目次
はじめに――出版経緯
Ⅰ 概論
第1章 地理・自然・先史――オーストロネシア語族が原住する熱帯の島
第2章 オランダ時代・明鄭時代・清代――台湾島規模の統治領域の形成
第3章 日本統治時代――ほぼ台湾島規模での住民意識の登場
第4章 国民党統治時代――中国から台湾への中華民国の規模縮小
第5章 憲法修正以降――中華民国と台湾との絡まる現状維持
第6章 エスニック・グループ――省籍矛盾、四大族群、そして新移民
【コラム1】現代に残る五族共和――台湾のチベット人
第7章 言語――共通語・母語・字体・表音式表記
第8章 暮らしの基本データ――人口・物価・電圧など
第9章 日本統治時代をどう捉えるか?――台湾史の多元性から考える
第10章 台湾理解の変遷――他者による記述から自身による表明へ
【コラム2】矢内原忠雄と『帝国主義下の台湾』
Ⅱ 政治と経済
第11章 政治体制――五権分立の中華民国の主権と統治権
【コラム3】故宮博物院
第12章 五権憲法――孫文先生の威光はどこまで通じるか?
第13章 政党と国家像――想定する空間的規模の異なる二大政党の歩み
第14章 選挙――進化を続ける民主政治
第15章 民主・自由・人権――台湾人要出頭天!
第16章 統一・独立・現状維持――「台湾の国家性」という政治争点
【コラム4】「台湾人」アイデンティティと「中国人」アイデンティティ
第17章 農業――主要産業から斜陽産業へ
第18章 工業――中小町工場から世界一のハイテク請負企業まで
第19章 経済発展――謎と奇跡の初期条件
第20章 インフラ建設――灌漑施設・発電所・高速道路
第21章 交通――ローカル線から新幹線まで
第22章 世界とのつながり――金融自由化、国営企業民営化とWTO加盟
第23章 対中経済関係――両岸の断絶から「三通」の完成まで
【コラム5】観光地――ライト&ディープ
Ⅲ 社会
第24章 原住民――多文化主義先進地域における原住民の存在感
第25章 客家――少数派漢人の言語と伝統文化
第26章 新移民――中国・東南アジアからやってきた新しい「台湾人」
【コラム6】外省人――両岸三地に生きる中華民国国民
第27章 人間関係とコミュニティ――人とのつながり方と台湾版まちおこし
第28章 社会運動と政治の駆け引き――第四原発反対運動とひまわり学生運動
第29章 女性――鮮やかな活躍、続く格闘
第30章 性的マイノリティ運動――戒厳令解除以後の道のり
第31章 マスメディアとインターネット――抑圧から多元化へ
第32章 教育制度――学歴社会における学校
第33章 大学の大衆化――狭き門から全入の時代へ
【コラム7】大学の国際化と「留学生」――統計に見る台湾の特殊性
第34章 日本語教育――120年間いかにして受け入れられ、拒絶されてきたのか
第35章 医学・医療――医療の伝道から医学の貢献へ
第36章 社会保障・福祉・少子高齢化――30年で半減した新生児
【コラム8】兵役――徴兵制から志願兵制へ
Ⅳ 文化と芸術
第37章 文学――公認「台湾文学」誕生に至る道
第38章 文芸青年――書店文化・村上春樹・文学キャンプ
第39章 美術――「台湾」をいかに描くか
第40章 演劇――民衆から知識人、そして市民へ
第41章 映画――自分の、台湾の物語が観たかった
第42章 テレビドラマ――多チャンネル化の歩みと今日の問題点
【コラム9】写真大好き・自撮り大好き
第43章 ポピュラー音楽――多元的で越境的で独立的な音楽シーン
第44章 飲食文化――移民の歴史が織り込まれた台湾美食
第45章 スポーツ――「台湾意識」を引っぱりこめ!
第46章 中華文化・本土文化・日本文化――現代史にみる“われわれ”意識
【コラム10】「哈日族」の今とキャラクター人気
第47章 宗教――台湾化とグローバル化
第48章 年中行事――台湾歳時記
【コラム11】婚礼と葬礼――人生の赤と白
Ⅴ 対外関係
第49章 外政――外務・僑務・大陸事務
第50章 アメリカとの関係――同盟から保護へ 1949-2016
第51章 中国との関係――「92年コンセンサス」に代わるマジックワードは生まれるか?
第52章 日本との関係――切っても切れない重要な隣国
【コラム12】「台僑」と「華僑華人」――中華民国と台湾の狭間で
【コラム13】921から311へ
【コラム14】琉球/沖縄との関係――長い歴史を眺めて
第53章 東南アジアとの関係――「南向政策」を通じた実務外交の模索
第54章 国際組織――国連脱退後の苦難を切り開く道はあるか
第55章 安全保障――両岸危機と軍隊の「国軍」化
Ⅵ 人物
第56章 政治――戒厳体制から民主化後まで
第57章 歴史――多様な背景の人物群像が活躍した400年間
第58章 経済――五大家族からIT長家まで
第59章 文化――新たな世界観を創り出す文化人たち
第60章 芸能とスポーツ――国を超えて活躍するスターたち
おわりに――二松先生後序
参考文献
付録1 年表
付録2 日本における台湾情報の探し方
付録3 台湾理解のための文献案内
執筆者一覧
前書きなど
はじめに――出版経緯
日本における台湾への眼差しは、東日本大震災に対する台湾からの篤い支援により大きく変わった。多くの方が台湾に関心をお寄せくださることが心から嬉しい。だが、近現代における日台関係を思う時、台湾への関心の高まりを感慨深く思う一方で、「親日台湾」という一面的な報道や理解に、私は困惑した。
そんな2014年夏、久木元真吾さん・佐藤美奈子さんご夫妻と台北で酸菜白肉火鍋をいただきながら、「学生に紹介できるような台湾の概説書がない」とうかがった。ショックだった。多数刊行されているものだと思い込んでいた。実は、概説書はもちろん日本の教科書が台湾をどのように記してきたのかもよく知らなかった。そこで、2014年秋、若松大祐さん主宰の「台湾理解を見直すためのワークショップ」(於京都大学)において、「概説書からみる台湾」について報告した。驚いたのは、高校日本史教科書(『詳説日本史』山川出版社、2015)の本文で触れられた台湾関連記述は7箇所(①台湾出兵、②下関条約による台湾・澎湖諸島の割譲、③樺山資紀を台湾総督に任命、④鈴木商店破綻により不良債権を抱えた台湾銀行を救済できず若槻内閣総辞職、⑤皇民化政策、⑥サンフランシスコ平和条約による台湾放棄、⑦NIESの急速な経済成長、※注も加えると13箇所)に過ぎなかったこと。さらに驚いたのは、日本の台湾研究者が共著出版した最も新しい概説書が、1998年刊行の若林正丈主編『もっと知りたい台湾 第2版』(弘文堂)だったことだ(単著の最新刊は、沼崎一郎『台湾社会の形成と変容――二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会、2014)。
1998年の李登輝政権だったあの頃、3度目の政権交代[→5章]、経済の中国依存[→23章]、新移民による社会構造の変化[→26章]、LGBTプライド・パレード[→30章]、『海角七号』大ヒット[→41章]、ひまわり学生運動[→28章]が起こるなんて、一体誰が予測しただろう。日本台湾学会が創立したのも1998年だった。21世紀になってから台湾研究を始めた私は、日本や台湾の研究に多く学びながら、多元的な台湾のダイナミックな変容を見つめてきた。「親日台湾」という一面的な見方ではなく、60章+14コラムという74の多面的な視点から、現在の台湾を理解していただける本書を、台湾に関心を抱く日本のみなさまにお届けすることは、私たち台湾研究者から台湾のみなさまへの報恩の一つになると私は信じている。
しかし、概説書を作ることは私一人では成し遂げられないことであり、多くの方のお力添えをいただき本書(本書の特徴については「おわりに」参照)は刊行に至った。明石書店を紹介してくださった同僚の佐藤円先生、アイディアと行動力に溢れた共編者の若松大祐さん、不慣れな私たちを温かく見守り的確に導いてくださった編集者の兼子千亜紀さんのご尽力より本企画は漕ぎ出すことができた。また、読み合わせ会(2016年2月、於大妻女子大学)において、家永真幸さん、北波道子さん、木村自さん、久木元真吾さん、黒羽夏彦さん、原正人さん、村上太輝夫さん、山﨑直也さんより貴重なご意見を賜ったことは、本書刊行の大きな原動力となった。何より、「台湾理解を見直すためのワークショップ」の参加者を中心とする日台29名の執筆者のみなさまは、膨大な知識と経験に裏打ちされた最新かつ確かな知見をわかりやすく惜しみなく熱く筆に込めてくださった。心より敬意を表するとともに、深く感謝申し上げる。
本書を手に取ってくださった読者のみなさま、ありがとうございます。本書は60章14コラム、どこから読んでいただいてもOKです。もしお迷いの場合には、概論から読んでいただけると幸いです。多くの章末には、「合わせて読みたい」書籍を付しておりますので、ご参照くださいませ。本書がみなさまにとって台湾の新たな扉を開きたくなるきっかけとなりますことを心より願っております。
2016年6月編者を代表して 赤松美和子