目次
まえがき
『発達障害白書2018年版』における「発達障害」の表記と定義の統一について
第1部 特集 津久井やまゆり園事件を考える
Section 1 事件を分析する
Ⅰ 当事者が見た津久井やまゆり園事件
Ⅱ 加害者と精神医学
Ⅲ 日本の優生思想と障害者福祉・教育への影響
Ⅳ 神奈川県検証委員会報告書から
Section 2 事件を再び起こさないために
Ⅰ 大規模施設政策の歴史と今後のあり方
Ⅱ 津久井やまゆり園事件とマスコミ報道
Ⅲ 被害者家族を取材して
Ⅳ なくならない障害者への虐待
第2部 各分野における2016年度の動向
第1章 障害概念
Ⅰ 発達障害を取り巻く認識とその変化
Ⅱ 2016年度の発達障害・知的障害研究の動向
Ⅲ 発達障害・知的障害の増加と要因
Ⅳ 発達障害・知的障害の評価と課題
Ⅴ コミュニケーション障害という視点
時の話題 知的障害のある子どもと抗精神病薬
時の話題 自閉スペクトラム症の特徴を持つサル
第2章 医療
Ⅰ 災害弱者としての広汎性発達障害児
Ⅱ 注意欠如・多動症の診断・治療ガイドラインの改訂
Ⅲ 向精神薬の適応外使用と適応拡大
Ⅳ MPSAの保険認可
Ⅴ 2016年度のASDに対するオキシトシン研究から
時の話題 日本DCD学会設立
時の話題 混乱を招きかねない総務省勧告
第3章 子ども・家族支援
Ⅰ 多様化と向き合う子ども・家族支援
Ⅱ 早期発見、早期支援のあり方を考える
Ⅲ わが国におけるペアレント・メンターの発展と課題
Ⅳ 熊本地震における発達障害のある子とその親への支援
Ⅴ 妊娠期からの子育て支援
時の話題 ママたちが非常事態!?
時の話題 発達が「気になる子」の保育を支える、保育園運営企業による取り組み
第4章 教育:特別支援学校の教育
Ⅰ 特別支援教育の新たな動きとよりよい展開に向けて
Ⅱ 特別支援学校学習指導要領の改訂とその概要
Ⅲ 特別支援学校における「アクティブ・ラーニング」の実現
Ⅳ 特別支援学校における外部と連携した芸術・文化活動の意義
Ⅴ 特別支援学校卒業生の生涯学習のあり方
時の話題 特別支援学校での「出前狂言教室」
時の話題 北欧スウェーデンで学んだ“タクティール・タッチ”
時の話題 知的障害・肢体不自由児への視能支援
時の話題 意思決定の基盤を育む
第5章 教育:小・中学校等での特別支援教育
Ⅰ 次期学習指導要領と通常の学校における特別支援教育
Ⅱ 新学習指導要領等における幼稚園、小・中学校等の特別支援教育
Ⅲ 障害者差別解消法とICT機器による支援
Ⅳ 東京都における「特別支援教室」の取り組み
Ⅴ 通常の学級における授業改善
第6章 日中活動
Ⅰ 障害者総合支援法改正と日中活動の多様化
Ⅱ 重度障害者等包括支援の現在地
Ⅲ 医療的ケア児にも短期入所を
Ⅳ 支援者に求められる怒りのコントロール
Ⅴ 発達障害者支援法改正に寄せて
時の話題 重度の障害を持った子どもたちの地域生活白書
時の話題 障害者のための投票支援DVDを作成
第7章 住まい
Ⅰ 住まいの視点からみた地域共生社会の実現
Ⅱ 「ごちゃまぜ」共生社会が創る日本の未来
Ⅲ 建設反対運動なぜ“成就”
Ⅳ 知的障害者の高齢化と認知症
Ⅴ 社会的養護の課題
時の話題 小規模グループホームにおけるスプリンクラー設置の動向
時の話題 障害者の8割が貧困
時の話題 社会的弱者の賃貸入居を支援
第8章 地域生活支援
Ⅰ 障害者総合支援法改正と地域生活支援の展開
Ⅱ 栃木市版・地域生活支援拠点「栃木市くらしだいじネット」の整備
Ⅲ 障害者の意思決定支援ガイドライン
Ⅳ 福岡市における「強度行動障がい者集中支援モデル事業」
Ⅴ 「親なきあと相談室」の開設
時の話題 東大生が見た障害者のリアル
時の話題 警察にも知的・発達障害の理解を
時の話題 障害児を対象に動物園を開放
第9章 職業
Ⅰ 障害者法定雇用率の引き上げと職業生活の質の向上
Ⅱ 差別解消・合理的配慮提供の枠組みと企業の対応
Ⅲ 2018年度からの精神障害者の雇用義務化に向けて
Ⅳ 就業・生活支援センターの展望
Ⅴ 就労継続支援A型事業の運用の見直し
時の話題 民間企業の雇用障害者数と実雇用率、ともに過去最高を更新
時の話題 分け隔てない共生社会の実現
時の話題 発達障害に特化した就労支援の展開
時の話題 就労支援事業所の工賃向上と商品・サービスの実態調査
第10章 権利擁護/本人活動
Ⅰ 誰も排除しない社会の構築に向けて
Ⅱ 成年後見制度利用促進法をめぐる動き
Ⅲ 障害者差別解消法施行後の取り組みと合理的配慮に基づく疑似体験の課題
Ⅳ 本人の体験活動支援プログラム「チャレンジド」
時の話題 合理的配慮理解キャラバン隊フェスティバル
時の話題 重度知的障害者のシェアハウスでの自立生活
第11章 文化・社会活動
Ⅰ 障害者の文化芸術活動・生涯学習の促進の動き
Ⅱ 福祉防災コミュニティ協会の創設
Ⅲ 東京オリンピック・パラリンピックに向けた障害者の文化芸術活動の展開
時の話題 仏・ナント市で障害者の国際文化交流事業が開催決定
時の話題 Road to 武道館
第12章 国際動向
Ⅰ 国際的基準の確認と開発途上国支援からの考察
Ⅱ 国連における障害と持続可能な開発目標(SDGs)
Ⅲ 2016年度JICA「地域活動としての知的障害者支援」コース
Ⅳ JICAによる障害のある子どもの教育支援
Ⅴ 国際交流基金「障害×パフォーミングアーツ特集」の取り組み
時の話題 リオ2016パラリンピック競技大会、知的障害選手の活躍
第3部 資料
1 年表
2 統計
3 日本発達障害連盟と構成団体名簿
津久井やまゆり園での事件について(声明)
あとがき
執筆者一覧
前書きなど
まえがき[公益社団法人 日本発達障害連盟 会長:金子健]
本書は、2016(平成28)年4月から2017(平成29)年3月までの期間における、知的障害をはじめとする発達障害のある人々をめぐる医療、福祉、教育、労働等の様々な出来事について記述している。公益社団法人日本発達障害連盟という立場で、事実を客観的・科学的に報告するとともに、専門的に分析し論評を試みている。民間で発行されるこの分野で唯一のイヤーブックとして、第一線で活躍されている研究者、実践家、支援者等の多くの方々に執筆していただいた。1961(昭和36)年に『精神薄弱者問題白書』として発行を始めて以来、名称を変えながら半世紀以上が経過し、54冊目になる。
この半世紀の間に、障害のある人々をめぐる社会の状況は大きく変化してきた。北欧から始まって欧米諸国に広まったノーマライゼーション、インテグレーション、インクルージョンといった理念と実践の進化は、ICIDH(国際障害分類)からICF(国際生活機能分類)への転換、そして障害者権利条約の制定という国連主導の世界的なうねりとなって、地球規模で障害のある人々を包んだ。わが国もそのうねりの影響を大きく受け、障害者基本法の成立、教育基本法や学校教育法の改正、そして2014(平成26)年1月の国連の障害者権利条約の批准、2016年4月の障害者差別解消法の施行と、遅ればせながらも着実に歩みを進めてきた。
ところが、このような楽観的時評を無惨にも打ち砕く事件が、起こってしまった。2016年7月の津久井やまゆり園での事件である。単に一人の差別主義者が引き起こしたということではなく、その背景としての社会的暗部が垣間見られるという意味で、世界的にも様々な波紋を呼んだ。
本書では、緊急に多様な視点からこの事件を論じ、今後の時間をかけた議論の端緒としたいと考えている。読者の皆様からのご意見をお待ちしている。