目次
第1章 異文化間教育学の到達点と今後の研究課題
1.課題
2.異文化間教育学の体系化に関する議論
3.異文化間教育学の独自性の追求
4.研究が前提としてきたカテゴリーの問い直し
5.実践と変革を志向した研究
6.新たな視点からの研究の展開
7.今後の研究の課題
第2章 異文化間教育学研究における方法論
1.「異文化間教育」の研究方法
1.1 『異文化間教育』の投稿論文にみる研究方法
1.2 分析手法の使用頻度にみる研究方法
1.3 質的データ分析の方法とその潮流
1.4 データ収集とデータ解析の傾向分析
1.5 新たな潮流としての混合研究法
1.6 社会科学の研究方法に関するパラダイム転換
1.7 個人情報保護と研究者倫理
2.エスノグラフィ
2.1 当事者の視点から文化を理解する方法としてのエスノグラフィ
2.2 本学会誌におけるエスノグラフィ研究の展開
2.3 フロンティア(最前線)としてのエスノグラフィの可能性と課題
3.インタビュー
3.1 文化記述と他者理解の方法としてのインタビュー
3.2 『異文化間教育』掲載論文におけるインタビュー法の利用傾向
3.3 考察――成果と課題
4.ライフストーリー――異文化間教育学と日本語教育の比較を中心に
4.1 異文化間教育学とライフストーリー法
4.2 日本語教育におけるライフストーリー法の展開
4.3 異文化間教育学におけるライフストーリー法の可能性
5.グラウンデッド・セオリー法
5.1 グラウンデッド・セオリー法
5.2 異文化間教育学会および関連学会におけるGTA
5.3 GTAの貢献と今後の課題
第3章 異文化間教育学の実践とその研究手法
1.異文化間教育学における実践的な手法
1.1 実践的な手法とは
1.2 実践的な手法の特徴
1.3 今後の課題
2.異文化間教育における演劇的手法
2.1 課題の設定
2.2 演劇的空間の共有
2.3 身体性と創造性
2.4 アクティビティ開発
2.5 ドラマワーク開発
2.6 演劇的知
2.7 まとめ
3.ICTを活用した新たな実践の試み
3.1 ICTを通した異文化間協働の意義
3.2 ICTを活用した異文化間協働の実践事例
3.3 ICTを活用した新しい異文化間協働の特徴
3.4 ICTを活用した異文化理解の新しい試みに向けて
4.高等教育における異文化間教育の実践
4.1 21世紀に求められる学修成果
4.2 異文化間教育を巡る国際動向と日本の動向
4.3 大学における異文化間関連教育科目の実際
4.4 高等教育における異文化間関連教育の実践についての先行研究の検討
4.5 異文化リテラシー修得に向けての大学の実践事例
4.6 理論と実践の融合に向けての課題と知識基盤社会に向けての動向
4.7 「異文化リテラシー」の学修成果基準策定に向けて
第4章 多文化社会における人材の育成
1.学校教育における新たな人材の育成
1.1 学校教育における新たな人材の育成への要請
1.2 『異文化間教育』に掲載された学校教育における新たな人材育成に関する先行研究
1.3 関連諸学会の学校教育における新たな人材の育成に関する研究
1.4 今後の課題と提言
2.多文化社会の問題解決に寄与する専門人材の養成
2.1 専門人材育成への社会的要請と異文化間教育学
2.2 多文化化の問題解決に寄与する人材養成の取り組み
2.3 異文化間教育学に見るコーディネーター養成の視点
2.4 実践者が行う「実践研究」
2.5 専門職養成に異文化間教育学はどう貢献できるか(展望)
第5章 新たな異文化間教育学の展開
1.新たな異文化間教育学の展開
2.異文化間教育学の3つの論点とその展開
3.新たな異文化間教育の研究テーマ
4.「国際」と「文化際」
5.研究と教育の方法論における新しい展開
5.1 研究方法に関するもの
5.2 教育方法に関するもの
6.これからの異文化間教育学の創造
終章 異文化間教育学研究の課題と展望
1.各章のまとめ
2.今後の研究の展望
参考文献
索引
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
「異文化間教育学大系」の刊行にあたり
異文化間教育学会は1981年に設立された。学会設立の趣旨には、「異質な文化の接触によって生ずるさまざまな教育の問題を学問対象として取り上げ、その研究を促進しようとするところにあります」と記されている。学会が設立され35年が経過し、本学会では多くの研究成果を蓄積してきた。学会の研究成果を世に問うてきたのが学会誌である『異文化間教育』であり、2015年5月時点で43号を数えるまでになった。その特集テーマをみると、研究主題は多様化し、研究対象も拡大してきた。研究領域としては、コミュニケーション、日本語教育、バイリンガル教育、アイデンティティ、差別・偏見、カウンセリングなどが取り上げられてきた。さらに、多文化教育、小学校の英語教育、総合学習、多文化共生の教育、キャリアといった教育の現代的課題なども取り上げられている。研究対象や主題は多様化しているが、学会設立時の趣旨にあるように、文化間移動をキーワードにして人間形成や発達を文化間や他者との相互作用を通して把握していくという共通の課題意識がその基底にあったといえる。
(…中略…)
本企画の目的は、第1に異文化間教育学会としてこれまでの研究成果を整理分析することで、研究成果の現段階での一定の到達点を示すこと、第2にその検討作業を通して異文化間教育学研究の今後の視点や方向性を示すこと、そして第3に全体を通して異文化間教育学の大系化を図ることである。こうした異文化間教育学の大系化は、これから異文化間教育学の研究・教育を目指す人たちの重要な指針になることはいうまでもないが、多文化化する社会にあってこれまでの本学会の成果を新たな社会づくりに活かすことも可能にすると思われる。
本企画は全4巻からなる。第1巻『異文化間に学ぶ「ひと」の教育』では、「海外子女」「帰国児童生徒」「留学生」「外国人児童生徒」など異文化間教育学が対象としてきた「ひと」とその教育に焦点をあてた。第2巻『文化接触における場としてのダイナミズム』では、家族、小・中・高等学校、大学、外国人学校、地域など異文化間教育が展開する場に焦点をあてた。第3巻『異文化間教育のとらえ直し』では、アイデンティティ、差別・偏見、多文化共生、カウンセリング、言語習得、バイリンガル、異文化間コミュニケーションなど異文化間教育学会が主要な研究主題にしてきたものを取り上げた。そして、第4巻『異文化間教育のフロンティア』では、異文化間教育学の大系化や学的な自立の試み、異文化間教育学の方法論や新しい研究の試みなどを取り上げた。各巻のねらいや構成については、それぞれの巻の序章に詳しく述べられている。
各巻とも最後に参考文献と索引を掲載した。この異文化間教育学大系は、会員はもとより異文化間教育に関心を持つ一般読者や学生などを対象にしている。全4巻の各章・節を理解するための背景知識や基礎的知識を得たり、さらに各巻を読み進め学習を深めたりする上で必要となる文献を巻末に参考文献として掲載した。また、索引についてはキーワードを中心にした。全4巻の各章・節の重要なキーワードを容易に探し出せるように抽出したものである。参考文献、索引ともぜひ、活用していただきたい。
この全4巻を通して、異文化間教育学の大系化を図ることを目指し、タイトルも異文化間教育学大系とした。このシリーズが学会員だけでなく、幅広く多くの方に読んでいただくことで、異文化間教育学が広く浸透し、新たな研究、実践につながることを期待したい。
(…後略…)