目次
日本語版への序文[マーク・キャラナン]
刊行によせて[三好真理]
図表一覧
略称一覧
序文
謝辞
第1章 地方政府の役割
1 地域民主主義の道具としての地方政府
2 行政サービス提供者としての地方政府
3 中央政府の出先機関としての地方政府
4 地域の規制機関としての地方政府
5 「ローカルガバナンス」の範囲内での地域リーダーやコーディネーターとしての地方政府
6 地方政府と憲法
7 結論
第2章 地方政府の進化と改革
1 アイルランドの地方政府の起源
2 歴史の残した遺産:1898年地方政府制度
3 独立運動期の地方政府
4 アイルランド自由国での地方政府
5 第二次大戦後の地方政府
6 1990年代以降の地方政府改革のイニシアチブ
7 結論
第3章 地方政府の範囲と区域
1 地方政府の組織:カウンティ・カウンシルとシティ・カウンシル
2 ミューニシパル・ディストリクト
3 その他の地方出先機関や団体
4 2014年以前の区域の再構築
5 区域改革への提案
6 2014年改革
7 コークとゴールウェイで提案された改革
8 カウンティの弾力性
9 結論
第4章 地方議会と地方議会議員
1 地方議会と地方議会議員の役割
2 他の団体への推薦
3 地方議会の議員
4 地方議会の会議
5 地方議会の組織と委員会
6 地方議会での意思決定
7 地方議会議員の数と代表のレベル
8 地方選挙
9 強力な政治的執行者/直接選挙された首長をめぐる議論
10 結論:フィクサー・政策決定者・代表者としての地方議会議員
第5章 地方政府の執行機関
1 マネジメントシステムの起源と進化
2 チーフエグゼクティブの任命と在任期間
3 チーフエグゼクティブの役割
4 地方政府の職員
5 結論
第6章 地方政府の職務と行政サービス
1 ハウジング
2 道路と輸送
3 空間・土地利用プランニング
4 環境保護と廃棄物管理
5 消防と緊急事態へのプランニング
6 レクリエーションと文化サービス
7 教育・保健・農業
8 経済発展と企業支援
9 地域の発展
10 その他のサービス・活動
11 包括権限
12 結論
第7章 地方政府の財政
1 地方政府の支出:資本支出と経常支出
2 資本支出
3 経常支出
4 地方政府の歳入
5 地方固定資産税
6 商業税
7 サービス料
8 中央政府補助金
9 他の歳入源
10 予算プロセス
11 年次財務諸表
12 財務管理と監査
13 地方政府の歳入調達についてのレビュー
14 結論
第8章 民主化改革とアカウンタビリティ改革
1 地域民主主義と市民参加
2 地方政府のアカウンタビリティ
3 結論
第9章 マネジメント改革と行政改革
1 戦略的プランニング
2 パフォーマンス測定
3 質の高いサービスへのイニシアチブ
4 電子政府
5 共同運営サービス
6 業務委託と民営化
7 効率性と生産力の節約
8 結論
第10章 政府間関係とマルチレベルガバナンス
1 地方政府のネットワークと相互作用のマッピング
2 中央-地方関係
3 地方政府と地方政府の関係
4 地方政府と地方機関の関係
5 国境を越える関係
6 地方とリージョンの関係
7 地方とEUの関係
8 相互依存・ネットワーク・マルチレベルガバナンス
9 結論
第11章 リージョン化
1 アイルランドのリージョナル組織の発展
2 現在のリージョナル会議
3 「都市リージョン」,大都市圏,ゲートウェイ,中心地
4 広域的公共サービスにおけるリージョン化
5 結論
第12章 EU化
1 EU法と意思決定の概要
2 EUと地方自治体の補完原則
3 EU規制の地方自治体への影響
4 EU資金援助の地方政府への影響
5 EUと地域経済発展
6 EUとアイルランドにおける制度の構築
7 地方政府とEUの政策策定
8 結論
第13章 アイルランドの地方自治体の比較
1 地方政府の伝統
2 地方自治体の区域組織
3 執行モデル:首長,内閣,議会,マネージャー
4 地方政府の機能
5 地方政府の財政
6 政府間関係
7 マネジメント改革と地方政府
8 市民参加と地方政府
9 欧州地方自治憲章
10 結論
第14章 アイルランドの地方主義と中央集権主義
1 アイルランドの中央集権主義者と地方主義者:パラドクス
2 統一性と多様性
3 中央集権化と分権化
4 中央集権主義の政治的側面
5 中央集権主義の行政的側面
6 中央集権主義の機能的側面
7 中央集権主義の財政的側面
8 「最も過激な対応」
9 結論
第15章 地方政府の未来
1 その先にある課題
2 「ステップバック」,「ステップアップ」?
3 新しい期待と新しい概観図
4 地方政府の未来への4つのテーマ
5 結論
付録
1 アイルランド憲法第28A条の文言
2 欧州地方自治憲章の本文
3 学術用語と古い称号に関する注意
4 2017年におけるカウンティ・カウンシル,シティ・カウンシル,シティ・カウンティ・カウンシルの一覧と議員の数
5 2017年におけるミューニシパル・ディストリクトの一覧と議員の数
6 リージョナル会議メンバー一覧と議員の数
7 2016年における特定のEU加盟国内でのリージョン構造のNUTS分類
8 地方政府に責任のある中央政府当局と大臣
9 2011年と2016年のカウンティ・カウンシルとシティ・カウンシルの人口
10 2006年・2014年におけるカウンティごとの個人の収入
11 2014年における地方選挙の投票率
12 情報源およびウェブサイトに関するメモ
参考文献
訳者あとがき[藤井誠一郎]
監訳者あとがき[小舘尚文]
前書きなど
日本語版への序文
Local Government in the Republic of Ireland の日本語版にむけて,この序文を書くことができて嬉しく思っている。
世界中どこでも,地方政府は,我々の生活の質を高め,地域コミュニティの発展を支援するうえで,重要な役割を果たしている。日本とアイルランドの間には,多くの相違点があるものの,我々の2つの地方政府システムの間には,多くの類似点も存在している。
日本とアイルランドの両国における地方政府の改革プロセスをみると,同様のテーマによって特徴づけられてきたことがわかる。たとえば,区域改革(市町村合併と境界変更を含む),市民参加のイニシアチブ,財務管理システムの近代化,電子政府ソリューションの採用,地方自治体間の協力や共同運営サービス,地方公務員数の削減,地方政府の生産性のさらなる向上,民営化・アウトソーシング・官民パートナーシップのようなハイブリッドモデル,といったマネジメント改革がこれらの中に含まれている。それゆえ,2か国のシステムは,こうした分野でのお互いの経験から多くを学ぶことができるはずである。一例を挙げると,アイルランドの政策策定者の間では,経済成長の推進要因として,また,人口のリージョン的な不均衡に対処する手段として,「都市リージョン」の重要な役割がより意識されるようになってきており,都市リージョンの発展を支援するための適切な大都市ガバナンスの構造についての議論が始まっている。また,日本とアイルランドは,地方政府が運営される,社会政治的文脈も類似している。それはたとえば,伝統的に中央集権化された行政システム,「小さな政府」の伝統,福祉国家における市民参加の制限などである。
日本とアイルランドのシステムの比較が興味深いものとなる相違点も存在する。地方政府が提供,管轄する行政サービスの一覧(公団住宅,公共事業,空間プランニング,地域発展・経済発展,消防・緊急事態時のサービス,廃棄物管理・環境保護など)からすれば,両国において多くの類似点が存在するものの,アイルランドの地方政府は,教育,医療,治安維持といった分野では,直接的にサービス提供の役割を担うのではなく,国の機関と協議を行う立場であるといったいくつかの相違点もある。たとえば,企業支援,再生,都市や村部の開発,環境改善,観光施設,文化遺産を通じた,さまざまな方法で地域発展や経済成長を支援するというアイルランドのアプローチは,経済成長と生活の質の改善に重要な貢献をしてきている。行政構造の観点からは,アイルランドは地方政府において(アメリカにおいても多くの都市で利用されている)「議会-マネージャー」システムを利用しており,地方議会議員は,プロとして熟練したチーフエグゼクティブ(2014年まではシティ/カウンティ・マネージャーとして知られていた)とともに業務を進める形態をとっている。しかし,日本のモデルのような直接公選の首長を導入してはどうかという問いかけも,アイルランドの地方政府改革をめぐる議論の一部となっている。
地方政府の国際的な類型では(第13章参照),アイルランドはしばしばアングロサクソンの伝統に属するものとして特徴づけられる。アイルランドの地方政府は,間違いなく,アイルランドの独立前に設立された地方政府の基本構造を含め,その遺産のかなりの部分をイギリスからの影響に負っているが,地方政府の「議会-マネージャー」形式の利用を通じたアメリカの影響とともに,フランス共和国のナポレオンモデルの伝統を含めた他国からの影響も明らかに存在する。
(…後略…)