目次
序章 問題意識と研究目的
第1節 帰国事業の経緯と社会的評価の変遷
第2節 先行研究と課題
第3節 研究目的と視角
第4節 本書の構成
第1部 日朝・日韓関係と「帰国問題」の展開
第1章 在日コリアン社会の形成と発展(明治期~昭和戦前期)
第1節 韓国併合前の在日コリアン
(1)明治前半期の渡日
(2)明治後半期の渡日
第2節 韓国併合後の在日コリアン
(1)植民地朝鮮からの渡日者の増加
(2)植民地期の在日コリアン社会
第3節 小括
第2章 解放~朝鮮戦争期の在日社会(1945年~1953年)
第1節 在日コリアンの解放と帰還
(1)終戦直後の大規模な帰還
(2)帰国者の減少とSCAPの「計画帰還」
(3)朝鮮北部(北朝鮮地域)への帰還
(4)消極的・暫定的な日本残留
第2節 占領期・ポスト占領期の日本での状況
(1)生活難とSCAP・日本政府の対応
(2)法的地位の不安定化と管理法令
(3)在日コリアン団体の発展と左右対立
(4)分断国家の成立と在日コリアン
(5)朝鮮戦争期の在日コリアン
第3節 小括
第3章 在日コリアン運動の転換と帰国運動(1953年~1955年)
第1節 北朝鮮帰国と日朝往来の模索
(1)民戦の祖国訪問団・技術者派遣運動
(2)民戦期の帰国運動の性格
第2節 民戦の路線転換と帰国運動の展開
(1)祖国派と民対派の葛藤
(2)平和共存政策と民戦の路線転換
(3)民戦末期の帰国運動
第3節 小括
第4章 朝鮮総連と帰国運動の再編(1955年~1958年前半)
第1節 日朝関係の開始と帰国問題
(1)朝鮮総連の結成と北朝鮮
(2)北朝鮮残留日本人引き揚げの進展
(3)日朝平壌会談と帰国問題
第2節 赤十字国際委員会(ICRC)の関与
(1)ICRC使節団の日朝韓訪問
(2)「48人」の北朝鮮帰国
(3)ICRC仲介による帰国実現の模索
第3節 小括
第5章 関係国の対立と帰国事業の実現(1958年後半~1959年)
第1節 帰国運動の大規模化と日本政府の決定…
(1)大村収容所の北朝鮮帰国希望者
(2)北朝鮮の歓迎表明と帰国支援の広がり
(3)日本政府の閣議了解
(4)韓国側の反対運動
第2節 帰還協定締結と帰国事業の開始
(1)日朝赤十字ジュネーブ会談
(2)協定調印と帰国船出航までの曲折
第3節 小括
第6章 帰国事業開始後の推移と日朝関係
第1節 帰還協定に基づく帰国事業(1959年~1967年)
(1)帰国者減少と協定延長問題
(2)帰国運動の「質的転換」
(3)日韓国交正常化と帰還協定満了
第2節 3年間の中断後の帰国事業(1971年~1984年)
(1)「暫定措置」「事後措置」による帰国
(2)日本人妻問題と日朝関係
(3)北朝鮮への集団帰国の終了
第3節 小括
第2部 北朝鮮の意図と帰国者を巡る状況
第7章 北朝鮮の国家戦略と帰国事業
第1節 北朝鮮の国家戦略
(1)社会主義国家の国家戦略
(2)北朝鮮の革命戦略
(3)北朝鮮の対南戦略と対外戦略
第2節 「南」からの誘引・移住・「拉北」
(1)朝鮮戦争以前の知識人誘引策
(2)朝鮮戦争中の強制移住と拉致
(3)「拉北者」の送還要請
第3節 ソ連・中国在住コリアンの帰国推進
(1)朝鮮戦争後の革命戦略・対南戦略
(2)ソ連在住コリアンの帰国
(3)中国在住コリアンの帰国
第4節 在日コリアンの帰国推進と対南戦略
(1)1950年代中盤の対南戦略と対日接近政策
(2)大規模な帰国推進への転換
(3)大規模帰国準備期[帰国運動第3期](1958年7月~1959年12月)
(4)帰還協定期[帰国運動第4期](1960年~1967年)
(5)帰国中断期・再開後(1968年~1984年)
(6)社会主義建設と対南戦略への動員
第5節 小括
第8章 帰国意思の形成と北朝鮮情報
第1節 帰国(移住)の動機・目的
(1)生活の安定・向上(ライフチャンスの拡大)
(2)マージナリティの解消・アイデンティティの安定
(3)南北統一への期待
(4)家族との再開・合流や故郷での活躍
(5)韓国への強制送還の回避
(6)特殊な事例(総連組織内の事情)
(7)強制的・半強制的な帰国
(8)世帯主などに同伴された家族
(9)帰国と「意思確認」を巡る問題
第2節 誇大な宣伝とメディア
(1)朝鮮総連・北朝鮮側による宣伝
(2)日本メディアを通じた北朝鮮情報
第3節 帰国意思形成と韓国側要因
第4節 帰国しなかった人々と在日社会の変容
第5節 小括
第9章 北朝鮮における適応問題と現地社会との葛藤
第1節 移住者の危険要因
第2節 北朝鮮帰国者の適応と危険要因
(1)移住前及び移住過程
(2)北朝鮮移住後
第3節 帰国者に対する現地社会と当局の対応
(1)自己防衛的な行動と社会的葛藤
(2)抑圧的体制の強化と帰国者の周縁化
第4節 ポスト帰国事業期の帰国者・日本人妻
第5節 小括
終章 大規模な集団移住の特質と諸要因
第1節 「移民的帰還」の特質とマクロ・ミクロ・メソ構造
第2節 帰国事業長期化の要因と影響
第3節 成功しなかった「人道事業」
注
主要参考文献
北朝鮮帰国事業関連年表
関連史料
あとがき
索引
図表目次
(口絵)
■北朝鮮帰国事業をめぐる構図(1950年代末~60年代半ば)
■在日コリアンと帰国問題を巡る主な動き
(表)
表1-1:在日コリアンの人口(1882~1909年)
表1-2:在日コリアンの人口(1911~1944年)
表1-3:在日コリアンの本籍地(1938年)
表2-1:在日外国人の帰還希望有無登録(1946年3月18日)
表2-2:戦後の在日コリアン人口(1945年~1985年)
表4-1:朝鮮人生活保護人員(1951~1960年)
表6-1:在日コリアンの「国籍別」人口
表6-2:在日コリアンの職業(1964年~1984年)
表6-3:北朝鮮帰国事業による帰国者数の推移
表6-4:北朝鮮帰国者数と韓国・朝鮮籍
表7-1:民族団体「勢力人口」
表7-2:帰国運動と北朝鮮の戦略
表8-1:在日コリアンの本籍地(1959年4月)
表8-2:帰国者(朝鮮人・成年男子)の職業(1959~1967年)
表8-3:「在日朝鮮人の来往時別内訳表」(人口)(1959年7月現在)
表8-4:帰国者の国籍、性、出生年別(1959年~1967年)
表8-5:126-2-6該当朝鮮人の出国数(1956~1964年)
前書きなど
序章 問題意識と研究目的
(…前略…)
第4節 本書の構成
本書の主な対象時期は、北朝鮮への実質的な帰国運動が始まった朝鮮戦争休戦後の1953年から1959年の帰国事業の開始に至る「前史」の時期、及び第1次帰国船の出航から約3年間の中断期をはさんで1984年まで四半世紀近くにわたった帰国事業の実施期であり、対象時期における在日コリアンの帰国問題の歴史的展開過程を詳しく解明する。帰国問題の前提となる戦前・戦後の在日コリアン社会の形成期、すなわち戦前の朝鮮半島からの渡日史と在日コリアン社会の形成過程、及び終戦直後の在日コリアンの朝鮮半島(主に朝鮮南部=韓国)への帰国と戦後の在日コリアン社会の再編や変遷についても詳述する。在日1世の最初の日本への移住と適応、戦後の残留の過程が北朝鮮帰国問題につながる重要なファクターとなったからである。帰国事業はその終了後も、日本人妻の里帰り問題、元帰国者の脱北と日本や韓国への再入国と定住の問題など、現在進行形の問題として日朝関係に影響を与え続いているが、この点については概略を記載するにとどめる。
歴史的展開過程を解明する第1章~第6章を第1部とし、帰国問題を巡る北朝鮮の国家戦略を解明する第7章、北朝鮮帰国者らの動機(移住目的)と移住意思形成に影響を与えた宣伝やメディアの役割などについて考察した第8章、帰国者らの北朝鮮での適応問題などについて論じた第9章の3つの章を第2部とする。
各章の構成は以下のようになる。
第1部の第1章は、日本が朝鮮半島に勢力を拡大し始めた明治期から植民地支配が終わる1945年8月までの時期が対象である。北朝鮮への帰国者(移住者)のうち中核となる在日コリアン1世は2度の移住=2度の適応=を経験した「帰還移民」であるが、第1章では在日1世の最初の移住である朝鮮半島から内地(日本列島)への渡日の要因と、植民地期の在日コリアン社会の形成過程について概観する。
第2章以降は、次のような主要なアクター(行動主体=国家、政党、団体など)の動きと、その意図・目的に注目しながら在日コリアンの帰国問題の展開過程と要因について考察する。
(…中略…)
第2章は、1945年8月の日本の敗戦(朝鮮半島の植民地支配からの解放)と連合国による占領期(~1952年4月)を経て朝鮮戦争が休戦した1953年7月までが対象時期である。
第3章は、朝鮮戦争が休戦した1953年7月頃から、民戦による小規模な帰国運動が始まり、路線転換で朝鮮総連が結成される直前の1955年5月までを扱う。
第4章で扱う1955年5月(朝鮮総連結成)から1958年前半の時期は、1959年から開始される北朝鮮帰国事業の実現が模索された「前史」として極めて重要な時期である。第3章~第4章における帰国問題の展開過程の検討を通じて、一部の論者による「日本策略論」の妥当性についても検証する。
第5章は、朝鮮総連の帰国運動が大規模化した1958年夏から帰国事業が開始される1959年12月までを扱う。
第6章は、1959年の帰国事業の開始後から帰国事業が実質的に終了した1984年までの展開過程を、主要なアクターの動きを中心に考察する。
第2部では、歴史的な展開過程を検証した第1部を踏まえつつ、北朝鮮側の意図や帰国者の帰国動機、帰国後の状況や現地への適応問題などについて検討する。
第7章では、1958年8月から大規模化した朝鮮総連の帰国運動を背後から主導した北朝鮮の戦略とシナリオについて詳しく分析する。韓国、ソ連、中国からの同胞の動員や帰国推進政策とも関連して考察するが、先行研究はほとんどなく、初めての本格的な学術的考察となる。北朝鮮による大規模な帰国推進は対日国交正常化のための動員戦術であったとする先行研究の主張に対する検証も行う。
第8章は、第1節において、帰国事業で北朝鮮へ渡った在日コリアンやその家族(日本人配偶者含む)の帰国(移住)の動機や帰国意思の形成要因と過程について分析する。
第9章は、帰国事業で北朝鮮に渡った帰国者らが、北朝鮮でどのような境遇に置かれたのか、その境遇を生んだ要因などを考察する。本章の最後では、帰国事業が実質的に終了した1980年代半ば以降の帰国者をめぐる状況についても概観する。
上記の分析を踏まえて、終章において在日コリアンの大規模な人口移動を生み出した諸要因を包括的に分析しつつ、結論を示す。移民性の強い大規模な帰還を生んだ諸要因と、国際的な人口移動という観点から見た北朝鮮への集団移住の特質を明らかにするともに、論争的なテーマとなっている在日コリアンの集団帰国を主導した主体や目的について検証の結果を提示する。併せて北朝鮮帰国事業がなぜ移住事業として成功しなかったのかについても考察する。
(…後略…)