目次
まえがき
序章 研究の目的と方法
1.問題の所在と研究の目的
(1)本研究の目的
(2)「実質的な」統合を扱う重要性の確認
(3)欧州在住トルコ移民と教育の役割
2.研究の枠組み
(1)本研究で用いる概念枠
(2)本研究の位置づけ
(3)統合が最も遠いトルコ女性移民の立ち位置に着目
(4)用語の定義
3.本研究の構成と方法
(1)本書の構成
(2)研究方法と限界
第一部 先行研究の批判的考察
第1章 トランスナショナルな移民研究の背景と課題
1.グローバルな移民と移民研究の動向
(1)人の移動傾向
(2)移民の理念型
(3)学問領域ごとの移民研究の扱い
(4)移民研究の変遷
(5)トランスナショナル状況
2.ムスリム移民を対象とした教育研究の留意点
(1)ムスリム人口の増加と移動
(2)ムスリム移民を対象とした研究
(3)ネットワークの拡大とトランスナショナル化の加速
(4)教育研究としての扱い
第1章のまとめ:ムスリム移民の教育研究には学際的手法を用いた個人と社会の変容を分析する必要がある
第2章 ムスリム移民のおかれた環境
1.イスラモフォビア:ダイナミックな課題
(1)イスラモフォビアとは
(2)欧州におけるイスラモフォビア
(3)母国トルコにおける宗教ベクトルの増大
(4)イスラーム実践への支持
2.移民の教育課題と内発性
(1)移民の抱える教育課題
(2)移民の教育研究における学校教育の限界
(3)成人教育で求められる内発的な動機
3.トルコ女性移民を取り巻く教育環境
(1)イスラーム教育とは
(2)女性トルコ移民に関する研究
(3)トルコ女性移民のシンボル化と役割期待
第2章のまとめ:ムスリム女性移民は外圧の中で内発性を捉える対象となる
第3章 ノンフォーマル教育および個人と集団におけるその成果
1.ノンフォーマル教育とは
(1)正規・公式(フォーマル)教育との相違と類似
(2)境界線の消滅と連続性
(3)ノンフォーマル教育における認証と動態
2.ノンフォーマル教育からみる学習の成果:個人のエンパワメント
(1)学習成果とは
(2)個人としてのノンフォーマル教育の成果
(3)参加によってエンパワメントされる
3.ノンフォーマル教育からみる学習の成果:社会関係資本
(1)集団としての成果:他者との関係性
(2)社会関係資本とは
(3)ネットワークとしての社会関係資本
(4)社会関係資本の認知・文化面:信頼と規範
(5)社会関係資本の負の側面
第3章のまとめ:NFEによって学習参加者はエンパワーされる
第二部 事例と考察
第4章 移民に対する欧州の施策:制度保障の動き
1.移民の統合と教育政策:移民統合政策指標
(1)移民統合政策指標(MIPEX)とは
(2)改善を続けるドイツ
(3)トップのスウェーデンの指標と特徴
(4)MIPEXに見られる教育指標
2.『学校へ移民の子どもたちを統合する』に見る教育取り組み
(1)Eurydiceの調査結果
(2)国別報告書より:ドイツは改善の最中にある
(3)国別報告書より:スウェーデンは細かな取り組みが多い
3.欧州における複言語主義と少数派への支援
(1)欧州言語共通参照枠(CEFR)
(2)多言語主義から複言語主義への視点の転換と挑戦
第4章のまとめ:欧州受入社会では移民政策と教育の整備が進んできた
第5章 トルコ移民の統合・参加:ベルリンの事例
1.トルコ移民の背景
(1)移住の歴史
(2)ドイツ在住トルコ移民の教育ニーズ
(3)ベルリンの統合政策の基本戦略
2.ベルリン・ノイケルンにおける取り組み事例
(1)ノイケルン(Neukolln)の特徴
(2)行政による取り組み
(3)イスラーム団体による取り組み
(4)トルコ系教育NGOによる取り組み
3.「地域の母」事業の詳細と評価
(1)事業の成り立ちと仕組み
(2)活動の成果と課題
(3)ノイケルン区による「母」事業の評価
(4)評価報告書から
第5章のまとめ:ベルリンでは制度整備が進み、自発的集団に支援が見られる
第6章 考察:移民の置かれた状況とエンパワメントの構造
1.移民の置かれた状況
(1)グローバルな動きとドイツ社会からの影響
(2)母国トルコおよびトルコ移民社会から
(3)親族および家庭から
2.ノンフォーマル教育の成果
(1)参加によるエンパワメントと均衡ダイナミズム
(2)社会関係資本の蓄積
3.実質的な統合:多文化社会の構築プロセスの1つとして
(1)「母」事業の持続性
(2)世界に展開する「地域の母」モデル
(3)イスラーム保守化させるのは誰か
第6章のまとめ:トルコ女性移民はノンフォーマル教育でエンパワーされる
終章 結論と今後の研究課題
1.各章のまとめ
2.本研究から得られた示唆
(1)形式的統合に向けた標準化の動き
(2)実質的統合に求められる内発性
(3)多文化社会の構築におけるジレンマと高度な参加形態
3.今後の研究課題
付録
付録1.移民政策指標(MIPEX)Ⅰ 抜粋訳
付録2.移民政策指標(MIPEX)Ⅲ 抜粋訳
参考文献
あとがき
前書きなど
序章 研究の目的と方法
3.本研究の構成と方法
(1)本書の構成
第一部は主に理論的背景と研究枠組みに関する内容を扱い、3つの章から構成される。まず第1章では、研究の背景と課題を確認するため、研究対象とするムスリム移民、定住化した元出稼ぎ労働者と呼び寄せられた親族、移住先で生まれた子どもに関係する研究内容について整理を行う。(……)
第2章では、ムスリム移民の抱える周辺環境を確認し、本研究が対象とするムスリム女性移民は多層的な外圧にさられていることを示す。そうした環境下における社会参加には、主体としての内発性が重要であることを記す。(……)
続く第3章は、ノンフォーマル教育および集団と個人におけるその成果を確認する。ノンフォーマル教育とは、学校教育の枠外において、正規ではなくてもさまざまな組織が、ある程度デザインされた状態で提供する教育で、学習者・参加者と状況に応じて変化する柔軟性が特徴である。(……)
第二部は、本研究の事例研究に該当し、第1章から第3章で整理した分析枠を用いて考察を行う。これは第4章から第6章からなる。第4章では、欧州受入社会では移民政策と教育の整備が進んできたことを主に文献調査の結果を示す。(……)
第5章は、トルコ移民が多く居住するドイツの首都ベルリンを事例に、文献およびフィールド調査の結果を示す。(……)
第6章では、事例の「地域の母」事業を主たる対象として、実質的な統合につながるトルコ女性移民の社会参加をノンフォーマル教育、社会関係資本から分析、考察し、トルコ女性移民はノンフォーマル教育でエンパワーされることを示す。(……)
終章では、結論と今後の課題を記す。本研究の事例では、当事者としての社会の一成員になるため内発的に社会に参加することが重要であることが記される。そこには、孤立した者が関わることのできるという、実質的な統合のために、形式的な統合を支える環境整備が求められることを示し続けた。そのきっかけとなるのがノンフォーマル教育の機会で、それを経て人々が持続可能な多文化社会を構築することになることを主張する。
(…後略…)