目次
序 「ドナウの宝石」、EUの国、ハンガリー
Ⅰ ヨーロッパ史の中のハンガリー
第1章 ローマ帝国とハンガリー――ローマ都市の繁栄と衰退
第2章 ハンガリーの王冠と紋章――シンボルとその利用
第3章 聖イシュトヴァーンとカトリック受容――キリスト教国としての出発
第4章 マーチャーシュ王とその時代――正義の王、ルネサンス王、強大な王
第5章 三分割の時代からハプスブルクの時代へ――混乱と豊穣の近世
【コラム1】ミナレットとブショー――オスマン帝国の痕跡を訪ねる
Ⅱ ドナウとハプスブルク帝国のハンガリー
第6章 1848年革命――近現代ハンガリーの起点
第7章 ドナウ連邦構想――かなわなかった中欧連合
第8章 ハプスブルク帝国とハンガリー――ライバル、それとも同盟者?
第9章 ハプスブルク帝国の外交とハンガリー人――アンドラーシとスジェーニの場合
第10章 ドナウの真珠ブダペシュト――その誕生と発展
第11章 ハプスブルク帝国の崩壊とハンガリー革命――おわりとはじまり
第12章 トリアノン条約とその後――ヨーロッパのディアスポラ
Ⅲ 芸術・文化・音楽
第13章 ハンガリー・アヴァンギャルド・アート――戦前のMA、そして冷戦時代のネオ・アヴァンギャルド
第14章 ハンガリーの文学――モーリツからエステルハージまで
第15章 20世紀のハンガリー音楽――情熱と多文化
第16章 「ジプシー音楽」とハンガリーの大衆音楽――オペレッタからタンツハーズまで
第17章 ハンガリー・セセッション建築――レヒネル・エデン
Ⅳ ハンガリーの食、ワイン、映画
第18章 ハンガリーの工芸――ジョルナイ陶磁器とハンガリー刺繍
第19章 ワイン造りとワイン文化――東西文化の交差点
第20章 食文化の形成と変容――「ハンガリー料理」とはいうけれど
第21章 ハンガリーの映画――世界のひのき舞台で活躍する新人監督たち
第22章 生活に密着した音楽風景――大作曲家リストの伝統
【コラム2】ハンガリーのアニメーション
Ⅴ 西と東のはざま
第23章 西と東のはざま――フェリーボートの国
第24章 戦間期ハンガリーの政治体制――創設者ベトレンの刻印
第25章 日本・ハンガリー関係における今岡十一郎の活動――ハンガリーで最初に名を知られ両国関係の礎を築く
第26章 二つの世界大戦の敗北とデモクラシーの可能性――社会民主党と農民政党
【コラム3】ハンガリーの温泉生活
Ⅵ 冷戦下のハンガリーと1956年事件
第27章 冷戦の起源とハンガリー――冷戦とは何だったのか
第28章 ハンガリー1956年事件と冷戦後の新史料――新しい事実
第29章 1956年ハンガリーと中国の対応――ハンガリー動乱における中国共産党の対外行動
第30章 ナジ、カーダールの歴史的評価――ゆれる功罪
第31章 冷戦期の経済改革――改革の意義と限界
Ⅶ ハンガリーのEU加盟
第32章 冷戦終焉と体制転換――何が変わったのか
第33章 ハンガリーのEU、NATO加盟――「ヨーロッパ回帰」の努力と実態
第34章 ハンガリーの資本主義化の軌跡――なぜ右傾化が起きたのか
第35章 ハンガリーの福祉システム――歴史・現状・課題
第36章 オルバーン政権とナショナリズム――ポピュリズムの手法
【コラム4】世界に誇るハンガリーのスイーツ
Ⅷ 言語・宗教と生活
第37章 ハンガリー語の世界――日本語に似たところもあるけれど
第38章 大平原の牧夫・家畜・民衆文化――社会を“つなぐ”もの“切り離す”もの
第39章 諸教会と国家の揺れ動く関係――多様な一神教が混住する国
第40章 ハンガリーの学校教育――個性重視と多様な選択肢、才能発掘
第41章 ハンガリーのジェンダー――現代社会における女性の役割を中心に
第42章 ハンガリーの年中行事とフォークロア――キリスト教の伝統回帰と現代生活
Ⅸ 世界に散らばるハンガリー民族
第43章 周辺国のハンガリー人マイノリティ1――ルーマニア、スロヴァキア
第44章 周辺国のハンガリー人マイノリティ2――旧ユーゴスラヴィア、ウクライナ
第45章 移民の流出:世界のハンガリー系コミュニティ1――北米(アメリカ、カナダ)
第46章 移民の流出:世界のハンガリー系コミュニティ2――南米、オーストラリア、西ヨーロッパ
第47章 ハンガリー社会とユダヤ人――歴史の転換期に果たした役割
第48章 世界で活躍したハンガリー人科学者――20世紀科学への貢献
Ⅹ 観光とスポーツ
第49章 ハンガリーの観光――イメージチェンジした街並
第50章 ハンガリーと世界遺産――美しい伝統文化
第51章 ハンガリーの国民的スポーツ――小さなスポーツ大国
第52章 ハンガリーのオリンピック記録――小さな五輪強国
XI ハンガリーの経済
第53章 ハプスブルク帝国の地域経済圏――ハンガリー資本主義の誕生
第54章 体制転換とハンガリー経済――期待と新自由主義への失望
第55章 ユーロ危機とハンガリー――遠のくユーロ導入
第56章 ハンガリーの日本企業――業種は時代とともに変化
XII ハンガリーと日本
第57章 ハンガリーと日本の歴史的文化交流――強い親近感
第58章 ハンガリーにおける日本ブーム――身近になる日本文化
【コラム5】ハンガリー人と日本語との出会い
第59章 戦後における日本・ハンガリーの国交回復――「親日性」の起源
第60章 ハンガリーの自然科学研究――原子物理学を中心として
ハンガリーを知るための参考文献
前書きなど
序 「ドナウの宝石」、EUの国、ハンガリー
(…前略…)
冷戦終焉をもたらすきっかけとなった、「鉄のカーテン」をオーストリアとの間でいち早く開放したのはハンガリーであった。東ドイツの人々が、「汎ヨーロッパ・ピクニック計画」と称して、ハンガリーの西部の境界に結集し、オーストリアに逃れ、ベルリンの壁崩壊のきっかけを作った舞台もハンガリーであった。
冷戦終焉後21世紀に入り、ヨーロッパはEU・NATO(北大西洋条約機構)を中心に大きく東へ拡大した。そのトップランナーとなったのがハンガリーであった。
ハンガリーはEUに加盟して以降、観光大国として、年間1400万人以上の人々が訪れている。「ドナウの真珠」ブダペシュトは、世界遺産にも登録された。
経済グローバリズムの中枢を担ってきたジョージ・ソロスはハンガリー出身のユダヤ人であり、中欧大学を設立し、多くの研究者・企業家養成を中東欧に行ってきた。
ハンガリー人は数学が得意で、ノーベル賞受賞者は人口比ではハンガリー出身者が最も多いとされる。ハンガリー語(フィン・ウゴル系)が国際的に通用しにくいため、ハンガリー人のエリート層の多くは5、6カ国語を操る。ハンガリーは人口も多くない中欧の小国であるが、EUの首都ブリュッセルさながら、すばらしい魅力と底力を発揮し続けている。
そうしたハンガリーの魅力と特徴を満載した書として、本書『ハンガリーを知るための60章【第2版】――ドナウの宝石』がお役に立てばありがたい。
本書の各章は、ハンガリーのそれぞれの領域に関する第一人者といえる多彩な専門家によって書かれている。とりわけ近年のハンガリーの変貌を理解していただくため、ハンガリーを良く知る若手の方々に積極的にハンガリーの良さをご披露いただいた。各章の執筆者に心より感謝したい。
しかしその後ユーロ危機の影響、さらに移民・難民の流入と、ナショナリズムの成長の影響を受け、2015~16年、ヨーロッパは最大の危機に陥った。100万人の難民が、一つには地中海、もう一つには陸路でハンガリーやスロヴァキアを通ってドイツやフランスを目指そうとしたのである。これは境界線で混乱を引き起こし、ハンガリー国境では強い反発を国民の間に引きおこした。その結果、難民が陸路でEUに入る道は閉鎖された。第1版を改訂した、第2版ではこうした新情報をも分析した。
(…後略…)