目次
はじめに
第一章 人ありて
先生と「ハチ公」の物語――上野英三郎とハチ公
「鉄道唱歌」誕生秘話と鉄道紀行物語――大和田建樹と宮脇俊三
マンボウ先生とショートショートの名手――北杜夫と星新一
「権威」に屈せず、「病気を診ずして病人を診よ」――北里柴三郎と高木兼寛
漂流体験と異文化探検――浜田彦蔵(ジョセフ・ヒコ)と河口慧海
オリンピックの星、東京六大学野球の華――西竹一(バロン西)と宮武三郎
「吉田学校」の師弟――吉田茂と池田勇人
第二章 維新を跨ぐ
勝海舟を育てた男、岡っ引き「半七」を生んだ男――勝小吉と岡本綺堂
「桜田門」と「生麦」――薩摩藩有村家兄弟・有村次左衛門と海江田信義
「会津戦争」を超えて――会津藩山川家兄弟・山川浩と健次郎
盟友とその妻――大久保利通と西郷いと(隆盛夫人)
昨日の敵は……、五稜郭の対峙、その後――大鳥圭介と黒田清隆
第三章 近代化の光と影
近代化とお雇い外国人――キヨソネとフルベッキ
「教育」立国と「哲学」の誕生――森有礼と西周
先端医学と文芸サロン――久保猪之吉と稲田龍吉
『女工哀史』と『何が彼女をさうさせたか』――細井和喜蔵と藤森成吉
闘うジャーナリスト――木下尚江と島田三郎
第四章 激動の時代を刻む
民権運動の土佐人――中江兆民と植木枝盛
「財政の神様」と「松方コレクション」――松方正義と松方幸次郎
「日露」の攻防・戦役と外交――乃木希典と小村寿太郎
アジアの架け橋――金玉均と頭山満
悲劇の宰相――浜口雄幸と犬養毅
時代を刻んだラジオ~放送誕生と「玉音放送」秘話――後藤新平と下村宏
第五章 文学と芸術の新時代
『金色夜叉』と『武蔵野』――尾崎紅葉と国木田独歩
奇縁の歌人――斎藤茂吉と吉井勇
『銀の匙』と『隅田川慕色』――中勘助と芝木好子
「エスプリ」と「デザイン」――藤島武二と和田三造
『夫婦善哉』と『トラ・トラ・トラ』――豊田四郎と山村聡
“女形の至宝”と“海老さま”――六代目中村歌右衛門と十一代目市川團十郎
シャンソン、パリ、オー・シャンゼリゼ――石井好子と安井かずみ
あとがき
都立青山霊園見取り図
参考文献
前書きなど
はじめに
神宮外苑に近い都心に、豊かな緑に囲まれた一画があります。最近増えてきた高層ビルの上層階から見下ろすとき、この緑の一画は際立った鮮やかさを見せています。それが、東京都立青山霊園です。
ここは、一八七四(明治七)年開設された日本で初めての公営墓地で、その広大な敷地とともに、その歴史の古さから、この国の近現代史を彩った多くの人々の眠る場所としても知られています。
その中に一歩足を踏み入れると、まるでタイムスリップでもしたかのように、錚々たる著名人たちの墓碑に出会います。歩を進め、併せて関連の資料や文献を渉猟するとき、それは新しい発見と興奮に、私たちを誘います。
先に刊行した『東京多磨霊園物語』は各メディアで取り上げられ、版を重ね、読者の方々から好意的な反響が数多く寄せられました。その多くは、時代を彩った懐かしい人々に出会えた感動と、霊園が単なる死者の埋葬の場所であるに止まらず、歴史の貴重な証言者であるということへの気付きの喜びでもありました。
それはまた、著名人たちの墓碑を一つずつ訪ねて歩くのではなく、同じ霊園に眠る、関連のある二人を一組にしてワン・テーマとして組み合わせ、それを組み立てて物語を構成していくという独自の手法への共感でもありました。それはいわば、お墓を“点”としてではなく、“線”として結び、捉えなおしていくということでもありました。そのことによって、時代や人物が、より鮮明に私たちの前に立ち現れて、それが時代や世相を雄弁に物語ってくれるという発見への誘いでした。
本書でもその方法に基づいて、この歴史の宝庫に深く分け入ることにしました。そうすると、ここでも新しい「点から線へ」の出会いと発見がいくつもありました。
(…中略…)
青山霊園は、多磨霊園に比べると面積はそれほど広くありませんが、その歴史は多磨霊園より半世紀ほども古く、それだけに日本の近現代史の、より凝縮された宝庫であり、証言者であるように思えました。維新前後から、近代国家の建設、いくつもの戦争を経ての軍事大国への盲進、太平洋戦争の敗戦、戦後の復興と経済成長、そうしたこの国の歩みや世相を、この霊園は鮮やかに映し出す鏡でもありました。
かくて、読者の皆さんと共に辿るこの霊園探訪は、お墓を「巡る」楽しみから、人や時代や世相を「知る」喜びへと、私たちを誘ってくれるように思います。それはまた、いま私たちが、この混迷を極める時代状況と真っ直ぐに向き合い、これからの人生を豊かに生きるための少なからぬ示唆を読み取ることにつながるようにも思います。
喧騒に満ちた日常からひと時離れて、この奥の深い歴史の宝庫を訪ね、過ぎし日の人々や時代に思いを馳せ、思索を深めるのも、充足のひと時になるかもしれません。