目次
序論
1 ポピュリスト・モーメント
2 サッチャリズムの教訓
3 民主主義を根源化すること
4 人民の構築
結論
付録
謝辞
原注
訳注
訳者解題
索引
前書きなど
訳者解題
(…前略…)
4 『左派ポピュリズムのために』について
本書が介入するのは以上のような政治的情況である。二〇一八年に翻訳が刊行されたエルネスト・ラクラウの『ポピュリズムの理性』(澤里岳史、河村一郎訳、明石書店、二〇一八年)が理論篇であるとすれば、本書『左派ポピュリズムのために』はその実践篇といってよい。本書は、専門の政治学者や社会科学者に向けた学術書というより、より幅広い一般読者を想定して書かれている。そのためか、彼女は自身の党派性を隠そうともしていない。「状況のなか」に身をおいて思考する、そのマキャヴェッリ仕草は、まさに強い危機感によって突き動かされたものだろう。
すでに述べたように、『民主主義の革命』からおよそ三五年を経て、ラディカル・デモクラシーは後退を強いられており、拡大の一途をたどる経済格差は、いまや政治的影響力の格差に直結している。「少数者支配」と本書で呼ばれるこの情況の背景には、新自由主義的なヘゲモニーの時代における、自由主義、とりわけ経済リベラリズムの中心化と民主主義の空洞化がある。それゆえ、まずもってなされなければならないのは、自由主義と民主主義の「闘技的な緊張関係」を取り戻し、自由民主主義を立てなおすことである。具体的には、ウォルフガング・シュトレークのいう「社会的公平性」、つまり「健康、社会的安心、地域共同体への関与、雇用保護、労働組合の結成等々についての市民権や人権」といった「経済的実績や活動能力とは無関係に生活維持のための最低基準の要求を認める」原則を再度打ち立てなければならないのだ。そして、この民主主義のもつ平等原理の回復と深化をめざすところに、左派ポピュリズムの左派たる所以がある。
(…後略…)