目次
はじめに
第Ⅰ部 古代・中世
1 ローマ帝国下のガリア――カエサルの遺産、そして「フランス」のプレリュードへ
2 「フランキア」から「フランス」へ――「フランク人」小史
3 ガリア聖歌――「フランス音楽」の古層
4 封建社会の王――前期カペー朝
5 フランス中世の教会と修道院――11〜12世紀の信仰と平安
6 フランスのロマネスク美術――大いなる実験の時代
7 「長い13世紀」とフランス王国――王権の伸長と王領地の拡大
[コラム1]12〜13世紀フランスの女性権力者
8 ゴシック建築とフランス――歴史のなかで変化する「ゴシック」
9 中世のパリ――都市代表組織の形成を中心に
10 カタリ派のコスモロジー――中世南フランスの信仰と異端迫害
11 托鉢修道会の誕生と拡大――都市社会のキリスト教信仰
12 神学vs.哲学――世界の永遠性をめぐる13世紀パリ大学での論争
13 13世紀における都市の勃興と文学――アラスの場合
14 中世フランスの民主主義――都市と村落の自治
[コラム2]サン・テミリオンのワインとジュラード
15 百年戦争の開始――相次ぐ敗北と三部会の反乱
16 百年戦争の終結とその後のフランス――諸侯と公妃に導かれるフランス
[コラム3]ジャンヌ・ダルクとそのイメージ
第Ⅱ部 近世
17 フランスの宗教改革――福音主義運動の展開から改革派教会の創立へ
18 宗教戦争の終結とアンリ4世――内乱を経て王国再建へ
[コラム4]フランスのルネサンス文化
19 ルイ13世とリシュリュー――国家の利益で結ばれた王と宰相
20 フロンドとマザラン――戦時体制への不満と党派間の争い
21 ルイ14世の親政――「偉大なる世紀」の光と影
22 絶対王政の統治構造――社団、儀礼、公共圏
23 近世のパリ――王権による首都統治体制の形成
24 近世フランスのキリスト教(17~18世紀)――カトリックとカルヴァン派の信仰生活
25 「近代家族」の誕生――夫婦と親子をつなぐ情愛の絆
26 啓蒙思想――「敢えて賢くあれ」
[コラム5]ジャン=ジャック・ルソー
27 ルーヴル美術館の誕生――アンシアン・レジームから革命へ
第Ⅲ部 近代
28 フランス革命の展開――中道派からみた革命
29 革命祭典――7月14日の国民祭典
30 フランス革命期における人権と外国人――普遍的理念とその限界
31 フランス革命と戦争――戦争の世界化と多義化
32 ナポレオンの統治――統領政府と第一帝政
[コラム6]名望家体制
33 復古王政と七月王政――フランス型自由主義の摸索
34 二月革命と第二共和政――「国民」の政治参加
35 ナポレオン3世と第二帝政――19世紀の転換期
36 首都パリの大改造――近代都市モデルの誕生
37 第三共和政の成立と展開――「三度目の正直」の波乱と苦闘
[コラム7]社会福祉政策の形成
38 植民地帝国の形成――産官学連携の国家事業
39 万国博覧会と大衆消費文化――19世紀の首都パリの形成
40 フランスのユダヤ人――「近代国民国家」フランスとの複雑な関係性
第Ⅳ部 現代
41 第一次世界大戦とフランス――崩されゆく国民的神話
42 両大戦間期のフランス――体制崩壊の危機を乗り越え、社会の分裂を招いた20年
43 第二次世界大戦と占領されたフランス――国民革命か共和的合法性か
44 ドゴールの時代――「二つのフランス」をつなぐ移行期
45 植民地の独立――帝国崩壊の要因と影響
46 五月事件からミッテラン政権へ――市場化改革の源流?
47 ライシテと学校教育――フランス流の市民の育て方
48 現代パリの都市空間――膨張と変貌
[コラム8]ル・コルビュジエ
49 フランスの移民――19世紀から今日まで
50 フランス、EU、グローバリゼーション――フランスはどこへ向かうのか
フランスの歴史を知るための参考文献
フランス史略年表
前書きなど
まえがき
(…前略…)
フランスの歴史を知るための50章であるからには、中心的に言及されるのは、「メトロポル(内地)」と呼ばれる地域で起こった事象である。ところで、わたしたちがフランスと呼ぶ地理的なまとまりは拡大したり縮小したりと変遷を繰り返しながらかたちづくられてきた。フランスが支配、統治、影響、戦争、等々を契機として関わりをもってきた地域が、メトロポルの枠を大きく超え出ていることは指摘するまでもない。したがって、本書の扱う地理的範囲はフランス本土に限定されるわけではない。それは時代によっても変化する。
本書は第Ⅰ部から第Ⅳ部までの4部で構成され、各部はそれぞれ「古代・中世」、「近世」、「近代」、「現代」にさしあたり対応している。しかし、これは現在のフランス史認識のうえで承認されうる便宜的な時代のとらえ方にすぎない。歴史における時代区分は流動的であり、歳月の経過、社会の変化、歴史研究の進展などとともに変わっていくものである。第Ⅰ部において「古代」が扱われるのは事実上第1章だけであり、そこでは古代ローマの時代に「ガリア」と呼ばれた地域について、またフランスが立ち現われてくる経緯について、紹介がなされる。他方、第Ⅰ部の大部分を占める「中世」については、フランスの出現から15世紀半ばの英仏百年戦争の終了ころまでが扱われるが、ひと昔まえならルネサンス(あるいは近代)との対比において暗黒とさえ形容された「中世」の生々とした実相が語られている。「近世」へ言及する第Ⅱ部では、おおよそ15世紀の後半から18世紀末(フランス革命前夜)までが対象となる。実は「近世」という呼称が市民権を得たのは比較的最近のことにすぎず、かつてはむしろ「初期近代」などと呼ばれていたものである。これにたいし、「近代」に対応する第Ⅲ部では、フランス革命から第一次世界大戦前夜までの時期が取り上げられる。大革命で時代を画するのはフランスだからという面もあり、本書もそれを受け継ぐ。他方、「現代」にあたる第Ⅳ部をどこからはじめるかについては様々な議論がありうる。現代のフランスを対象とした歴史学や隣接諸学の知見を踏まえれば、第二次世界大戦や20世紀後半の冷戦崩壊のころに「近代」と「現代」の分水嶺を見出す立場にも十分な説得力が認められる。本書では、現状におけるフランス史研究の蓄積の厚みを踏まえ、第一次世界大戦を起点として現在にいたるまでを「現代」として扱うことにした。
こうして4部に分かれて配置された各章は、通史的な色合いの強いもの、テーマ重視のもの、やや立ち入った分析が際立つものと、様々である。編者としては、41名の執筆者各位の個性が息づくような章、コラムであってほしいと考えてきたが、一方では全体のバランスに配慮し、また一般の読者にわかりやすい文章となるように努めてもいる。そのようにして記された50章と八つのコラムである。どこから読んでもらってもかまわない。興味を引いたページを開いて、フランスについての何かを発見し、フランスの歴史の魅力を感じ取ってほしい。そして、フランスの政治、経済、社会、文化について、ときに細かな部分へ立ち入り、ときに全体へ思いを巡らしていただきたい。これはそのように読んでほしい本である。
(…後略…)