目次
はじめに
第1章 アイヌ文化の基層にあるもの
1.北海道にはアイヌ民族が先住している
2.アイヌとはどういう人たちを言うのか
3.「原北海道」の旧石器文化
4.遺伝子(DNA)の分析からみるアイヌの歴史
5.アイヌの昔話からみるアイヌの祖先
6.アイヌ語の起源
第2章 北日本型の新石器文化の変遷
1.新石器文化の開始
2.新石器文化の展開
3.新石器文化の爛熟
第3章 原アイヌ文化期
1.東アジアに国が登場
2.南にヤマト王朝、北にオホーツク文化、そして原アイヌ文化は
3.東北地方にもアイヌ語地名がある
4.日本史の文献にみえるエミシとは何か
5.阿倍比羅夫の侵攻
6.アテルイの戦い
7.アキタエミシの戦い
8.擦文文化
9.オホーツク文化
第4章 アイヌ文化前期
1.アイヌの生活の変化
2.サハリンアイヌと元王朝の戦い
3.アイヌの神話からみるアイヌ文化
4.イシハの遠征
5.14世紀のアイヌの風習
6.津軽安藤氏の登場
7.コシャマインの戦い
8.夷狄商舶往還の法度
9.自由交易の興隆
10.チャシを造る
第5章 アイヌ文化後期
1.豊臣秀吉の朱印状
2.徳川家康の黒印状と松前城下交易
3.ゴールド・ラッシュと商場知行制
4.シャクシャインの戦い
5.起請文の現実
6.和人領域内のアイヌ
7.サハリンのハラタ・カーシンタ制
8.ロシアのカムチャツカ・千島列島侵攻
9.場所請負制度の開始
10.アイヌモシリを襲う日本・清・ロシア
11.クナシリ・メナシの戦い
12.ラックスマン来航から20年
13.アイヌ民族のスタイル
14.日露通好条約と漁場労働の猛威
第6章 近現代のアイヌ史
1.アイヌの近現代史を先住権の視点からみると
2.「開拓使」とアイヌ民族への政策
3.千島・樺太交換条約
4.北海道旧土人保護法に至る道
5.アイヌ学校
6.近代のサハリンアイヌ
7.戦前のアイヌ民族運動
8.アイヌ民族と戦争
9.アジア・太平洋戦争
10.現代のアイヌ民族と同化政策
11.狩猟採集の動物資源・植物資源と近現代
12.差別とアイヌ文化
13.同化政策と「アイヌ民族は生きている」という訴え
14.アイヌ遺骨問題
15.アイヌ文化の継承・発展
16.先住権を求めて
17.世界の先住民族の権利獲得
18.アイヌ新法制定をめぐる綱引き
主な引用・参考文献一覧
アイヌ史年表
索引
おわりに
前書きなど
はじめに
重い史実の連続のアイヌ史に、不謹慎な言葉から始めるのをお許しいただけるならば、「アイヌ史を研究する」のはおもしろかった。自分の知らない世界を、史料に当ったり、現地に行ったり、本を読んだり、自分で考えたり、調べたりして、「こうでないか」とわかったときのおもしろさ。一つの事実ともう一つの事実をつなげて「こう解釈できないか」と思い当たったときのおもしろさ。北東アジアの歴史、世界史から俯瞰して、「だからこうなったのか」と納得するおもしろさ。東アジアの列島に住みながら、和人とは別の、一つの民族の自立した歴史を構築していくことのおもしろさ。
正直に言いましょう。アイヌ史とはなんて興味深く、なんて奥深いのでしょう。自分の視野が広くなって、だまって生活しているだけでは見えなかったものも、見えるようになりました。そして、重い史実は、正面から受け止めなければと思いました。こうして、アイヌ民族という一つの民族の歴史を、40年以上も考え続けてきたのです。
けれども、後になって、一つ一つわかってきました。これは「おかしい、変ではないか」ということが。
アイヌの歴史などなかったかのように、ひたすら日本(ヤマト)の歴史ばかりを学ばせる公教育のゆがみ。
日本が、ロシアがアイヌの大地を奪い、日本の国策としてアイヌ民族を「同化」して、その存在自体をなくしようとした事実。
こうして「わかった」本当の事実を発信しようとすると、大の権力者が名もなき一市民を躍起になって弾圧すること。黙らせようとすること。それを子どもたちに教えようものなら、「偉い」方々からパワハラを受けること。その尻馬に乗り、率先して国の片棒を担ぐ、魂を売る学者がいること。
だけど、数十年かけて、やっとわかってきたアイヌの歴史を、こんな無茶な連中に遠慮して、黙ってなんかいられるものですか。私が今までたくさん迷いながら、やっとたどりついた「アイヌの歴史」を思いのたけを込めて発信させてもらいます。