目次
はじめに
I 移民エスニック集団とホスト社会
1.移民エスニック集団と先住エスニック集団
2.エスニック・コンフリクトの類型
3.エスニック資源の活用
II 移民エスニック集団とホスト社会の分析キーワード
1.ソーシャル・ミックス(社会的混合)
2.エスニック範疇化
3.移民エスニック集団の借り傘戦略
4.エスニック集団と土地・住宅取得
5.エスニック集団の記憶の場―ウィーンのユダヤ人の観光スポット―
6.移民博物館
7.国勢調査
8.インナーシティ再生とエスニシティ
9.市民権
III 2011年イングランド暴動の特性
1.2011年イングランド暴動の課題
2.イングランドにおける暴徒の特性
3.ロンドン大都市圏における暴動の特性
4.暴動と民族・貧困
IV 変容する移民地区―パリ・グットドールの居住者層と多文化性の表象をめぐって―
1.グットドール地区と移民
2.都市計画事業と多文化性
3.表象と統計
4.宗教と文化
5.地区の変容を促すものは何か
V エスニック市場にみるウィーンのエスニック景観の動向
1.はじめに
2.ウィーンにおける外国人の流入
3.ウィーンにおける外国人の居住分布
4.ブルネン小路のエスニック市場
5.エスニック景観の動向
VI ロサンゼルス大都市圏の分断化とエスニックタウン
1.都市化の進展と大都市圏の形成
2.移民とホスト社会の摩擦
3.移民とエスニックタウン
4.アジア化とラテンアメリカ化
VII ホスト社会としてのケベックのディレンマ―「ケベックの価値」憲章をめぐる論争から―
1.はじめに
2.ケベック州およびモントリオール大都市圏の宗教景観
3.ケベック党の政権奪回と「ケベックの価値」憲章(60号法案)の提案
4.ホスト社会としてのケベックのディレンマ
5.結びに代えて
VIII オーストラリアの難民政策―2000年以降の庇護申請者収容施設の役割に焦点を当てて―
1.研究の背景と課題
2.オーストラリアにおける人種・民族関係と移民政策
3.オーストラリアの難民政策の変遷
4.庇護申請者向け収容施設の実情
5.庇護申請者向け収容施設の役割
IX ニューチャイナタウンの形成とホスト社会―池袋チャイナタウンの事例を中心に―
1.世界におけるニューチャイナタウンの形成
2.日本における新華僑の増加
3.池袋チャイナタウンの形成と新華僑のエスニック・ビジネス
4.新華僑と地元コミュニティ
5.おわりに
X 「花街」からエスニック空間へ―ホスト社会・在日朝鮮人・「ニューカマー」の関係―
1.土地取得とエスニック空間の形成
2.研究対象地域と用いるデータ
3.今里新地における土地所有者の変遷と建造環境
4.エスニック空間への変容の背景
5.おわりに
XI エスニック集団成員とホスト社会との接点―ブラジル人住民の「日常」を分析する―
1.なぜ,エスニック集団成員の「日常」に着目するのか?
2.滞日ブラジル人の日常生活活動
3.エスニック集団内部に存在するグラデーションを考える
4.エスニック集団とホスト社会との接点を考える
5.おわりに
XII 増加する在留外国人と日本社会―日本社会の多民族化に向けての課題―
1.外国人ニューカマーの増加
2.エスニックタウンの形成とエスニック・コンフリクト
3.エスニック資源の活用
4.今後の課題
あとがき
索引
著者紹介
前書きなど
はじめに(山下清海)
(…前略…)
まず,I章で移民エスニック集団とホスト社会を考察する上での基本的事項について整理する。次のII章では,各執筆者が,移民エスニック集団とホスト社会を分析する重要なキーワードについて論じる。
III章からXI章までは,海外および日本における事例研究である。まずヨーロッパの事例から分析する。
長年,イギリスの都市について研究してきた根田克彦(奈良教育大学)は,2011年にロンドン北部のトッテナムにおける警官による黒人射殺事件を契機に発生した暴動を事例に,この暴動場所の空間的拡散と,被告人の年齢,エスニック集団などの属性を検討し,2011年イギリス暴動の発生要因について考察する。
フランスの移民について研究してきた荒又美陽(恵泉女学園大学)は,パリにおける移民地区グットドールを対象に,都市計画事業と地区の変容について考察する。グットドール地区は不衛生であるとみなされ,都市計画事業が実行されてきた。19世紀以来の衛生主義的な都市計画が,常に都市の新しい居住者を監視し,時には排除しようとしてきた流れの中に,グットドールの状況が位置づけられる。第二次大戦後,ここにはアルジェリア,そしてサハラ以南のアフリカからの移民が多数居住するようになった。これらのプロセスとその意義について論じる。
ドイツやオーストリアなどドイツ語圏の都市の文化地理学的研究を進めてきた加賀美雅弘(東京学芸大学)は,オーストリアの首都ウィーンにおけるエスニック市場に着目し,ウィーン独自の歴史的景観を踏まえつつエスニック景観の動向について考察する。
次に,北アメリカの事例を取り上げる。アメリカ合衆国の移民の地理学的研究に取り組んできた矢ケ﨑典隆(日本大学)は,ロサンゼルス大都市圏がアメリカ型多民族社会・分断社会を考えるための多くのヒントを提供すると捉える。まず,ロサンゼルス大都市圏の都市化を概観し,移民エスニック集団とホスト社会の衝突に注目する。そして1970年代以降の人口流入によって形成されたエスニックタウンを,大都市圏という地域の枠組みにおいて検討する。
フランス語話者が多数を占めるカナダのケベック州のエスニック地理学的研究を進めてきた大石太郎(関西学院大学)は,ケベック州における「ケベックの価値」憲章をめぐる論争を取り上げる。この憲章に対するホスト社会やエスニック集団の反応を中心に,アングロサクソン型多文化主義とは別の道を模索するケベックの現状について考察する。
オーストラリアの難民に関する研究に取り組んできた吉田道代(和歌山大学)は,難民・庇護申請者の処遇が政治的争点となっているオーストラリア,特にサウスオーストラリア州の収容施設と地域住民とのかかわりに焦点を当て分析する。
次に,日本における移民エスニック集団とホスト社会に関して検討していく。海外および日本の各地で,華人社会やチャイナタウンに関するフィールドワークを実施してきた山下清海(筑波大学)は,老華僑が形成してきたオールドチャイナタウンとは異なり,新華僑の増加に伴い,新たに形成されたニューチャイナタウンに着目する。そして,日本最初のニューチャイナタウンとして位置づけられる東京豊島区の池袋チャイナタウンの形成と地元ホスト社会との関係について論じる。
在日コリアンに関する地理学的研究に取り組んできた福本拓(宮崎産業経営大学)は,ニューカマーのコリアンが集中する大阪市生野区の新今里を事例に,エスニック空間の形成とコンフリクト表出の背景について考察する。
続いて,在日ブラジル人に関する地理学的研究を進めてきた片岡博美(近畿大学)は,静岡県浜松市を事例に,時間地理学的アプローチにより,ブラジル人のホスト社会における日常の生活活動空間・時間について,生活活動日誌データを用いて,ホスト社会におけるブラジル人の生活の特質や課題を検討する。
最後のXII章では,日本における在留外国人の増加の過程を整理し,日本におけるエスニックタウンの形成,およびエスニック・コンフリクトの現状について考察する。また,エスニック資源の活用の事例を検討し,日本社会の今後の課題について検討する。
本書の刊行が,今後の日本において,エスニック資源の活用やエスニック・コンフリクトの緩和に少しでも貢献できることを願いながら。