目次
序
第1部 被災経験と人道支援
第1章 災害が生み出す新たなコミュニティ:サイクロン・ナルギスの事例から[飯國有佳子]
1 はじめに
2 サイクロン・ナルギスの被害と被災地デルタ
3 政治化された災害と支援
4 開発援助機関の活動と現地の文脈
5 結節点としての諸組織と人々の紐帯
6 下からの組織化を可能にするもの
7 おわりに
第2章 インド洋津波災害からの復興課題:スリランカ南岸の事例から[高桑史子]
1 はじめに
2 スリランカにおける津波被害の概要
3 支援の実態と課題
4 支援の限界と克服
5 津波から一〇年が経過して
6 おわりに
第2部 集落移転
第3章 集落移転と土地権:一九九八年アイタぺ津波災害被災地の課題[林勲男]
1 はじめに
2 アイタぺ津波災害
3 被災地域の概要
4 移住と土地問題
5 おわりに
第4章 集落移転と文化的環境の再創造:南インドのインド洋大津波被災地の事例から[深尾淳一]
1 はじめに
2 災害と復旧・復興活動の概要
3 集落移転と文化的環境――住民の対応と戦略
4 まとめ
第5章 集団移転と生業の再建:二〇〇一年インド西部地震の被災と支援[金谷美和]
1 はじめに
2 被災村の概要
3 新しい村をつくる
4 段階をふんだ支援
5 生業を続けること
6 おわりに
第3部 防災と文化
第6章 開発途上国の庶民住宅は本当に災害に弱いのか:その実態と支援のあり方[田中聡]
1 はじめに
2 なぜ開発途上国の庶民住宅は災害に弱いといわれているのか
3 マリキナ・プロジェクト
4 インドネシアの被災地での住宅復興
5 おわりに
第7章 バングラデシュの「ボンナ」(洪水):巨大開発計画を超えて[高田峰夫]
1 はじめに
2 バングラデシュの自然環境と「ボンナ(洪水)」
3 巨大洪水防止計画FAPをめぐる議論
4 ボンナの受容――人々の生活との関わり
5 ボンナの広がりを考える
6 おわりに
あとがき
前書きなど
序
(…前略…)
各章について
本書は三部構成となっている。第一部の「被災経験と人道支援」は、緊急人道支援から生活再建に至るフェーズに焦点を当てている。人命を最優先とした人道支援は、普遍的な救援活動であるが、その活動をより効率的に、そして成果の大きなものにするには対象となる社会の理解が極めて重要であることが指摘されている。
飯國有佳子は、東日本大震災発生以降に国や地方自治体が注目するようになった「受援」という概念を手掛かりに、二〇〇八年五月にミャンマー南西部のサイクロン・ナルギス被災地で展開した、一般市民による支援と被災者を繋ぐ活動について述べている。(……)
一九八四年以来同国の漁村研究を行ってきた高桑史子は、スリランカでのインド洋津波の被害と復興について、歴史的・社会的な脈絡の中で、被害の影響と復興に伴う新たな課題について考察している。(……)
第二部「集団移転」は、被災したコミュニティが移転を余儀なくされ、人々が新たな土地で生活を再建していく上での課題について論じている。
パプアニューギニアの津波被災地で調査を続けている林勲男は、内陸や高台に避難した沿岸部の被災者が、新たな定住地を求めようとしたところ、土地の権利をめぐる問題に突き当たったことを紹介している。(……)
深尾淳一は、二〇〇四年のインド洋大津波の被害で移転した、南インドの三つの村落を具体例として取り上げ、文化的環境の問題について考察している。(……)
金谷美和は、二〇〇一年一月のインド西部地震で被害を受けた、染色を地場産業とする村の移転に焦点を当てている。染色工房にとって必要不可欠な水の減少と水質悪化は、災害以前から懸念されており、災害後の支援を活かして、事業の継続が可能な新たな土地を確保し、村人たちはそれぞれの家庭の事情に沿った移転を行っている様子が紹介されている。(……)
最後の第三部は、防災・減災に取り組む社会の仕組みや価値観についての配慮が、特に途上国支援ではきわめて重要であることを実例をもって指摘している。
開発途上国の一般住宅の耐震性の低さは、建設技術が未熟のためであるとの理由で、先進国からの支援は、建設職人に対する技術指導などが行われてきた。しかし、そうした支援対象となる地元の建設業者の実態に関しては、ほとんど把握されていない。田中聡は、途上国に普及している「枠組組石構造」の住宅の建設プロセスとそれを担う職人の世界に注目する。(……)
高田峰夫は、バングラデシュの洪水災害対策としての巨大プロジェクトの経緯を扱う中で、住民たちがいかに自然と対峙・共生し、どのようなローカルノリッジ(在来知)を獲得してきたかを理解することの重要性を訴えている。ベンガル語で洪水を表す「ボンナ」は、災害を引き起こす洪水だけでなく、肥沃な土壌をもたらしてくれるものでもある。自然現象とそれが災害に至る実態すなわちハザードの理解に加えて、自然環境の中で災害リスクと共に暮らす人々についての理解も不可欠であることを指摘している。(……)