目次
「移民・ディアスポラ研究」5の刊行にあたって[駒井洋]
序章 ○○系というアポリア――マルチ・エスニック・ジャパンへの課題[佐々木てる]
Ⅰ ○○系概念の国際比較――エスニシティとナショナリティの乖離と統合
第1章 「エスニック・アメリカン」であること――エスニック文化とナショナリズムの接合[南川文里]
第2章 「ドイツ人」概念の変容――「○○系ドイツ人」から考える[佐藤成基]
第3章 アジアにおける〇〇系概念――国民構築とエスニック・アイデンティティ[石井由香]
Column1 移動する子ども[川上郁雄]
特別インタビュー 日本代表として闘う――日本国籍を取得した外国人ラグビー選手たち[小林真生・佐々木てる]
Ⅱ ○○系日本人の可能性と課題
第4章 コリア系日本人の再定義――「帰化」制度の歴史的課題[李洙任]
第5章 華僑華人――マルチ・エスニック・ジャパンへの希望の芽[陳天璽]
Column2 〈非-在日〉作家による「在日コリアン文学」――安岡伸好『遠い海』によせて[倉石一郎]
第6章 フィリピン系日本人――10万人の不可視的マイノリティ[高畑幸]
第7章 ベトナム系日本人――「名付けること」と「名乗ること」のあいだで[川上郁雄]
Column3 日本人にならない方がよかった?――ある「ビルマ系日本人」のつぶやき[梶村美紀]
第8章 ロシア系日本人――100年の歴史から見えてくるもの[倉田有佳]
第9章 「中国帰国者」系日本人――生成的な境界文化の可能性[南誠]
第10章 「引揚げ者」系日本人のライフコース[駒井洋]
Column4 もうひとつの「帰国者」――サハリンから日本へ[中山大将]
書評
上林千恵子著『外国人労働者受け入れと日本社会――技能実習制度の展開とジレンマ』[駒井洋]
全泓奎著『包摂型社会――社会的排除アプローチとその実践』[駒井洋]
編者後記[佐々木てる]
前書きなど
「移民・ディアスポラ研究」5の刊行にあたって[駒井洋]
(…前略…)
シリーズ第5号のタイトルは、「マルチ・エスニック・ジャパニーズ――○○系日本人の変革力」とすることにした。カタカナ英語をメインタイトルとせざるをえなかったのは、「○○系日本人」を指示する適当な日本語がいまだ存在していないうえに、かといって「○○系日本人」をメインタイトルとしていきなり使用することも憚られたからである。
「○○系日本人」を指示する日本語が存在しないことには、歴史的理由があるとおもわれる。日本国籍を取得した外国出身者およびその子孫のほとんどは、ネイティブ日本人社会への同化を強制されたり自発的に同化したりすることにより、その出自が抹消されて不可視の存在とされてしまっていたからである。
しかしながら、序章で概観されるように、近年○○系日本人を意味する非ネイティブ日本人人口はいちじるしく増加し、その存在のしかたも可視性が顕著に増大している。したがって、日本社会は「ネイティブ日本人」と「非ネイティブ日本人」とから構成されるという現実が進展しはじめたといえる。ここでふたたび「ネイティブ日本人」と「非ネイティブ日本人」というカタカナ英語を用いざるをえなかったのも、上述した歴史的理由による。
○○系日本人は、その出自の多様性とそのライフコースで遭遇した逆境とにより、日本社会にたいする強い変革力をもっている。日本社会が直面している閉塞状況の打破に、○○系日本人の多大な貢献が期待される。