目次
まえがき――刊行にあたって
第1章 社会的養護における措置変更[伊藤嘉余子]
第1節 措置変更とは何か
1.運営指針による「措置変更」
2.措置変更における「継続性」:それぞれの立場の語りから考える
第2節 全国における措置変更の現状
1.措置変更を経験する子どもの数
2.措置変更のプロセスと児童相談所の役割
第3節 措置変更となる子どもたち
1.乳児院から他施設等への措置変更
2.他施設から児童自立支援施設への措置変更
3.児童養護施設で不適応とされる子どもたち
小括
コラム① 児童相談所から見た措置変更[久保樹里]
第2章 データで見る措置変更の実際[石田賀奈子・野口啓示]
第1節 アンケート調査の方法
第2節 回収率
第3節 児童の措置変更先
第4節 他施設等へ措置変更される児童の属性
1.性別
2.入所理由
3.入所期間
4.措置変更時の年齢
5.障害の有無
6.障害の種類
7.被虐待体験の有無
8.被虐待体験の種別
9.児童福祉施設への入所歴
第5節 措置変更の理由
1.措置変更の理由
2.子どもの発達に伴う措置変更と子どもの行動上の困難さによる措置変更
第6節 措置変更前の準備やプロセス
1.措置変更の際に配慮した事柄
2.措置変更の際に配慮した事柄の比較(施設ごとに集計)
3.措置変更の際に配慮した事柄の比較(「子どもの発達に伴う措置変更」と「子どもの行動上の困難さによる措置変更」に分けて集計)
第7節 小括
1.児童の措置変更先
2.他施設等へ措置変更される児童の属性
3.措置変更の理由と施設の役割分化
4.措置変更前の準備やプロセス
コラム② 乳児院から送り出す措置変更における配慮事項[六川徳子]
第3章 施設職員が語る「措置変更」のプロセス[伊藤嘉余子]
第1節 乳児院から児童養護施設/里親へ送り出す措置変更
1.【措置変更を検討する理由】
2.【措置変更説明時における子どもと家族の反応】
3.【措置変更準備期間における子どもの反応】
4.【措置変更準備期間における子どもへのケアと配慮】
5.【措置変更による「ケアの継続性」の断絶に対する葛藤】
6.【措置変更と乳児院のストレングス】
7.乳児院からの措置変更の全体像
第2節 子どもの行動上の困難さによる措置変更
1.【措置変更を検討することになった子どもの状況】
2.【措置変更説明時の子どもの反応】
3.【子どもに対する措置変更の意味づけ】
4.【措置変更後の子どもへの「今ここでの支援」】
5.【措置変更後の「これからに向けた支援」】
6.子どもの行動上の問題による措置変更の全体像
第3節 必要な治療や指導を終えた後の措置変更
1.【措置変更を検討することになった理由と背景】
2.【措置変更に対する親子の反応】
3.【措置変更準備期間に行う支援】
4.【措置変更直後の支援】
5.【円滑な措置変更プロセスの阻害要因】
6.必要な治療や指導を終えた後の子どもの措置変更プロセスの全体像
第4節 母子生活支援施設における子どもの措置変更
1.【母子分離を検討することになった理由】
2.【母子分離の準備段階での母子への支援】
3.【母子分離時の工夫と困難】
4.【母子再統合に向けた支援】
5.母子生活支援施設における子どもの措置変更プロセスの全体像
コラム③ 児童自立支援施設に措置変更されてくる子どもたち[千賀則史]
第4章 施設から里親に措置変更された子どもの養育[千賀則史・福田公教]
第1節 乳児院・児童養護施設から里親への措置変更
1.【里親への措置変更の検討】
2.【措置変更に向けた準備】
3.【措置変更後の対応】
4.乳児院・児童養護施設から里親への措置変更プロセスの全体像
第2節 児童自立支援施設から里親への措置変更
事例の概要
ストーリーライン
第3節 小括
コラム④ 児童自立支援施設から来た少女との生活[梅原啓次]
第5章 これからの措置変更のあり方をめぐって[野口啓示・伊藤嘉余子・千賀則史]
第1節 措置変更を経験する子どもの生活歴と抱える課題の深刻さ
1.措置変更を経験する子どもの生活歴
2.措置変更される児童の養育の難しさ
3.施設で何ができるのか?
第2節 子どものパーマネンシー保障の観点から見る措置変更
1.パーマネンシーとは何か
2.なぜ、施設不適応による措置変更では、乳児院経験者が多いのか
3.措置変更の還流の中でのパーマネンシー保障について考える
第3節 措置変更プロセスで「愛着をつなぐ」
1.乳児院から里親・児童養護施設への措置変更におけるジレンマ
2.愛着のリレーとアドボカシー
第4節 母子生活支援施設と他施設とのネットワーク
1.母子生活支援施設の措置変更が示すこと
2.母子生活支援施設の特殊性
第5節 施設と里親の連携
1.「里親不調」という言葉
2.連続性のある支援の実現に向けて
第6節 今後の課題
コラム⑤ 措置変更に伴う「子どもの傷つき体験」そして「職員の持つ倫理上の痛み」[野口啓示]
あとがき
巻末資料
執筆者一覧
前書きなど
まえがき――刊行にあたって
(…前略…)
本書『社会的養護の子どもと措置変更』は、編者が2015(平成27)年度に「厚生労働省子ども子育て支援推進調査研究事業」を受託して行った共同研究「措置変更ケースにおける支援内容や配慮事項に関する調査研究事業」の成果である。つまり、本書の内容は、「新しい社会的養育ビジョン」が発表される以前の背景を踏まえたものであることをご承知おきいただきたい。
この共同研究では、児童養護施設、乳児院、児童心理治療施設、児童自立支援施設、里親、児童相談所等社会的養護の現場で日々子どもや家族と向き合い奮闘する実践者と学識経験者とが協働して、社会的養護における措置変更の現状と問題の所在、今後必要となる改善策について明らかにすべく、調査の実施とその結果の分析・考察を進めた。
本研究事業の一環として構成した「円滑な措置変更のあり方に関する検討委員会」では、毎回、活発な議論が展開され、重く苦しい雰囲気に包まれることも少なくなかった。激しい意見が行き交うことが多く、時には感情的な衝突もあった。
なぜ、本研究はこれほどにつらく重苦しい雰囲気の中で進めなければならなかったのか。その原因の1 つとして、「措置変更」というテーマは、どの立場の人にとっても、考えたり思い出したりするにあたって、ある種の「痛み」を伴うものだからだと考えられる。
措置変更で他施設に子どもを送り出したエピソードを思い出す時「あの時もっと自分にはできることがあったのではないか」「養育者としての自の力不足で子どもを手放した」といった無力感や不全感に苛まれることは少なくないという。
また逆に、措置変更してきた子どもを受け入れた経験のある施設職員や里親は「もっと早く措置変更してくれたら良かったのに」「大切な情報が引継ぎされず、養育しづらい」といった不満を持つことも多いとの意見も出た。両者の間に入り関係調整しながら措置変更の手続きを進める児童相談所のワーカーのストレスも小さくないと考えられる。いうまでもなく、措置変更のプロセスで最も傷つき痛みを感じているのは、当事者である子ども自身である。そしてそのことをどの専門職も明確に理解している。理解しているからこその迷いや苦悩がある。このあたりの葛藤については本文の中でもしばしば触れているので、ぜひ一緒に考えていただきたい。様々な葛藤や苦悩をわかちあいながら進めた研究活動の成果をこうして本という形にまとめ、社会に問いかける機会を与えられたことを非常にうれしく光栄に思う。
この本が、社会的養護(養育)に関する社会の関心を高めると共に、施設や里親間で措置変更される子どもにとっての「最善の利益に配慮した養育プロセス」とは何かを社会的養護関係者間で広く議論し、今後の社会的養育のありようについて社会全体で展望していくための1つのきっかけになれば、幸いである。