目次
「イスラーム・ジェンダー・スタディーズ」シリーズ刊行にあたって――2『越境する社会運動』
はじめに
ジェンダー開発指数と自由度の評価数値
第Ⅰ部 近代化とイスラーム諸国におけるフェミニズム運動
第1章 イスラームの興りと女性をめぐるイスラーム法の展開[小野仁美]
第2章 エジプト女性運動の「長い20世紀」――連帯までの道のり[後藤絵美]
第3章 チュニジアの女性運動――国家フェミニズムから市民フェミニズムへ[鷹木恵子]
コラム1 ジーン・シャープが指南する非暴力行動という戦略[谷口真紀]
第4章 トルコにおける女性運動とイスラーム[若松大樹]
第5章 革命後イランの女性運動――女性活動家の言説[中西久枝]
第6章 湾岸諸国の女性運動――社会運動の不在あるいは団結できない事情[大川真由子]
コラム2 サウジアラビア女性の権利と政府のイニシアティブ[ドアー・ザーヘル]
コラム3 萌芽期のインドネシア女性運動――近代への試練[小林寧子]
第Ⅱ部 越境する社会運動とジェンダー
第7章 女性をめぐる問題へのトルコの市民社会における取り組み[幸加木文]
コラム4 アメリカでヒズメット運動を実践するトルコ人移民の女性たち――断食明けのニューヨーク[志賀恭子]
第8章 戦略としてのトランスナショナリズムとジェンダー――ヨーロッパとトルコにおけるアレヴィーの事例から[石川真作]
コラム5 アラーウィー教団のエキュメニカル運動とSDGs[鷹木恵子]
第9章 アメリカにおける若者世代のコミュニティ形成と社会運動[高橋圭]
コラム6 行動するトルコの女性たち――女性の命は女性が守る[新井春美]
コラム7 「ひとりの女性も欠けさせない」――ラテンアメリカ発、“女性殺し”への抗議[伊香祝子]
第10章 国際移動を生きる女性たち――越境するアフマディーヤの宗教運動[嶺崎寛子]
第11章 インドネシアのムスリマ活動家たちの結集――世界的に稀な女性ウラマー会議開催[野中葉]
コラム8 ヒジャブの陰で――タイ南部パタニ女性たちの挑戦[西直美]
コラム9 「ムサワ」の活動とムスリム・フェミニズム[小野仁美]
コラム10 男女の区別は存在しない――セネガルのニャセンにおける女性指導者たち[盛恵子]
第12章 イスラエル人女性による平和運動「Women Wage Peace」――パレスチナと世界との連携を求めて[小林和香子]
コラム11 「水+塩=尊厳」――パレスチナの囚人をめぐる運動[南部真喜子]
コラム12 中東におけるラップとジェンダー[山本薫]
第13章 ゲイ・フレンドリーなイスラエル――トランスナショナルな運動と政治[保井啓志]
参考文献
女性・ジェンダー関連の団体組織と研究所のリスト
前書きなど
はじめに[鷹木恵子]
グローバル時代の今日、社会運動はますますさまざまな境界を越えて、時に世界をも変革する大きな力を持つようになっている。代表的な例としては、2017年7月の国連の核兵器禁止条約の採択(122か国・地域が採択、日本は不採択)に大きく貢献し、その年のノーベル平和賞を受賞することになったICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)や、またジェンダー問題との関わりでは#Me Too運動などを挙げることができるだろう。
前者は、核兵器の禁止・廃絶を目指して活動するNGOの連合体の運動で、2017年10月時点で101か国から468の団体が参加していた。後者は、米国ハリウッドで大物映画プロデューサーによるセクシュアルハラスメントや性的暴行被害を女優らが告発したことをきっかけに、世界的なセクシュアルハラスメント告発運動へと広がった動きである。それは1年間で85か国に、その間のツイッターは1日平均5万5319回に及び、その3分の1が英語以外の言語であったとされている。そして、これまで性的被害の告発には消極的で保守的であるとされてきたイスラーム圏においても、パレスチナではアラビア語で#Anā Kamānとして、またサウジアラビアでは宗教施設におけるセクシュアルハラスメント行為を告発する#Mosque Me Tooという動きとして、広がることとなった。さらに日本では、それは独自の新たな展開も見せた。まず、職場での女性へのハイヒールやパンプス着用義務化に反対する#KuToo運動や、また2019年に入り、実父による娘への継続的性虐待を含め、4件もの性犯罪が無罪判決となったことを機に生まれた、性暴力被害者に寄り添う#Me Too, #With Youのフラワーデモ(同年12月には全国27都市で開催)など、一般市民の良心に訴え、社会に変革を迫る力強い動きが広がりつつある。
本書は、イスラーム・ジェンダー・スタディーズの第2巻として、このような「越境する社会運動」に焦点をあて、具体的事例とともに考察していくものである。
(…後略…)