目次
はじめに
第Ⅰ部 貧困とは何か
第1章 身近にある貧困をとらえる――貧困・低所得・生活困窮の理解
1 誰が貧困状態にあるのか?
2 見えにくい貧困者をとらえる視点
3 貧困の場所/貧困の経験
第2章 何が貧困で、何がふつうの暮らしなのか――貧困の概念と定義
1 貧困とはどのようなことか
2 「生存ライン」の貧困――最低限とは何か
3 「ふつう」が奪われた状態としての貧困
4 貧困の政治――「不正義」としての貧困を語る
第3章 社会は貧困をどう見ているか――保守化する貧困観
1 貧しい人の肩をもつ人とそうでない人
2 貧困者はなまけている――「自己責任論」
3 貧困者が秩序を乱す――「貧困の文化論」
4 個人主義的貧困観はなぜ支持されるのか
第4章 なぜ貧困が生じるのか、そして何をもたらすのか――スティグマ・不自由・不平等
1 貧困と救済のスティグマ
2 貧困は不自由である――ケイパビリティ論
3 ぜんぶ資本主義のせいだ!――搾取と抑圧からの解放の理論
4 格差・不平等はコントロールできる
第Ⅱ部 貧困対策としての社会保障
第5章 政府が貧者をたすける理由――公的扶助の思想・理念
1 ナショナル・ミニマム――生産主義と「最低限」
2 生存権とシチズンシップ
3 セーフティネットとワークフェア
第6章 公的扶助という名の貧者の管理――貧困対策と福祉国家の統治
1 「解放」と「抑圧」の貧困対策
2 近代化する欧米で救貧制度が生まれた意味
3 戦争と経済成長が福祉国家をささえた
4 「富国強兵」のなかの日本の公的扶助
第7章 公的扶助は「恥」なのか――社会保障のなかの公的扶助
1 公的扶助なのか、社会扶助なのか
2 救貧制度から脱却できない日本の公的扶助
3 社会扶助における「社会」の意味を考える
4 社会保障における公的扶助の特性――4つの視点から
第8章 生活をまるごと保護するとはどんなことか――生活保護の目的と原理
1 「最低生活」を約束する生活保護
2 「自助」が基本、ゆえに資力調査をおこなう
3 「自立」の支援に力を入れる
第9章 保護は「依存」を生み出すのか――生活保護の内容・方法・水準
1 どのような給付があり、どのような保障をするのか
2 いくらもらえるのか、その基準は高すぎるのか?
3 「実質的な権利」と義務について考える
4 最後の最後のセーフティネットといわれて――生活保護施設
第10章 生活を保護する側の論理と苦悩――ケアとコントロールのジレンマ
1 福祉事務所と窮地に立つケースワーカー
2 管理統制と低コスト化――LCC化する福祉事務所
3 切り取られた受給者像――政府は何に悩んでいるか
4 生活保護費は悩みの種か?――財政をめぐる実像と虚像
第11章 セーフティネットがたくさんあれば安心か――公的扶助の周辺
1 「第2のセーフティネット」への期待と現実
2 生活保護のほころびに「つぎあて」をする
第12章 ジモトに広がる「ソーシャル」なたすけあい――非政府はどこまでやれるか
1 政府によらない支援のかたち
2 自助グループと当事者参加
3 窮地に立つ、公的扶助における「政府から非政府へ」
第13章 貧困者を生まない社会保障は実現できるか――対貧困政策の国際的動向と展望
1 求められるベーシックインカム
2 税制を用いた所得再分配のしくみと課題
3 海外の公的扶助はどうなっているか
4 所得とケアを保障する対貧困政策の充実に向けて
おわりに
文献
前書きなど
はじめに
本書のねらいと問題意識
筆者は、大学で貧困と社会保障の研究をはじめて約20年、そして微力ながら地域で生活困窮者の支援に取り組むNPOにかかわって十余年になる。この間、「研究」と「現場」というふたつのフィールドの狭間で、双方から厳しい問いかけを受けながら日本の貧困問題に向き合い、社会保障政策の課題を考えてきた。また、あわせて大学という教育現場で、貧困や社会保障の「問題の所在」を伝えていくことの難しさを実感してきた。
こうした立ち位置から見えてきたことは、月並みではあるが、まず日本の貧困問題が相当に深刻で危機的な状況になっているという事実である。その事実は、日本の対貧困政策があまりにも安上がりなものであるために、貧困を解決しきれないでいることと深く関係している。その結果、多大な「社会的損失」が生まれている。
本書を手に取ってくださった方々は、おそらく貧困や格差・不平等の問題、生活困窮者の支援や地域づくり、そして福祉行政や社会保障政策に関心のある幅広い層の人たちではないかと想像している。そのような「ソーシャル」な問題に関心のある方々ならば、貧困はその当事者の暮らしを崩壊させるばかりでなく、「社会」に深いダメージを与えるということに一定の理解があるだろう。
(…中略…)
本書では、貧困と社会保障――とくに「公的扶助」と呼ばれる領域――にかんする知の体系および論点について、包括的に、かつじっくり考えることができるように体系的に整理している。「貧困研究」や「公的扶助論」と呼ばれている議論の蓄積を土台にしつつ、学問分野を超えた新しい視点やアイデアを豊富に盛り込んだつもりである。
(…後略…)