目次
はじめに
Ⅰ 数字で読む世界の中の21世紀のパナマ
第1章 国土――運河で東西に二分割された熱帯の小国
第2章 人びと――過密都市部と過疎地に二分された人口の分布
第3章 政治――民主化を定着させた政治の成果と現状
第4章 経済――持続的経済成長を遂げた21世紀の経済繁栄の姿
第5章 社会――経済成長によって出現した社会の光と影
第6章 教育――先進国を目指す教育改革
第7章 環境保護――国土の3分の1を占める国立公園と自然保護区
【コラム1】米ドルとパナマ通貨バルボア
Ⅱ 16世紀に拓かれた地球の十字路
第8章 コロンブスとパナマ地峡――新旧大陸の文明の衝突
第9章 ダリエンとスペイン人――バルボアによる太平洋の「発見」
第10章 「太平洋の女王」――黄金の王都パナマ市
第11章 「王の道」と「クルセスの道」――新大陸の財宝を運んだロバの道
第12章 カリブ海の宝石ポルトベーロ――独占貿易港と黒人奴隷市場
第13章 エルドラードとしてのパナマ――ヨーロッパ人による財宝争奪戦の舞台
第14章 先住民と新住民――新しい地域社会の形成
【コラム2】「王の道」を探す
Ⅲ 運河建設の夢の実現に向けて
第15章 群がる野望とパナマ地峡――しのぎを削る運河候補ルートの探査活動
第16章 地峡を縦断するパナマ鉄道の建設――アメリカ西部のゴールド・ラッシュで増大する輸送需要
第17章 レセップスの挑戦と挫折――スエズ運河と同じ海面式工法で失敗
第18章 アメリカの海洋帝国の野望とパナマ地峡――アメリカ世論を沸かせた戦艦「オレゴン号」の失敗
第19章 ヘイ・エラン条約とパナマの分離独立――独立と運河条約締結をはかった謎のフランス人
第20章 コロンビアからの分離独立と運河条約――独立の見返りに運河地帯の主権を喪失
第21章 アメリカの支配下に入るパナマ――幅16キロの運河地帯がアメリカの治外法権下に
【コラム3】パナマ運河鉄道にはじめて乗った日本人
Ⅳ パナマ運河の建設
第22章 アメリカの国家プロジェクトとしてのパナマ運河建設――独立後ただちに開始した運河工事の難渋
第23章 大地は開鑿する――「大地は分かたれ、世界はつながれた」
第24章 パナマ運河に影を落とした50万人――フランスとアメリカの運河工事に従事した人びと
第25章 1914年の開通と第一次世界大戦――戦後急速に伸びた通行量と「第三閘門案」の浮上
第26章 閘門式運河の構造――自然の原理を巧みに活かした20世紀最大の装置
第27章 運河条約の系譜――パナマの主権闘争で念願の新運河条約を実現
第28章 21世紀のパナマ運河拡張工事――「第三閘門運河」の完成
【コラム4】パナマ運河とスエズ運河
Ⅴ 米国がつくったパナマ運河とパナマの運命
第29章 アメリカ帝国主義――強まる運河支配
第30章 パナマ国内政治の力学――旧支配層vs市民派
第31章 アルヌルフォ・アリアスとポプリスモ――大衆動員型政治の成立
第32章 第二次世界大戦とパナマ運河――国際紛争の最前線と化した運河
第33章 冷戦下のパナマ運河と軍部の台頭――レモン司令官を中心に
第34章 高まる反米運動――主権をめぐるパナマ人の闘い
第35章 パナマ・ナショナリズム――われわれの国旗を掲げよ!
第36章 トリホス将軍と1977年の新パナマ運河条約――約束された運河の返還
第37章 ノリエガ将軍とアメリカの侵攻――再び忍び寄るアメリカの影
【コラム5】さらば星条旗密かに行われたアメリカ国旗返還式典
Ⅵ 米国からの自立を目指す21世紀のパナマの政治・経済
第38章 運河返還後の米国とパナマ運河――地球規模で利害を共有する国家間の協力
第39章 パナマの国連および米州機構外交――積極化する巧みな対世界・地域外交
第40章 パナマの東アジア外交――日本との太いパイプ、台湾から中国への外交関係の転換
第41章 運河のパナマ化――重要な国家財源となった国際公共財の運用
第42章 フリーゾーンと経済特区――運河と並ぶパナマ経済の支柱
第43章 パナマ独自の小売産業の発展――地元資本による緩やかな近代化
第44章 マグロの養殖という新たな産業――パナマにおける近畿大学の挑戦
第45章 ブランド化するパナマ・コーヒー――超高級スペシャリティ・コーヒー品種「ゲイシャ」
【コラム6】パナマへの日本の企業進出の将来性
Ⅶ モノ・カネ・ヒトの交差点
第46章 アジアと大西洋を結ぶ海上ルート――通航隻数の増加と水資源の限界
第47章 パナマ運輸産業の発展――立地を生かして発展を目指すコパ航空
第48章 国際金融センター――内外の米ドル資金需要に応えるユニークな金融センター
第49章 タックスヘイブン――「パナマ文書」が明らかにした租税回避地
第50章 麻薬の交差点――欧米の闇市場に向かうアンデス・コカインの通過地点
第51章 クロスロードの食文化――狭いパナマで世界のグルメと土着料理を味わう
【コラム7】闇の世界を描く小説の舞台としてのパナマ
Ⅷ グローバル化の中のパナマ社会の変化と課題
第52章 運河返還後のパナマ政治――経済界が政界へ進出する21世紀の政局
第53章 女性の社会進出――ジェンダーギャップとマチスモの普遍性
第54章 観光立国への取り組み――急成長する21世紀のパナマの観光産業
第55章 パナマ社会に定住する外国人たち――移民流入超過に転じた背景
第56章 21世紀の「ダリエン・ギャップ」――周辺部から見える現代世界
第57章 地方の活性化――地域格差是正に向けた取り組み
【コラム8】スミソニアン熱帯研究所――科学と市民社会の新たな関係
Ⅸ 自立と国際的地位を確立したパナマ
第58章 第三の独立――1999年12月31日の運河の完全返還
第59章 米国の支配百年が残したもの――従属から自立への道に成功した姿
第60章 旧米軍基地からパナマ領土へ――返還されたパナマ運河地帯の変貌
第61章 首都パナマ市の変貌――“スマートシティ”を目指す摩天楼都市
第62章 パナマ国旗を掲げる貨物船――便宜置籍船とパナマ
第63章 スポーツにみるパナマの社会――世界チャンピオンを生む社会的背景
【コラム9】知の都市シウダ・デル・サベール
Ⅹ 多民族社会の変容と21世紀の姿
第64章 先住民特別区制度――先住民の諸権利を具体化する行政制度の諸問題
第65章 経済格差のなかの先住民集落――都市移住とコミュニティ企業
第66章 先住民の権利と「リーガルプルーラリズム」――先駆的なパナマの取り組み
第67章 越境する先住民女性――ノベ=ブグレ先住民特別区の季節農業労働者の現在
第68章 2つのアフリカ系民族――エスニック・カテゴリーに織り込まれた「歴史」
第69章 中国系コミュニティの拡大――旧移民と新移民
第70章 ユダヤ系コミュニティ――政治・経済の実権を握る知られざる存在
【コラム10】パナマにおける多民族社会の光景
参考・参照文献資料案内
前書きなど
はじめに
本書は2004年に出版した『パナマを知るための55章』の改訂増補版である。この改訂版をつくるにあたっては、旧版が出版されてから13年の間にパナマが大きな変貌を遂げたため2004年以前の歴史を扱った章は修正せずに残したが、残りの章は全面的に書き直すか、新たに執筆して70章とした。また旧版は3名(国本伊代、小林志郎、小澤卓也)の共著としてまとめたが、今回の改訂版を出すにあたっては諸事情から国本が編者となり、執筆者も専門分野が異なる若い研究者を誘ってより広い視野から21世紀のパナマを紹介しようと試みた。読者の皆さんが先進国グループに迫ろうとする勢いのある魅力的な小国パナマの多様な姿を知り、訪れてみたいと考えられたらこれほど嬉しいことはない。
パナマは中米地峡の東南端に位置する人口400万人ほどの小国だが、知名度は国際的に高い。もちろん人類の歴史に残る記念碑的建造物として誰もが知っている「パナマ運河」が存在することで、パナマという国は世界的に知られている。しかも1914年に完成した運河は既に百年を超えた歴史を経てなお現在も正常に使用されており、それどころか2016年に完成した第三閘門運河によって太平洋と大西洋とを結ぶ運河の商業的重要性は一段と高まっている。長年にわたって米国が支配してきた運河と運河地帯の完全返還を受けたパナマは、急ピッチで運河と運河地帯の自国化に努めてきた。1977年のトリホス・カーター条約で約束した「1999年末までの運河と運河地帯の全面返還」を完了させた米国の協力も少なくなかったが、パナマは国を挙げてこの歴史的事業に取り組んできた。同時に運河地帯の開発によって破壊が進んだ熱帯密林に対しては大規模な植林運動を展開して、パナマは世界有数の環境保護国となっている。さらに、運河地帯に集中した経済活動と人口によって生じている大きな地域格差を是正するためのさまざまな地域開発計画にも取り組んでいる。かつては想像もできなかった運河以外のパナマの名声が、現在ではスペシャリティ・コーヒーの産地や欧米からの退職年金生活者の移住地として知られるようにもなった。このような2010年代のパナマの新しい姿を読者の皆さんに紹介したいと執筆者一同が取り組んだのが本書である。
(…後略…)