母親の孤立~育児不安に関するアンケートから
2.子育て中の母親の孤立~「アウェイ育児」の分析から
Ⅳ 地域子育て支援拠点事業がもたらした効果
1.育児不安の軽減に向けたメカニズム
2.「つながりづくり」の効果と実践例
Ⅴ 結論と提言
第Ⅱ部 放課後を支える
第6章 子ども食堂の今とこれからの役割について[松本学]
Ⅰ 現在の子ども食堂の取り組み
1.子ども食堂の広がり
2.子ども食堂の定義
3.居場所としての子ども食堂
4.子ども食堂のイメージ
5.子ども食堂の課題
Ⅱ 子ども食堂の新たな概念図に基づいた分析
1.子ども食堂の概念と分析方法
2.調査対象
3.メディア掲載数と子ども食堂の設立件数の関係分析
4.子ども食堂の役割に関する分析
5.子ども食堂運営者の以前の活動についての分析
6.子ども食堂の課題分析
Ⅲ アンケート結果の考察および仮説の検証
1.新たな子ども食堂の類型に関する検証
2.従来の子ども食堂類型の間違い
3.子ども食堂をはじめた動機の整理
4.子ども食堂の政策導入についての可能性
Ⅳ 子ども食堂の今後の意義
1.子ども食堂の定義の再分類
2.子ども食堂の今後の課題
3.子ども食堂を一過性のブームで終わらせないために
第7章 子どもの貧困と学習支援の取り組み[能島裕介]
はじめに
I 子どもの貧困を巡る社会の動向と先行研究
1.子どもの貧困と学習支援への流れ
2.貧困が子どもに与える影響
II 生活困窮者自立支援法に基づく学習支援事業
1.学習支援事業の概要
2.学習支援事業の実施状況
III 貧困状態にある子どもたちへの支援
1.子どもや親の意欲によるマトリクス
2.貧困による子どもの学習状況の変容
3.特に困難な状況にある子どもへの支援
おわりに
1.多様なアプローチによる総合的な支援
2.それぞれの壁を越えた支援
第Ⅲ部 移行期を支える
第8章 障がい者も自ら立てる――持続可能な共生社会へ[川田和子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ この40年、そして平成中盤からの制度改革と現状
Ⅲ 卒業後の移行期は危機
1.「学校は天国、社会は地獄」
2.卒業生アンケートと関係者への聞き取り
Ⅳ 危機に立ち向かう親たち
1.第3移行期~転所の繰り返し、就労継続へのフォロー~Sさん親子、Dさんの事例等
2.相談支援事業~手弁当から制度化へ
3.先の見えない不安~Gさんの事例
4.住まいと地域定着~第4移行期への備え
Ⅴ 今後必要な支援の検証
1.知りたい情報、「豊かに生きる」ための日常ニーズ
2.解決策の提案~支援学校にできる?!
第9章 高校生デュアルシステムの再構築[塩川悠]
はじめに
Ⅰ 日本の若者を取り巻く環境の変化
1.企業福祉に支えられたかつての日本型雇用
2.終身雇用のゆらぎと「働く」価値観の変容
Ⅱ 「若者自立・挑戦プラン」と「日本版デュアルシステム」
1.若者自立・挑戦プラン
2.企業実習を取り入れた「文科省デュアル」
3.文科省デュアルの導入にあたっての事前調査報告
4.文科省デュアルの課題
Ⅲ オランダの職業教育~MBO教育と中間支援組織(SBB)~
1.職業教育の始まりは12歳
2.就労移行期を支えるMBO
3.入学生徒に合わせた2種類の企業実習
4.企業に職業教育の重要性を普及する中間支援組織
Ⅳ アムステルダム市におけるMBO教育の効果と工夫
1.産業界と教育界の共同出資により教育のあり方が根本的に変わる
2.産業界における職業資格と学習カリキュラムの相互関連
3.入学後のアンマッチを防ぐ入学査定
4.困難を有する生徒のフォローアップは地方自治体とともに
5.人材を大切にする企業
6.産学官が連携した実践型キャリア教育
Ⅴ 高校生デュアルシステムの再構築の可能性
1.布施北高校のデュアルシステム
2.布施北デュアルの概要とオランダモデル
3.布施北デュアルに参加する生徒の成長
4.デュアルシステムに参加する企業側の変化
5.まとめ
Ⅵ おわりに――まとめと提言
おわりに[五石敬路]
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書の特徴
本書は九つの論文から構成されるが、全体を通じたいくつかの特徴を紹介しておきたい。まず、執筆者9名のうち7名が社会人大学院の修士課程を修了しているという点である。普段は、自治体の公務員、NPOの代表、特別支援学校の教員、認定こども園や保育所の保育士として働きながら、大学院で学術的な分析方法を学び、現場の問題意識をもとに、普段の仕事から得られた知見や情報を活かして分析している。
例えば、第8章は、特別支援学校の卒業生へのアンケート調査を実施している。本章によれば、こうした調査は1990年代から実施されていないとのことである。調査を実施した動機としては、特別支援学校の教員としての経験から、障がい者が生活上の危機に陥り、自宅に閉じこもる場合があることから、こうした人々とどうつながり、支援をどう届けるかという問題意識が根底にあった。先述したアウトリーチの問題である。引きこもった人々への調査は困難だが、ここでは、特別支援学校の卒業生に対しアンケート調査を実施し、これまでの経験を問うことで、引きこもりに至った経験の有無やその実情をうかびあがらせている。
次の特徴として、現場で働く者ならではのデータの発見やデータの分析手法があげられる。例えば、第3章は保育・幼児教育無償化がどのような影響を及ぼすかを分析するにあたって、先行的にこれを実施した自治体を対象に保育所・幼稚園の在所・在園児数を独自に収集した。こうすることによって、待機児童が増えている問題は、実は無償化ばかりが原因ではなく、もっと構造的な社会変化に基づいていることが見出されたのである。
第4章は、保育所の子どもたちの育ちを指標化するにあたって、「児童原簿」という児童福祉法に根拠を持つ児童の記録簿を使っている。「児童原簿」には家族構成や発育歴等が記録されているが、いわゆる「統計」ではなく、保育のために使われることが本来の目的である。ところが、保育所で働いている経験から、この原簿の存在を知っており、またそれが「保育の質」の分析に使うことができると判断できたため、これを研究の対象として採り上げるアイディアを思いついた。原簿を使おうということは、プロパーの研究者はなかなか思いつかないに違いない。原簿は、どの認可保育所でも使われているものであることから、ここでの研究だけでなく、他の保育所でも十分に応用可能なものである。三つ目の特徴として、各章ではそれぞれの分析結果に基づき、提案、提言を行っているが、それは第三者的な立場から事業や政策を評価するという、いわば上から目線のものではなく、今ある現実から具体的にどうすれば、より良い支援、仕事ができるかという問題意識に基づいているという点である。これは、現場の最前線で活躍する人間ならではの研究と言えよう。
近年、教育や福祉の分野では、行政が直接事業を行うよりも、民間事業者へ委託に出す割合が増えている。行政の立場からは、委託事業が適切に実施されているかどうかの評価や、あるいは、議会向けの説明や予算取りの際の説明資料として、数値等でわかりやすく事業成果や実施状況を表す指標が欲しいと考えている。また、事業実施者の立場からは、自分たちの事業を行政や市民に説明するための資料や、自分たちの活動がどれほどの成果をあげているかを自分自身で確認するための資料として、やはり指標が欲しいという思いがある。
本書で扱う事業の評価手法は、行政が関心を持つ事業評価としても使うことはできるが、執筆者の意図としては、むしろ、現場の事業者、職員、支援員の仕事の助けになるような、励みとなるような研究をしたいという思いが強いし、実際そのように研究を行った。例えば、第5章では、地域子育て支援事業が本当に役にたっているのか、役にたっているとしたら事業のどの部分か、第6章は子ども食堂の本来の役割は何なのか、社会には誤解もあるのではないか、第7章は、生活困窮者自立支援制度における子どもの学習支援事業について、その実施率をあげるためには何が必要なのか等、事業実施者ならではの問題意識につらぬかれている。また、第9章は、行政職員が執筆者であるが、高校生の生活、就職支援にあたって、若年者のニーズに即した支援体制を組むためには、行政の縦割りが壁となっているのではないか、という問題意識が研究の根底にある。
(…後略…)