目次
はじめに
第1部 貧困概念と貧困調査
第1章 子どもの生活実態調査の意義[山野則子]
1 本著の目的
2 子どもの貧困に関する動向
3 子どもの生活実態調査とは
4 子どもの貧困対策にかかる自治体調査の重要点:大阪の調査から
5 子どもの貧困のとらえ方
6 具体的な調査手続き
7 子どもの生活実態と施策の架け橋
第2章 貧困概念とはく奪指標[所道彦・小林智之]
1 子どもの貧困:何を問題とするのか?
2 子どもの貧困:なぜ問題とするのか?
3 生活構造と貧困
4 「貧困」の構造
5 貧困をどうとらえるか
6 本調査の分析のフレームワークについて
7 はく奪指標の作成(世帯の経験から)
8 今後の課題
第3章 3つのキャピタルの関連[山野則子]
1 子どもの貧困と親の貧困
2 子どもの貧困の構造に関する先行研究
3 3つのキャピタルの欠如:親と子どもの関連
4 モデル構築の意義と今後の課題
第2部 貧困の諸相――生活上のニーズに着目して
第4章 所得格差と貧困
Ⅰ 所得と労働[所道彦]
1 所得・世帯・雇用の状況
2 家計状況
3 所得階層と社会生活
4 まとめ:所得と雇用
Ⅱ 住宅[嵯峨嘉子]
1 子どもの生活環境としての住宅
2 世帯の経済状況と住宅の所有形態
3 政策的課題
第5章 生活と貧困
Ⅰ ひとり親世帯の子どもおよび親の生活[嵯峨嘉子]
1 世帯の状況
2 ひとり親世帯の経済状況
3 子どもの生活状況
4 まとめ:本調査に見るひとり親世帯の特徴
Ⅱ 日常に見る子どもの生活[山野則子]
1 先行研究
2 自己肯定感の要因
3 子どもの生活に及ぼす全体像
4 詳細な実態
5 考察
Ⅲ 外国につながる子どもの生活[山下剛徳・酒井滋子]
1 なぜ外国につながる子どもの調査が必要なのか
2 調査の対象と対象人数
3 外国につながる子どもの貧困状況
4 調査の限界
5 まとめ
第6章 健康・つながりと貧困
Ⅰ 子どもの健康格差[駒田安紀]
1 問題の背景と目的
2 小中学生、男女ごとにみた生活習慣と自覚症状、肥満度
3 はく奪得点と健康格差
4 貧困がメンタルヘルスにもたらす影響
5 まとめ
Ⅱ つながり格差[小林智之]
1 人づきあいを制限する貧困の働き
2 貧困の連鎖における人づきあいの効用
3 今後の展望
第7章 就学前の子どもと貧困
Ⅰ 就学前の親と子どもの実態[山野則子]
1 「就学前」の意味
2 子どもたちの置かれた生活実態
3 危惧されること
Ⅱ はく奪指標を用いた検討[小林智之]
1 貧困の連鎖と就学前教育
2 就学前の子どもを持つ世帯
3 はく奪指標得点
4 貧困と親子のこころとからだ
5 貧困と親子関係
6 今後の展望
終章 政策提言
Ⅰ 就労支援の限界と所得保障の重要性[所道彦]
1 労働市場の現状と雇用・就労による貧困対策の限界
2 サービス給付と住宅保障
3 就労支援から所得保障への転換
4 国に求められる貧困対策
5 まとめ
Ⅱ 子育て世帯を支える所得保障制度[嵯峨嘉子]
1 就学援助制度
2 医療費に対する補助制度
3 児童扶養手当
4 生活保護制度
5 子育て世帯における所得保障制度の課題
Ⅲ 調査・施策・評価が循環する設計[山野則子]
1 国の貧困政策への動き
2 大阪調査との関連:沖縄の事業評価から
3 総合的考察:改善すべきは何か
おわりに
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本著の構成
本著は、2016年度大阪府共同調査に関わったメンバーで、まとめたものである。すでに調査票作成時、計画策定時と幾度となく、議論を重ねてきた。メンバーの専門性は、児童福祉、社会政策、公的扶助、社会心理、医療社会学、データサイエンス、多文化共生とばらばらである。多角的で違った視点による議論展開となった。
第1部において、子どもの貧困調査の意義や貧困概念を明らかにし、はく奪指標と3つのキャピタルの関連を示すという新たな挑戦をしている。1点目のはく奪指標は、過去の調査を参考にしながら、10万件というデータ数だからこそ明らかに示すことができた。また、3つのキャピタルの欠如として定義される子どもの貧困概念を大量データから実証的にその関係を明らかにした。これらは、メンバー間で長い間議論しながら作成し、分析を進めてきた成果である。
第2部では、生活上のニーズに着目して貧困の諸相を明らかにする目的で作成している。所得格差、労働、住宅、生活、ひとり親世帯の生活、子どもの生活、外国につながる子どもの生活、健康・つながり、子どもの健康格差、つながり格差、就学前の親と子どもの実態、そしてモデル的にはく奪指標を用いた検討を試みた。終章では、政策提言として就労支援の限界、所得保障の制度上の課題、子どもに関する施策を述べながら調査・施策・評価が循環することの重要性でまとめている。
データを分析する中で、データに突き動かされる感覚になるほど、子どもたちの実態は切実であった。私たちはこの声を何とか社会に伝える、社会を変革していく動きを作ることに責任を感じた。本著の作成作業によって、どのくらいそれができるのか、あるいはできたのか、自信は全くないが、様々にご意見、ご批判をいただけたら幸いである。
政府は、今後全国調査を実施しようとしているが、本著に示す貧困の概念、示してきた視点、調査自体のプロセス、方法、意義の考え方などトータルに本調査の結晶を是非とも活かしてほしい。各自治体においても計画策定が努力義務になった今こそ、実態調査、調査に基づく計画策定、施策の実施、評価という流れを作るチャンス、自治体内の子どもや家庭の状態を少しでもよくしていくチャンスと捉えて、形だけでなく、実態に促して本気で一歩でも改善にチャレンジしていただきたい。本著を活かして検討していただけたらありがたい。